コラム
2006年05月08日
ドラマを生み出す社史探偵 日本ペイント・片岡孝夫さん
見ず知らずの人からの何気ない一本の電話が、埋もれていた会社の歴史を呼び起こす―。日本ペイント広報室の片岡孝夫さんは、社史の探偵といえる。
あるとき、お客様センターを通じて片岡さんに大分の臨床心理士から連絡が入った。「91歳の認知症のおばあさんが突然歌いだした歌の中に『にほんぺいんと』の歌詞があるのです」と。
調べてみると、昭和7年~15年まで歌われていた大阪工場歌であることが分かった。おばあさんはかつて大阪工場の従業員だったのだ。すぐに片岡さんは大分まで駆けつけ、おばあさんの歌を聞いた。耳が不自由なこともあって、メロディは不安定だったものの、1番、5番の歌詞は完璧に覚えていたという。
おばあさんは女学校を卒業後、日本ペイントに入社。当時、製缶場で缶の底のパテ付けやスプレー塗装の仕事に従事していた。その後自動車メーカーに勤務する夫と結婚するが、大阪工場で働いた記憶は、いまだ色褪せることのない記憶として残っていたのだろう。
「ネタを捨てずに足で調べるのが広報の原則です」。片岡さんの広報マンとしての自負が、失われた過去に筋書きを与える。
片岡さんは現在、3カ月ごとに発刊している社内誌で「歴史ものがたり」を連載している。2005年5月号に掲載した「護り抜くぞ 餘部(あまるべ)鉄橋百年まで」でも、ある業界紙で見た古い宿帳が当時を知るきっかけとなった。これは、大正時代に同社の塗装職人が潮風吹き荒ぶ餘部鉄橋を命をかけて腐食から護り続けた話。宿帳の存在を知った片岡さんは、電話帳の片っぱしから電話し、当時職人が泊まっていた宿の経営者の子息を探し出す。またその宿帳から静岡・蒲原に職人集団がいたことを知る…。一度つながった糸は際限なく広がっていく。
片岡さんは、この社史調査にある思いを込める。「社内を見ていると、自分の成績を上げることに追われているように見えます。そんなときだからこそ過去から学ぶべきことはたくさんある。ユーザー、お客様のために仕事を追求してほしい」と。
次の題材は初代社長、田坂初太郎氏がテーマだという。(近藤)
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