2017/03/28 16:01

ペイントは空間を豊かにする(内装塗料特集2017より)

ブルースタジオ 執行役員 石井 健

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リノベーションの第一人者である一級建築事務所のブルースタジオ。同社の設計する物件にはペイントが使用されるケースが多い。ペイントをどのように活用しているのか、一般消費者への訴求方法などを、同社執行役員の石井健氏に聞いた。

御社の設計におけるスタンスは。


「我々は『物件から物語へ』をコンセプトにしています。その物件のある意味や価値に向き合うということです。我々がリノベーションに関わりだした2000年ごろは、働く場や住宅ではほぼストックの活用という考え方は浸透していなかった。しかし、人々の考え方が多様化していく中で、今は社会的にリノベーションが当たり前の選択肢として受け入れられる時代になってきた。現在では基本的なスタンスは建物の使い方、個人が所有する建物の場合は資産性と住み手のクリエイティブ性、時間軸を踏まえながら設計を行っています。暮らす、働くということの延長線上で建物が蓄積してきた歴史やどのように活用されてきたのか、どんな意味があったのかを再び解釈しその物件の新たな価値を見出すということです」

その中でペイントをどのように活用しているのですか。


「店舗などではペイントはよく使われていますが、我々は創業当初から住宅内装でもペイントを使用しています。まず、ペイントを使うメリットとして光の雄弁な表現により空間を豊かにする効果があります。視覚は人間の空間を認識する上で大部分を占めており、それに訴えるのはとても重要なこと。ペイントを利用することでより視覚的に光を感じられるというのが根底にあります。また、無垢材、天然素材を利用することも多く、実際に触れることに価値を見出し、時とともに味わいが出る経年優化を好む人たちが増えています。生きている素材を使用するときには天然素材はペイントと相性がいい。ただ、どんな材料を使うのであれ、一番重要なのはどうすれば空間をより豊かに感じることができるかを考えるということです」

ペイントの使い方として具体例を教えてください。


「ここ20年ぐらいで商業施設やショップが家に入り込んできました。例えば『こんなカフェに住みたい』などといった要望です。そうすると一般的には天井を高くするため天井材を張らずにコンクリートの現しにします。しかし、そうすることでコンクリートの荒々しさが際立ってしまうのでペイントでマットにするという使い方をしています。これはリノベーションをする人たちにとってはひとつのスタンダードになっています」

石井さんが考えるペイントの魅力とは。


「先ほども触れた光をきれいに出せるところはもちろん、色のバリエーションが非常に多く、細かな設定ができることが最大の魅力だと思います。特に同系色でのグラデーションなどの表現はペイントが得意とするところ。ただカラフルなだけではない色彩空間を作り出すことができる。色彩の深さは他の内装材よりも圧倒的に優れています」

内装でペイントの広がる余地はありますか。


「まず、塗装の良さが一般の人には自覚されていません。美術館、商業施設、飲食店などは空間を豊かにするためのデザインとしてペイントが多く使用されています。しかし、それを自分の家に採用する発想があまりない。例えば自分の家をホテルのようにリノベーションしたときに『私の家じゃないみたい、ホテルに住んでいるみたい』といった感想が聞かれることがあります。これはホテルみたいな部屋を求めてリノベーションした結果、求めていた空間の気持ち良さに初めて気付くということ。この気付きの機会をどうやってつくるかがポイントになると思います」

業界としてできることはありますか。


「塗装を施した空間をもっと感じてもらうことが必要だと思います。しかし、忘れてはいけないのは、その前提にはなぜプロがペイントを使うのか、なぜ美術館ではペイントが多用されるのかといった土台となる基礎的なリテラシー(活用能力)が必要で、これがないと"何となくみんなで塗って楽しかった"で終わってしまいます。例えば光とペイントの関係など基礎となる部分を訴求することで、塗装の価値、空間の豊かさがより深く分かります。その上で、塗装を楽しむことができれば広がりが出てくるでしょう」
「一方で、マグネットペイントやスケッチペイントなどを組み合わせて機能面で訴求するという考えもありますね。どちらも人気が高くDIYなどでも取り入れやすい。しかし根底にあるのはペイントで何が実現できるかを訴えることです。壁の色を変えたいというユーザーはどうやったら自分好みにできるかを考えています。その選択肢にはペイントもあるし、壁紙もあります。その中で、ペイントであれば色彩や表面の質感などをポイントに伝えていくことになると思いますが、いろいろな選択肢がある中でペイントのできることを訴えていくことでその素晴らしさがより鮮明にユーザーに訴求できると思います」

ありがとうございました。

◆プロフィール
石井健氏:1969年福岡県生まれ。2001年よりブルースタジオ。これまで多種多様なリノベーションを手がけており、著書に『リノベーションでかなえる、自分らしい暮らしとインテリアLIFE in TOKYO(エクスナレッジムック)』などがある。今年1月からは家づくりのプラットフォーム「HOUZZ」で連載を開始。