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2009年06月01日
時代や地域の変化を「匂い」として読む アサヒ塗装(静岡)
冨高社長がこの世界に入ったのは17歳のとき。画家でもあった父親と看板業を興したのが始まりだ。そのうち得意先からの依頼で住宅の塗装も手掛けるようになり、「仕事が深夜に及ぶ看板業と違って陽があるうちに仕事が終わり、なによりも実入りが良い」住宅塗装にシフト。以来30年近く住宅塗り替え一筋でやってきた。
当時は「施工予定物件で半年先まで手帳がびっしり」という状況。訪販などの受注体がまだ存在していなかったということもあるが、冨高社長が独自に積み上げた塗り替え需要開発のためのノウハウによるところが大きい。
それまで営業トークなど誰にも教わったことがない。施主への説明でも最初はしどろもどろだ。施主にそっぽを向かれるなどあらゆる場面を想定して「1人ロールプレイング」の繰り返し。多少自信がついたと思っても「お客さんの前で冷や汗をかく場面もしょっちゅう」。そのたびに打ちのめされ、また1人ロープレを繰り返す。「そうしないと生活ができない」から必死だ。
話の聞き方、間のとり方、話題のふり方、興味の引き方などすべて実践で体に浸み込ませて「お客さんと心が通じ合う」営業手法を身につけていった。
そして工事内容。冨高社長も親方として現場に入っているが、画家の血筋を引いているだけにとにかく細かい。「下塗りだけで2~3回塗り、仕上げまでに5~6工程は当たり前」といった徹底ぶり。もともと得意な配色のセンスも光り『うちもアサヒさんにやってほしい』と評判を呼ぶようになる。
市場は新築ラッシュに沸き立ち、住宅の塗り替えなど軽視されがち。それだけに同社の存在が際立ったということもあるが、もちろんそれだけではない。独自のマーケティングセンスが鍵を握っている。
データの厚みが需要を浮上させる
「あるエリアで順調に獲れていた物件が、パタリととれなくなったりする。時代や景気などさまざまな要因が絡み、市場は刻々と変化している。その潮目を読めないと効果的な営業はできない」というのが経験に基づいた持論。
地域のさまざまな側面を観察するため、お客さんを訪問するときなど「来た道と同じ道では戻らない」。さまざまな事象に興味を持ち、常に「なぜ?」を繰り返しながら物事を観察していくのが冨高社長の性分。そうした視点で地域や個別の物件を丹念に回っていると、その時々に即した「匂い」のようなものが浮かび上がってくる。
それに対して、チラシ、ご案内訪問、電話など営業手法を「連結して」展開。細分化したエリアあるいは個別の案件にいたるまで仮説、実地、検証を繰り返しながらデータを積み上げていく。その厚みこそが同社の地域密着マーケティングの根幹だ。
「今攻めても反応がないところに攻めてもムダ。反対に打てば響くように注文が得られるエリアと時期の組み合わせもある。また、データを分析するとお客さんの属性や嗜好ごとに効果的な営業手法が浮かび上がり、それを試してまたデータに反映させるとますます精度が高まってくる」と、およそ町場の塗装店とは思えないマーケティング手法を既に展開する。
先日初めて現場見学会を行った。結果は「6の6」。つまり現調の予約が10割だ。「現場見学会はショールームの代わりにもなる。またひとつ営業手法を身につけた」と言うように、時代や地域の匂いを読みながら常に変化させている。その柔軟性も同社の強みだ。
お客さんを前に「仕事を下さいといった話は絶対にしない。そうすると価格だけの関係になってしまう」からだ。「自分の場合はお客さんの方から『アサヒさんに頼みたい』というケースがほとんど」。
最近はOB客からの注文もかなり増えてきた。そうしたOB客や地域の住民から「"アサヒさん"と親しみを込めた名前で呼ばれるのがことのほか嬉しい」と顔を崩す。地域に根付いていることを感じる一瞬でもあり、「その地域やお客さんを裏切るような仕事はできない」と気を引き締める言葉でもある。
現在、同社の社員は14名。営業4名、内勤2名、職人9名といった内訳。それぞれに目標を持たせ、その達成度に応じた評価給制度を採っている。
目標に対しては「各人がやりたいと思う3の目標を持たせ、それをクリアするための1と2のステップを教え込むかたち。目標に届きそうにないときは、なぜそうなるのか、どうすればクリアできるのかを皆で話し合い解決策を見つけていく。だから当社はミーティングが多いし、それが社内の連帯感を育むと同時に社員のモチベーション維持にもつながっている」と説明する。
冨高社長は多くの同業者から兄貴分のように慕われている。「全国の仲間」から相談などの電話が掛かってくるのはほぼ毎日。泊りがけで同社を訪問し、勉強していく同業者も多い。講演を頼まれて自社のノウハウを披露することもしばしばだ。「自分のやってきたことが、志を同じくする仲間に少しでも役に立てば」と何の惜しげもない。
冨高社長を中心に結成された全国の仲間の精神的な結びつきの会「ジャパンペイントマスターズ」の会合の後などは「まるで恋人と別れるような気持ちでそれぞれの会社に帰っていく」ほどにつながりが深い。「自分の仕事に対する誇りや情熱を持ち、心を込めて生活者に向かう同業者が増えれば、塗装業界のステイタスが変わる」と信じる。
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