インタビュー
2008年11月20日
施工品質には"歩掛り"確立 仕様書と現場実態のギャップ(建築塗料・塗装特集2008<2>から)
よこはま建築監理協同組合
専務理事 田中正人氏
鉄部塗装の例で説明しましょう。鉄部の塗替えは1種ないし2種ケレンを行う必要がありますが、その際「活膜」と「死に膜」との定義がありません。サビを除去し地金まで露出させるか、ペーパーをちょっとかけただけで済ますかは職人さんの判断に任せているのが実態です。改修共通仕様書には総論的なことしか記載されていません。つまり教科書がないのです。
改修実態を踏まえた仕様になっていないのです。例えば塗装の歩掛りを提出するよう頼んでも、ほとんどのところが作成もしていないし作れないというのです。しかし歩掛りが出せなければ積算や見積もりはできないはず。ところがその根拠を示さないで改修の塗装工事が行われています。
4-5年前、我々の仕事の中心は瑕疵問題でした。コンクリートのひび割れ、内部鉄筋の暴裂、タイルの剥離など。新築して5年くらいでタイルの浮きが発生するケースもあり、その後始末が多かった。コスト問題はありうべき改修の方向性が見えないところに起因します。鉄部塗装でいえば歩掛りを基に平米2,000円でやるのか、1,200円でやるのかの違いばかりでなく、1,200円の単価でも腕の確かな職人さんは活膜か否かを見極めきちんとやる。こうなると腕のある職人さんが損をしている事実がある。
塗装の場合、1級や2級の技能資格が設けられていますが、これは新築をベースにした内容の資格で、改修や塗替えの技能を保証するものではありません。塗装以外の技能資格も同様です。近い将来"改修技能士"という資格が必要となるでしょう。更にいえば改修工学という学問がその背景に確立されなくてはならないと思います。
大手の施工会社は(改修)技能の低下と実態とのギャップ、特に職人技能の低下に危機感を抱いています。改修の在り方を抜本的に見直さなければ、自分たちの位置付けが希薄になると感じているのです。主要な施工会社が協議会を作り、対策に乗り出そうとしています。
当初から我々は瑕疵問題に正面から取り組み、このことが結果的に専門ノウハウを蓄積するのに役立ったと思います。修繕経験と工事の指導力というものは現場の場数を踏まないとなかなか身に付かないものですから。また組合という形式をとっている例は少ないのですが、組合だからこそ建築(意匠)、構造、設備、積算という各分野の工事管理のプロの力を統合した総合力が発揮できていると自負しています。
変化のポイントは修繕費問題が壁となっています。積立金が不足している組合も目立ち、改修費徴収の合意ができない一方で、建物の資産価値が低下し、メンテナンス不足による一層の価値下落に拍車をかけるといった構図が見られます。これまでの長期修繕計画では改良や建替えという時期を明確には設計してきませんでした。今後は資産の運用との側面からアプローチしていかなければならないでしょう。しかしそこで難しいのは居住者の意識の差で、100人の居住者がいればその何割かは流動性が高く定住意識が薄いため、改良や建替えまでの合意形成が進みにくいといった事情があります。
現在400戸・4棟の集合住宅の改修の監理を行っています。それぞれ施工業者が違って仕上がりのグレードに差が出てしまいました。色ムラが棟によってはっきり出たのですが、足場はもう外してあり、塗り直しには大きな費用がかかります。改修における美観についての基準がなく、こうしたことも起きてきています。改修の品質や性能と直接関係ないことですが、発注者である居住者からすればクレームの対象になってもおかしくない。監理する上でも対処に苦慮しています。
実は組合で塗料メーカーの外装材の耐候性テスト(3社)を実施したことがあり、汚れは別としても優劣が出ました。メーカーはよく塗料は半製品だからという言い方をしますが、それなら現場でどう塗られているか一度くらいはチェックした方がいいと思います。そのために塗料ディーラーも介在しているのですから、その機能を利用して塗膜チェックをする体制が必要なのではないでしょうか。塗料ディーラーもデリバリー屋になり下がらず、もっと現場での施工をサポートする能力を持たないと、どこのディーラーでも同じということになってしまう。
プロフィール
◇よこはま建築監理協同組合(理事長・永田定夫氏)は平成10年6月5日に設立され、今年で10年の節目を迎えた。横浜市の認可を受け、建築・構造・設備の建築士を組合員(13社)に、修繕と改良の専門コンサルタントとして活躍。総合的な視点で修繕だけでなく資産価値向上のための改良提案にも取り組む。現場を知る数少ない専門集団として注目されている。
◇所在地:横浜市中区山田町5-1フロール山田2-109 TEL045-252-9207