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2011年09月09日
マーケットeye・カラーパレット "私たちはペンキ屋です" 挑戦するカラーワークス
カラーパレットは築40年超の古ビルをオールペイント仕様でリノベーション。ペイント力でリフォームという次元ではない。建物の構造や形状は最大限生かしつつ、クリエーティブにリボーン(甦り)させてしまったのだ。
このビル自体は地下室のある4階建てでエレベーターもない。半年かけてカラーワークスの秋山千恵美氏の他、プロデューサーに小松裕行氏、設計士の吉村靖孝氏の3人がスクラムを組んだ。「わいわいがやがや言い合って」(秋山千恵美氏)プロジェクトを進行させた。小松氏は東神田の再開発で辣腕を振るっている実力派。吉村氏は日本の若手建築設計家40人の中の1人に選ばれた気鋭の建築設計家。両人とも塗料・塗装を扱うのは初体験に近い。特に吉村氏は自然素材にこだわるタイプで「正直言って塗料に偏見を持っていた。できれば使わない方がいいとの感覚しかなかった」と話す。
ところが塗料の持つポテンシャルは両人の先入観を見事に裏切った。小松氏は「まちの再生に塗料の利用価値がどれだけあるのか分からなかったが、今回のプロジェクトで実感することができた。塗料そのものの多様性といろいろな機能を活用していくと、もっと面白いまちづくりができることを確信。逆になんで塗料をもっと活用しないのかが不思議なくらい」と非常にポジティブに評価する。
一方の秋山氏はプロジェクトの成功についてこう指摘する。「残念なことに塗料のポテンシャルは社会にあまり認知されていません。ですから中途半端に塗料のことを知っている方よりも、白紙の状態から発想してくれる実力ある若い方に頼みたかったのです」。その狙いはピタリと的中した。
カラーパレット、共振する情報媒体
ここでまずカラーパレットそのものを紹介しておこう。敷地面積100m2ほどの狭小ビル。地下と1階スペースはレストランとしてテナント化。2階から4階がカラーパレット。屋上は植栽されたガーデンスペースで、パーティなどに利用されている。
外観が個性的で、ひと目でカラーパレットを主張していると分かる。ファサード(正面外壁)にはカラーパレットの名前通り、カラーサンプルをデザインしたパレットが配されている。また色彩のプロフェッショナルであるカラーワークスならではの隠し味として、ファサード、側面の壁のホワイトカラーのトーンを変えている。西側の夕日の当たる壁のホワイトの見えの違いをコントロール。
カラーパレットの2階スペースはショールームコーナー。商材の陳列ではなく、商材を使ったウォールペイント、ウォールペーパーなど、カラーワークスのポリシーである「魅力ある壁」を見せ、来客を刺激する。
3階は壁面にあるカラーチップのディスプレイに圧倒される。用賀のショールームのバージョンだが、違っているのは周辺の機能。このスペースは商談やコンサルティングの場であるばかりでなく、小型の自動調色機(オートディスペンサー)による創色機能がある。カラーサンプルをその場で提示できる他、塗装教室などの研修にも利用している。カラーワークスのオフィスもこのスペースにある。
4階はカラーパレットとなって初めて装備したスペース。オープンスペースとして外部に開放している。1年間で9回のイベントがこのスペースで開催された。ジャンルは関係なく、著名人が自分のテイストで壁をカラーリング。実際に自分で塗装を体験してもらう。その空間で自作のイベントを開くという内容。過去9回のイベントからは、さまざまな新しい接点が誕生。イベントの参加者は自然体で「カラーワークスって何?」を体感してしまうのだ。
直近のイベントは「アマールカの眠りの部屋」(6月18日~7月9日)。アマールカは70年代から現在までチェコの国民的アニメの主人公。大人から子供まで親しまれ、イベントではアニメの放映、声優の南波志帆さんのトークショー、ミニライブなどが組まれている。このイベントはアマールカグッズを輸入する地元の輸入商社、雑貨店との連携で企画。文化発信がさかんな東神田だからできるイベントといえる。地元企業6社のコラボ。
東神田は東京駅から数キロの至近エリアにも関わらず、伝統的な繊維問屋街である馬喰町の衰退の影が大きく、空きビルなども目立っていた。6~7年前から地元の人たちと自治体が協力した再開発プロジェクトが発足。そのコンセプトはソーホー地区のような文化発信エリアにしようとの意気込み。意欲とクリエーティブな発想を持つ若者を呼び込みニュービジネスを起こし、街は徐々に様変わり。商業大資本による再開発と最も違うのは、コネも資本もない若者が、創造力だけで自分の夢を実現できる場を提供した点にある。このためクリエーターたちの流入が続いている。
もっとクリエーティブに
カラーパレットの現在―。2つの新しい切り口から探ってみよう。1つは200mlのかわいいミニボトル「HIP mini」(商品名)の開発。もう1つは「ホームデコレーター」制度の発足にある。カラーワークスの新たな方向性がそこに集約されていると思えるからだ。
「HIP」はカラーワークスが生みの苦しみから開発したオリジナルブランド。ハイパー・インテリア・ペイントの略で1音節の発音のしやすさを狙ったネーミング。輸入塗料からスタートしたカラーワークスにとって、独自ブランドは当初からの念願であった。ベンジャミンムーアの代理問題で扱いを解消せざるを得なくなるという痛い経験もしている。
国内には水性のインテリアペイントで店頭調色できるシステムがほとんどなく、独自に開発するしかなかった。しかも1488色のカラーバリエーションとカラーデッキ(専用色見本帳)をフルセットにしたコンセプトは、日本の塗料メーカーがどこも挑戦したことのない方向。小企業であるカラーワークスはここでもパイオニアとしての苦しみをいやというほど味わっている。
それでも困難を克服できたのは、カラーワークスの熱意とポリシーに賛同する人々が常に存在したからだ。HIPにカラーワークスの魂がこもっているといっていい。そのミニボトル版の開発には消費者の声があった。
ペイントの壁の魅力は伝わっても、いざ自分で実行できない人も多い。そこでサンプル塗りが必要という発想になるのだが、カラーワークスの視点は違う。200mlに設定したのは、ドアが1枚塗れて、家具(椅子・テーブル)などの塗り替えができる量。あくまでも実用的なのだ。しかも容器はローラーバケットを用意せずにスモールローラーや平刷毛が容器口に直接入れられる。つまり"思い立ったときが塗りたいとき"に適合できる優れもの。エントリー(入門)用として、色彩の魅力を実感してもらうことも忘れていない。
HIPのカラーバリエーションから39色をラブ&ピースのコンセプトで選択。「色は使いたいけど、失敗したくない」という消費者マインドにも届くよう、色を使う楽しさをこめた。
ホームデコレーター制度もエントリーバージョン。カラーワークスにホルダーといわれる代理店制度があるが、一定の在庫負担が伴う。その一方で異業種の方からもっと入りやすいビジネスモデルはないかとの要請が強まっていた。確かにリスクが大きい新規投資はしにくい状況でもあり、そこで発案された制度。カラーワークスが設けたカリキュラムで研修を受けてもらい、テストを経てホームデコレーターとして認証。研修内容はレクチャーと実技から成り、費用負担も少ない。
ホームデコレーターはそれぞれの立場で起業しても良いし、既存の職場の新ビジネスとして立ち上げるのも自由。カラーワークスの扱っている材料と施工のビジネス化というよりも、色彩(カラーデザイン)ビジネスの第1ステップとしてチャンスを与えていく方向。意欲のある若い人たちも吸収してカラーワークスミッション(使命)を幅広く浸透させたいとの狙いだ。
カラーワークスとは何か。それは定義不能の業態。色を売るといってもかつては業界からは無視に近い見方をされ、現在は"カラーワークスは特別"として棚上げされる。業界内の視野から見えないビジネススタイルなのであろう。独自の道を独自に切り拓くことで実力をつけてきた。カラーワークスの女性スタッフは誇りを持って「私たちはペンキ屋」と自称している。
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