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2009年11月15日

マーケット:国内

トピックス 生活者感動、プロを刺激する アレスシックイ「塗装体験教室」の意味

段r買う関西ペイントが開催した「アレスシックイ塗装体験教室」(10月14日付既報)は興味深かった。まずは単純に大手塗料メーカーによる生活者対象のイベントはこれまでほとんどなく、同社にとっても初体験であった。


それだけに教室開催までには、内部的には曲折があったようだ。これは生活者に対するダイレクトマーケティングの有効性についてのコンセンサスの問題。「本当にどれだけの効果が見込めるのか」といった疑問は根強いものがある。当然、そこには費用対効果が絡む。全社挙げてコスト低減を実施している同社にとって、効果の見えない販促はしにくい環境がある。
しかし、こうした抵抗を押し切る力となったのが不況というから皮肉だ。同社の中核であった自動車・工業用が一時は壊滅的打撃を受け、事業バランスの見直しを迫られ、相対的な安定感のある汎用事業、とりわけ建築用分野の存在感が高まった。同分野のシェアは第3位。トップであるエスケー化研とは大きく水を空けられている。営業力ばかりでなく、商品体系の厚みなどが壁となって、その差は拡大する傾向にあった。現場サイドの営業マンにも一部あきらめムードも。


小林正受社長は就任以来、一貫して「汎用を第2のコアに」と訴えてきた。世界トップクラスの塗料メーカーの条件として、汎用事業の優位性は不可欠であるとの判断と、汎用事業はOEM塗料と違ってメーカーの戦略性で市場を創造できるとの読みがあるためだ。しかし、何をテコにしてとなると、なかなか難しい。
また、昨年後半からの急速な塗料需要減退を受け、小林社長はマーケティングの基点を見極める上で、化粧品業界のベンチマークを指示。小林社長は「入社当時は塗料業界の売上規模は化粧品業界の倍以上であった。それが逆転され、現在は倍以上の差となっている。この理由(なぜ)を追求することで、汎用事業の再活性化の種(たね)が発見できる」と踏んだ。と同時に化粧品と塗料の製造プロセスは同じ、しかも人と建物の違いはあれ、いずれもメイクアップするという意味で共通点が多いとの視点もある。


そもそも塗料業界がベンチマークしてきたのは鉱工業生産動向。いわばモノ作り指標と連動して、塗料の出荷状況が変化する。確かに約20年前までは相関性はあった。
だが自動車メーカーのグローバル生産体制の強化に加え、高度情報化社会への移行、ストック需要の拡大など、鉱工業生産に反映されにくい経済社会状況となってきて、相関性よりもかい離する傾向となってきた。これに対し化粧品業界はGDPとの相関を維持。GDPと塗料出荷動向はほとんど相関していない。


その理由は2点に要約できることが分かった。
第1点は、化粧品は生活者のトレンドを創るマーケティングが常に内在化され、消費を刺激するスタイルがある。男性化粧品が伸びているのも、化粧品メーカーの戦略性の成果ともいえる。高齢者向けの化粧品など、セグメントの明解なところもマーケットありきの証左だ。
第2点はモノ作りの発想ではなく、消費者の「こうありたい」「こうあったらいいな」といった願望をイメージさせるプロモーションがある。イメージを売るといえるかも知れない。これがトレンドとなり、流行を起こしていく。
いずれも塗料業界のマーケット活動にはなかったものだ。塗料をモノとしてしか売ってこなかったからだが、反対に需要家からすればひとつの資材(素材)にしかすぎない。塗料がカラーリングなどで商品価値を高める要素を認めていても、コスト評価には反映されない。原材料コストのひとつの位置づけなのだ。


アレスシックイの発端はチャンスであった。従来であれば塗料販売店の流通で売っていくスタイルをとったであろう。しかし、この商品の性格は高付加価値で施工が一般塗料より難しいなど、販促方法を変える必要に迫られた。ここで化粧品業界をベンチマークした成果が生かされることになる。
漆喰の持つ特性を化粧品のようにイメージ性の高いものとする。機能を訴えるにしても、生活者視点からイメージできるような工夫がされた。PRは一般紙に広告掲載(カラー)した。手応えは大きかった。反響の大きさを例えるなら畳業者から「室内の家具の移動は得意なので、施工を学び仕事としたい」など想定外の声もあった。


同社がアンケートを実施したところ生活者の塗装への関心は高い。内装に塗装を選択したいとの回答は40%を超えた。その一方で90%以上は壁紙の上から塗れることを知らないことも分かった。この結果から同社は、室内(インテリア空間)は宝の山との認識を深めた。外壁に比べ、内装分野は天井を含めると1.5倍の壁面がある。塗装需要を喚起できれば巨大な市場が出現する。しかも生活圏に塗装が入ることにより、非日常性であった塗装に親近感が生まれ、生活者レベルからブランドビルディングすることが可能になる。
外装から内装に入ることは難しいが、内装でブランド力を持てば、外壁は自ずとついてくるパターンとなる。また内装分野はペイントカラーなど意匠価値を発揮しやすい利点がある。壁の色は塗料が主役となれるポテンシャルを有している。


ダイレクトマーケティングの方向でもうひとつ大事なポイントとしたのが施工の問題。外壁にしか目のいかない塗装業者を内装に誘導するにはモチベーションが必要だ。重層下請構造にあって、生活者との接点のない塗装業者に技術(わざ)を売るやりがいを提供する。単価にはない魅力がそこに発生する。
そこでマイスタークラブを結成することになるが、アレスシックイの施工要領のマスターのみでなく、生活者との対応力などを研究した。プロの誇りと生活者目線でのコミュニケーション力があれば、技術を売る世界が開けてくる。この主旨に賛同した塗装業者をマイスターとして認定していった。これに同社は半年間かける。


塗装体験教室ではマイスターの活躍が目立った。参加者(生活者)はプロの作業を真剣に見つめ、自分で体験しプロがアドバイスする。自然とコミュニケーションが起きる。参加者は一様にプロの技術を目の当たりにして感動。この効果はてきめんに現れ、親切にアドバイスしてくれたマイスターに会場内で施工を依頼する光景も。あるマイスターは「自分たちの技術がストレートに伝わるのは生活者だと思う。下請仕事はやってナンボの世界。やりがいとは無縁。素人考えであっても、よく聞いてあげるだけで生活者は安心する」と語る。
一方参加者のある女性は「壁紙を貼り替えたばかりで残念。漆喰は魅力的なので機会があれば自分でも塗ってみたい。塗装をとても身近なものに感じ、参加して楽しかった。こうした機会をもっと増やしてほしい」と感想を述べた。


もうひとつ興味深かったのは、関ペのスタッフの動き。マイスターを支える黒子に徹していたが、塗装体験教室に賭ける情熱を感じた。これまでの営業パターンの塗料販売店に行ってサポートする形からは見えなかった市場の核心に触れる喜びがあったように思う。それは塗料の価値を実現するために塗装までを自分たちでプロデュースする喜びと言ってよいだろう。営業スタイルの変革にもつながりそうだ。


ひとつ懸念されることがある。塗装体験教室に塗料販売店関係者が参加していたが、その反応は「平米4,000円もしては売れない。もっと下げられないか」といった声ばかりで、こうしたイベントの戦略性を認識している人は少なかった。塗料販売業の感度の劣化が心配となった。


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