インタビュー
2008年04月14日
LCC、重防食塗装系への転換へ
独立行政法人 土木研究所
材料地盤研究グループ(新材料) 守屋進
氏
4年前、鋼橋塗装のコスト削減に関する共同研究を公募し、塗料メーカーなど7社から応募があって検討したところからです。新規塗料の提案、塗装方法の提案がありましたが、山一化学の剥離剤は面白いと思いました。しかし、建築用のため鋼橋用の一般塗装系の旧塗膜が剥離できるかということで共同研究を始めました。
やはり溶解性を高めるテーマが一番大きかった。何種類も配合したサンプルを塗装試験片に適用してその効果を検討することを繰り返しました。山一化学側の対応も早く、1年余りでめどがつきました。
鋼道路橋は全国に約7万橋ありますが、そのうちの約80%である約5万橋が、一般塗装系であるA・B系で塗装されており、100年を超えて鋼橋を供用するためには重防食塗装系であるC系に塗り替えていく必要があります。このためには塗装のパフォーマンスを高め、工期やコストの適正化も併せて考えなければならないと思います。
下地処理についてはこれまであまり重視されていませんでした。鋼道路橋塗装便覧でも電動工具処理が主流でした。しかし、下地処理を適確に行わなければ、いくら耐久性に優れている重防食塗装系を適用してもその性能を十分発揮させることはできません。私個人としては塗り替えには旧塗膜を完全に除去し、そして重防食塗料を施工するのがベストと考えています。
大別して電動工具処理、ブラスト処理、剥離剤の3工法がありますが、いずれの工法にも一長一短があることは事実です。私自身もかつて実橋(側道橋)で試験的に電動工具による2種ケレンの現場に立ち合って、電動工具処理ではディスクサンダーを操る作業者の肉体的負担が大きく、作業性に限界があることが分かりました。また現場ブラストにはモイスチャーブラストやバキュームブラスト、スポンジブラストなど粉塵の生じにくい工法が開発されていますが、粉塵化した塗膜と研掃材を含めた回収・処理が課題です。
またブラスト工法や電動工具による工法は塗膜を細かく粉砕してしまうため、塗膜ダストの飛散を完全に防止することが困難です。更に有害物質を含む産業廃棄物が大量に発生し、特管処理しなくてはなりません。処理施設の確保も難しくなっています。今後更にクローズアップしてくるのが作業者の安全・健康確保の問題。従来のブラスト工法や剥離工法は、作業場が防護ネットで囲われた準密閉環境であり、発生する粉塵や塩素系溶剤の臭気など作業者の健康面の心配が付きまとい、周辺環境への配慮も必要です。
旧塗膜は塗り重ねられていますから、塗膜への浸透性が良くなくてはなりません。特殊なアルコール系を主成分としており、『インバイロワン』を塗膜表面に塗ると濡れ性が高いため、速やかに毛細管現象のように深く浸透し、約24時間で鋼材面に到達し、塩化ゴム系旧塗膜との界面を軟化させ付着力をなくします。VOC、臭気、有害物質フリーの3条件に加え、防食LCC(ライフサイクルコスト)の上で有望な工法だと自負しています。
第8回国土技術開発賞では最優秀賞(国土交通大臣賞)を受賞し、第2回ものづくり日本大賞(内閣総理大臣賞)を受賞しました。工法としての評価をいただいたと考えています。現状『インバイロワン工法』は、実橋に適用する前に試験施工を行い、その効果と適切な使用量(概ね1kg/m2程度)を決め、本施工を実施することになります。昨年度はおよそ50,000m2の実橋に適用され、今年度は更に適用されるようになることを期待しています。
新工法ですから積算ができないという声があります。この点は実績データから積算の参考になる情報を提供していきたい。コストについては一般塗装系で塗り替えるケースでもコストの約半分を足場架設コストが占めています。その点からも塗替え周期を長くすること、すなわち塗装の長期耐久性を目指すことは、鋼橋のトータルコストを削減することにつながります。つまり防食LCCというコンセプトを定着させていくことが鋼橋維持の社会コストを低減する近道になります。
ストック社会といわれながら、ストックを適正に維持管理するためのレベルが旧態依然としたものでありました。重防食塗装系への変更にも時間がかかった。目先のコスト削減ではどうしようもないところに来ています。抜本的な防食対策の構築が社会的に要請されてきています。
一般塗装系でも適正にメンテナンスされて100年以上の耐久性を保持しているものもあり、耐候性に優れたふっ素樹脂塗料を組み合わせることで、重防食塗装系の性能は十分に発揮されることになります。100年から200年の遠大なスパンで鋼構造物の維持管理を考える時代になっており、重防食塗装は鋼材を周囲の環境から遮断する機能を有している唯一の防食法です。