Web特集
2005年05月18日
VOC規制法による影響と対策 日本塗装機械工業会 平野克己氏
1. 塗装小委員会とは
2004年5月26日に公布された大気汚染防止法の具体的な「VOC排出施設」「排出基準濃度」を示す政省令に必要な情報を提供する「VOC排出抑制対策検討会」を構成する6類型の内の塗装分野の委員会として発足し、2004年7月29日の第1回から2005年2月3日まで5回開催され報告案をまとめた。委員の構成は学識者4名、地方自治体3名、産業界15名と産業界の割合が圧倒的に高かった。検討内容は排出施設、排出濃度の案を決めることであったが、既に法律の改正の背景として、2004年度の「排出抑制専門委員会」にて、1)法規制と自主的取組のベストミックス 2)目標は2010年までに30%の削減 3)対象施設は外形規模の大きさ基準 4)濃度数値は実測濃度を参考に、などとの指針が出されている中での検討であり、塗装での排出の実態に合わせるのが困難という矛盾を抱えたままでのスタートとなった。特に2)、3)の「全体の排出量を削減するために、装置の大きなものを規制する」の大枠に対して、装置の大きさとVOCの排出量が比例しない現実をどう調整するかが問題となり、検討に白熱した論議が展開されたが、最後まで完全には解決できないままの数値となった。また、学識者、地方自治体と産業界の対立構造ではあったが、最終的に報告書としてまとめられた。
2.塗装小委員会報告書の骨子
今回のVOC規制で最大の関心事であった対象施設(裾切り指標)と排出基準値(濃度)は表1の通りで報告された。対象施設での特記事項は、環境省案として提出された「吹付塗装施設の乾燥または焼付施設」(スプレー塗装の乾燥炉)が除外されたことで、本事項により、対象3~4万事業所が対象外となり、裾切りの10,000m3/時以上として推測される約5,000以上のラインが除外された。これは印刷分野などに比べ、事業所の数の割合では法規制が圧倒的に低くなっており、業界としての自主取組み、自主努力が問われることとなる。排出基準値での特記事項としては、今回はあくまで「濃度」が基準であり、塗料自体のVOCの多少に関しては法的な基準としないため、粉体塗料などVOCを含まない塗料は別として、水性、ハイソリッドなど低VOC塗料に対する配慮はされない。このことは、いくら低濃度と分かっていても、特定施設に該当すれば年2回の測定が義務付けられる不合理を生じる。その他、2010年までの猶予期間の要望などが報告された。
3.今回、規制対象となる代表的な塗装ライン
1)塗装施設(吹付塗装に限る)図1,2
吹付施設に限定。ここで言う「施設」とは「事業所」や「ライン」ではなく、VOCを連続的に発生している装置のこと。例えば、2コート2ベークの場合塗装施設は2個、乾燥施設は2個と別個の施設とみなされ、2コート1ベークのいわゆるウェットオンウェットの塗装施設は一体とみなされる。表2に代表的なラインを挙げる。
2)乾燥または焼付施設(吹付塗装用以外)図3
規模として送風機の送風能力が10,000m3/時以上の送風能力とは送風機の「銘盤」に記入された数値のことを表し、送風機とは、次のいずれかを指す。
1)排気用送風機を指す場合
2)熱風循環用の送風機を指す場合
ここでは1)がある場合は1)が、1)が無い場合は2)の熱風循環用送風機が該当する。また、遠赤外線炉など排気用の送風機の無い場合は特定施設に該当しない。表3に代表的なラインを挙げる。
4.規制対象となる施設での問題点
1)塗装施設
表2の中で、塗装作業が連続でなく週1回、月1回ぐらいの使用頻度の施設も、排気ファンの容量が大ということで規制対象となる。また、連続生産の場合でも、大型建機など、ブースの大きさに比して塗装面積が少なくVOC発生量が少ない施設もある。さらに自主的に水性塗装に転換している施設もあり、これらが全て横並びに濃度規制される。これらの場合、規制値以下が予測され、高額のVOC処理装置の設置は免れるが、年2回の測定時に、ダクトが複数の場合が多く、複数の排気ダクトのどれを、どのタイミングでなどの問題に直面することとなる。また溶剤塗料を大量に使用し、大量のVOCを排出している施設は数億円のVOC処理施設を設置するか、VOC排出の少ない塗料に転換するかのいずれかの検討を迫られる。コスト面から考えると、粉体化、水性化の方が圧倒的に有利であるが、塗膜として受け入れられるか否かが重要な鍵となる。
2)乾燥施設
表3の中には、既に水性化に転換している分野も多いが、この場合も年2回の測定義務が生じ、多数のダクトでの排出施設の場合、費用も増加する。乾燥施設のVOC処理は、ブースに比べて排気量が少なく燃焼方式が適用できるため、10,000m3/時の場合で約3,000万円の設備投資で対応できるが、ランニングコストを低減するため、燃焼廃熱の回収利用方法(毎月150万円の燃料費)が課題となる。
5.規制対象外の施設での問題点
今回、「排気量」の大小で裾切りしたため、排気量は少ないがVOCを高濃度で排出している施設が対象外となったが、この分野での自主取組みが問題となる。
1)塗装施設
コンベアスピード1~3m/分で、被塗物サイズが1~2m程度のラインの排気量は500~1,500m3/分、政令基準では30,000~90,000m3/時であり、これらの規模が占める割合は、工業用ラインの塗装の排出量の70~80%程度と推定される。この分野は中小の事業者も多く、VOC処理装置の設置は困難であり、塗料転換に期待せざるを得ない。
2)乾燥施設
スプレー塗装の乾燥炉が除外されたが、これはデータが不足していたための結果であり、現実の問題として、塗着効率50%の塗装機で塗装した場合、セッティング、乾燥工程に半分位は持ち込まれて揮発することは明らかである。一方、悪臭防止法の関係もあり、工場近辺に住宅などが存在する乾燥施設では、既に燃焼方式などの排ガス処理装置が設置されている場合も多い。法的に対応せざるを得ない割合が多い分野と違い、塗装業界として自主的な対応にどう取り組むかは、業界の環境に対する姿勢を問われる正念場となる。
6.関係者の今後の対応と課題
1)行政サイド
今回、環境行政上初めての規制と自主取組みの法律を、責任を持って施行するためには、17条に事業者の責務として決めたことの実施の担保を取ることが必要であり、これからの地方自治体の具体的指導、状況に応じた適切な指導が不可欠であり注目される。また、同条に国民の義務として明記した製品の購入に関しても、具体的に、環境対応塗料での塗装製品を率先して指定するなどの実施状況を注視、監視する必要がある。さらに、産業界に対して、事業と環境を両立させるための経済的、技術的支援が望まれる。特にVOC処理技術が遅れていることが、VOC削減の最大のネックとなっていることが明らかな以上、その開発の促進への支援が急務ともいえる。一方、地方自治体としては、従来、大阪府、埼玉県など、VOCに先進的に取り組んできたところもあり、今後の対応が注目される。前述した法の矛盾点をも現実的に解決することも不可欠であり、また地域によっては、上乗せ、横出しの覚悟も必要である。特に大阪府条例での裾切りの値が政省令より大幅に低い数値であるが、その結果次第で大きな影響を受ける。
2)塗料、設備供給サイド
日本塗料工業会として、平成18年度30%、平成20年度50%の削減目標を明示しているが、具体的に個々の業種、業界別へのきめ細かな指導が望まれる。中小の事業者自身で将来の塗装系を模索、検討するには限界がある。また、塗装機器設備面では粉体化、水性化の設備対応の簡易化、VOC処理装置の安価化など目先の要求に応えられないのが現実であるが、塗料、塗装者側と一体となった取組みでの対策が望まれる。これには、先行する自動車、鉄鋼など大手ユーザーの技術支援、協力が不可欠である。
3)事業者
今回の政省令で、一喜一憂するのは止むを得ないが、VOC排出・抑制は「事業者の責務」と、法17条で規定されている以上、将来を見据えた各社なりの環境方策が求められる。また、2010年で光化学警報などの削減効果がない場合は、裾切りが大幅に見直されることも考慮に入れておく必要がある。以上を表4にまとめた。(寄稿)