Web特集
2007年03月30日
シリーズ: 揺れるライン塗装
揺れるライン塗装 No.137 花原化学工業 手作りラインで小回り性を発揮
社員6名(内2名がパート)を率いる花原氏は1973年生まれの33歳。2005年に社長となり新生花原化学工業としてスタートした。かつては神東ハーバーツ(現・デュポン神東)に勤め、そこで自動車新車向けのバンパー塗装を担当。自動車メーカーで水性ベースコートのライントライアルに関わるなど塗装技術の最先端を経験した。それらで得た経験が粉体ウェットオンウェットの導入という既成概念に捉われない発想を引き出した。花原氏は「空洞化により需要が減少している。他社と同じことをやっていては値段の叩き合いになるだけ。生き残るためには、他社と違うことをしなければならない」と語る。
粉体ウェットオンウェットは海外での実績例はあるものの国内では前例がないレアケース。塗料メーカーからもプレヒートの時間の問題を指摘されるなど実現に困難が予想された。 しかし、いざトライしてみると確かに商品にはならなかったが、「全くダメではなかった」という。「乾燥炉のスペース、鋼材の形状が問題となったが、追加設備を入れればクリアできるかもしれない」という手応えを感じた。突破口となったのは中間乾燥炉の導入だった。「バネのようなピッチが変わる素材でも付き回り性が良くなった」と流動浸漬の方法を応用した。
次に課題となったのが、前処理を含めた塗装仕様の問題。同社がメインに手掛ける自動車用バネは"重要保安部品"と言われる足回り部品。自動車の耐久性に深く関わる部分だけに防錆性など高い塗膜性能が求められた。そこで同社は「リン酸亜鉛処理に粉体塗装を塗るより粉体ジンクリッチを下塗りした方が高い性能が得られる」と粉体ジンクリッチの採用を決めた。 ただ塗料の選定は一様にいかなかった。最終的に上塗りと粉体ジンクリッチとの相性が良かったPPG社製を採用した。 試行錯誤を経ながらも、中間乾燥炉の導入、粉体ジンクリッチを下塗りとして組み合わせることで、粉体ウェットオンウェットシステムを実現させた。
手作りラインを構築
同工場は敷地面積220m2。本来2階建てだが、1階の天井が高いこともあり、中2階を作り資材置き場と乾燥炉を設置した。3階は事務所。
塗装工場となる1階に配備された粉体塗装ラインは全長80m。中央に背中合わせの形で水洗ブース2台、右側に中間乾燥炉、左側に塗り上がった製品を後加工し、荷詰めをするスペースが設けられている。工場内には最新鋭の塗装設備はない。
"
ジンクリッチ用と上塗り用に設けられた水洗ブースは手作り。ハンガー、その他造作物や治具に至るまで社員が作った。また塗装粉が舞わないための空気のコントロールはブルーシートで調整するなど、いわゆる"アナログ式"ラインとなっている。
更に極め付けは塗装ガン。ガンはノードソン社製の手吹きガン「SURE COAT」(コロナ式)を使用しているが、それを手製の金属製の造作物に据え付けている。「固定のままだと付き回り性が良くない」ことから、攪拌機のモーターを利用することで、定期的にガンを揺らし被塗物の付き回り性を高めている。自動塗装システムも自らの手で作り上げた。
その他ハンガーは30種類を保有。ハンガーピッチは被塗物に応じて30-90cmの可動式となっており、また被塗物の向きを一定にするためにハンガーレールに独楽(コマ)も設置した。部材に応じて変わる被塗物の距離は、自動車用のエアサスペンションの収縮を利用するなど、至るところに工夫の跡が見える。
不良率1000分の1を実現
現在メインとしている自動車用バネは月約2万5,000本、日に2,500本塗装している。ラインスピードは1m60cm/分。ブラスト処理されたバネを粉体ジンクリッチで下塗り、エポキシ/ポリエステル系粉体塗料で上塗りする。膜厚はそれぞれ30μm、100μm。月の塗料使用量は500kgに達する。乾燥炉は230℃×40分、中間乾燥炉は120℃×8分。
乾燥炉は以前、都市ガスを利用していたが、「10分で条件温度に達する」とプロパンを熱源とした熱風乾燥炉に切り替えた。中間乾燥炉は乾燥炉の余熱をダクトから引いて利用している。また付き回り性を良くするため、バネを熱風に直接当て、被塗物の温度を下げないようにしている。
色は黒と赤をメインとしているが、色替えは多いときで1日5-6色。色替え時間は1人で20分。色替えに瞬時に対応するため、回収ブースは設置せず、エアーをセットするだけの脱着を容易にした形にしている。毎日終業時にメンテナンスを行うことで翌朝すぐにスタートできるようにしている。
塗料粉はすべて回収。通常はバージン粉と回収粉を混ぜて利用しているが、100%回収粉でも品質には問題ないという。「ふるいにかけて粉を均一化し、翌日には使い切る頻度が回収粉の品質を落とさないコツ」という。
ブースの汚れに対しては、「あまり吸引させないことが重要」と2台のブースで1つのファンを共有しているが、浮遊度が違うため粉体ジンクリッチ7割に対し、上塗りは3割と吸引力を変えている。
乾燥炉の汚れについては、「ヤニの発生もほとんどなく、ゴミやホコリによる塗装不良はない」とクリーン環境を実現している。
メンテナンスとしては、手が入りにくく、特にカーブ周りにほこりがたまりやすいレールチェーンの清掃を毎月手掛ける。以前は金属が擦れ合うことで鉄粉が落ち、それにより黒ブツが生じたこともあったが、現在は専用の強力ブラシをラインに這わせている。
不良率は1,000分の1程度の高レベルを確保している。
小回り、即納で差別化
同社のライン設計のコンセプトは小回り性。「当日出荷も可能」と話す同社の武器は即納体制にある。手作りでラインを構築したのも「手作りにすることで、故障が生じても誰でも直すことができる」とハイテク機器の進化で利便性が高まる以上に、故障時でもリカバー性を高めたいという同社の姿勢がうかがえる。「ここに頼めばなんとかしてくれる存在になりたい」。
手作りラインもさることながら、同社のユニークさは労働時間にも見られる。同社ではどんなに仕事量があっても終業時間を5時までときっちり決めている。そのかわり仕事量が多い場合は、始業の時間を早めている。「場合によっては朝5時から動かすこともある。ただ朝を早めることで、急ぎの仕事でも午前中には出荷できる」とも。
同社は常に新しいことへとチャレンジしていく姿勢をポリシーとして打ち出している。「既成概念を捨てることから始めなければならない。塗料の技術も変わっている。かつては無理と言われたことも今だったらできるかもしれない」。同社は現在、新規分野の開拓を視野に入れている。花原社長は「まだまだ発展途上。今はチャレンジしていく中で基礎体力を固めていく時期」と飛躍を狙う。(近藤)
工場前景