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Last Updated: 2009年3月 9日 18:39  RSS 2.0
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Web特集

2009年03月09日

感動と共感が市場を拓く 色のダイナミズムに隠されたヒント(内装マーケット特集2009)

塗料・塗装業界がなかなか取り込めないでいるインテリアペイント(住宅内装)の世界。訴求の切り口を考え直す必要がありそうだ。近年、生活者の消費行動に変化が生じ始めている。高度消費社会を通過してきた中で品質や機能、コストといった従来の価値軸だけでなく、もっと心の充足につながるようなモノやコト、サービスの価値を求め始めている。伝統やつくり手のこだわり、物語性、遊び心、コンセプトなど目には見えないけれど消費者の感性に響き、強い購買動機につながる価値だ。「感性価値」という新たな訴求軸が注目されている。

平成19年、経産省は「感性価値創造イニシアチブ」を創設、「作り手と受け手の感性の響き合いが感動、共感という特別な経済価値を生み出す」と提唱した。成熟経済下における需要喚起の切り口として、モノやサービスの開発、マーケティングにさまざまな企業が活用し始めている。


こうした視点で見直したとき、我々の業界に最もストレートなのは、やはり「色」を通じた感性価値の提供だ。特に、生活者に密接な住空間、とりわけ内装分野は塗料・塗装の感性価値を訴求するのに最も効果的な分野。生活者が抱える「暮らしの質を高めたい」という普遍的な欲求に対して、色のダイナミズムで応えることができれば感動と共感を生み、産業の社会的な存在感さえ高めるポテンシャルがある。


日本の住宅内装を席巻している塩ビクロスに比べると、塗料・塗装はコスト、工期、手間、クレーム、ハウスメーカーや工務店での受けなどネガティブな問題は確かに存在する。しかし最終的な受容者は当然ながら生活者だ。


まずはそのマインドの変化について、住まいに関する情報発信拠点・リビングデザインセンターOZONEの堀内優子さんに意見を聞いた。


 
ペイントを選びたい人は増えている   
インテリアに対する要望はどのように変化していますか。

外で遊ぶよりも家でゆっくりしたい、自分の住空間を自分にとってのベストにしたいという流れの中で近年、『色を採り入れたい』というニーズの高まりを接客の中で感じます。


インテリアはファッション化、つまりアパレルの世界と近づいています。色や柄、素材感を巧みに使ってデコレーションしたい。選ぶ基準は洋服と同じですね。実際に選べるかどうかは別にして、選びたいという気持ちは高まっています。


例えば、日本では難しい色とされてきた紫ですが、洋服の世界でどんどん使われ始め、普段から視覚の中に入ってくることでインテリアに使っても違和感がなく『あってもいいかな』とゾーンの中に入ってくる。色の配分など日本人のファッションレベルは高く、特に30代半ばから40代にかけての人たち、若い頃にファッションに全力投球していた人たちは自分の選択眼に自信を持っている。そういう人たちがいま家を建てる層になってきています。

そうしたニーズは充足されていますか。

残念ながら住宅供給側の多くはいまだに1,000円/m2台のビニールクロスのブックを差し出して、その中から選んでもらうスタイル。仕方なく選んでいるというのが実情ではないでしょうか。そこに大きなギャップが生じています。設計士に依頼して家を建てる、あるいは自らショールームに足を運ぶといった人たちは塗り壁やペイント、輸入壁紙を選択するケースが増えています。壁紙メーカーも消費者の意識の変化を機敏に感じ取っており、ファッションの中で定番化したラインストーンのようなキラキラをあしらったもの、量産品ばかりではなくコンセプトで括ったサンプルブックなどスタイルの提案が高度化されてきています。

ペイントが受け入れられる可能性は。

大いにあると思いますね。色はやはりインテリアのベース。私たちがデザインするときも、まずベースとなる色を決め、そこにアクセントの色、さまざまな素材や柄をあしらってひとつのかたちにしていきます。色の自由度が高いペイントはインテリアデザインのベース。色の変化は空間のイメージをダイナミックに変え、とても効果が高い。そこにツヤの自由度という要素も入ってくる素材はペイント以外にありません。

そうしたパフォーマンスを持っていながら住宅の中でペイントが広がらないのはむしろ不思議。効果の高さが伝わっていないのではないでしょうか。『やってもいいかな、やってみたいな』という層は明らかに増えているのにそれを掘り起こさないのはもったいないと思います。

訴求するためのアイデアはありますか。

インテリアに関心の高い人が訪れるショップなどとコラボするのもひとつの手ではないでしょうか。ただその場合、単に色見本や商品を陳列するのではなく、ペイントすることでどのように空間の質が高まるかをイメージさせることが大事。そういった意味ではビジュアルの工夫も大切ですね。例えばアメリカのお母さんは男の子が生まれたら部屋にペイントしてあげるのが楽しみ。それが愛情の表現でもあるわけです。そうしたストーリーも織り交ぜながら、暮らしにもっと身近に感じられる訴求をすることが大事ではないでしょうか。

住空間に対する意識は明らかに変化してきており、ペイントならではの価値に反応する人は多いと思います。  ◇堀内優子氏=OZONE情報バンクでインテリアのコンサルティングの他、インテリア全般の情報収集と発信、企画を担当。生活者、企業向けのインテリアセミナーも行う。インテリアコーディネーター、2級建築士。

伝え方の方法を考える 

生活者のマインドが変化していても情報が伝わらなければ始まらない。そういった意味で最近インパクトが強かったのが東急沿線で発行されているフリーペーパー・SALUSでのペイントカラーの紹介。


カラーワークスが協力した企画「私改造計画」は、部屋の模様替えやリフォームといった既成の捉え方ではなく、「自分を変えたい」という誰もが持つ潜在的な欲求を叶える手段としてのウォールペイント。「私改造計画」というまさに感性に響くフレーズとペイントカラーが読み手の中でベストマッチングし、150人を超える問い合わせが殺到、対応に追われた。


捉え方によってはこの事例は汎用性がある。日本全国どこにでも地域情報誌やミニコミ誌が存在する。地域住民に有用な情報であれば採り上げられる確率も高いだろう。ただし、単純に「お部屋の模様替えをリーズナブルに」的な発想では知恵がない。もっと感性に響く訴求方法が欲しいところだ。


次のステップはワークショップの開催。情報に触れて行動に出た人に対して、色の効用についてのレクチャー、そして実際にペイントに触れてもらい納得感を高めるための作業だが、ここでのポイントは「楽しさ」の演出。実際のペイントでは下地処理や養生など面倒な作業も伴うだけに、それを超える楽しさを感じてもらう必要がある。


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リズムに合わせて軽快にペインティング

ポーターズペイント(川崎市)は月に2-3回ほどの割合でワークショップを開催しており、その内容も多彩だ。
先日行ったANGER WORK SHOPはペイントでストレスを解消するという内容のワークショップ。参加者がお気に入りのCDを持ち込み、音やリズムに合わせてペインティングする。専用ブラシのみで塗装するというポーターズペイントならではの企画だが、大胆に刷毛を動かしながら音と色に触れることでストレスを発散させるというユニークな企画。


「ワークショップの開催はペイントの普及が目的。今回の企画は初めての内容ですが、ペイントへの親近感は持っていただけたと思います」(オリエンタル産業・今村昇子さん)。不動産事業も手掛ける同社では、リノベーションや賃貸物件などの実物件でもペイントワークショップを開催、ファン層を着実に増やしている。


次に紹介するケースはペイントが持つ「表現することの楽しさ」を伝えて「ペイントをもっと身近な存在に感じてほしい」と活動を続けている事例だ。

表現することの喜びを共有 

エージング、フォーフィニッシュといった特殊なペイントの世界が生活者に身近なものになろうとしている。エーアンドエム(千葉県市川市、代表・はやし まりこ氏)が「より多くの人にペイントを楽しんでもらいたい」との思いで開発した特殊塗装キット「PAINT magician」、そして「表現することの楽しさを知ってもらいたい」と開催しているペイントスクールの人気がプロ、アマを問わず高まっている。


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はやし まりこ氏

はやしさんにはひとつの思いがある。「ペイントが持つ色と表現力は人の心をとても豊かなものにします。その楽しさをもっと多くの人に知ってもらいたい」。ホテル、医療施設などさまざまな商空間における装飾塗装、造形、アートワークなどを本業とするエーアンドエム。代表のはやしまりこ氏は壁画アーティストとしても著名で、多忙を極める。


その一方で、生活者とのつながりを意識した活動に力を入れる。「以前、特殊塗装で有名なロンドンのペイントスクールを訪ねた折、カリキュラムだけに専念するのではなく、ワインや食事も楽しみながらペイントを学習するスタイルに遭遇。ペイントが暮らしの中に溶け込み、文化として根付いていることにとても感銘を受けました」と振り返る。それに対して日本ではペイントと生活者の距離があまりにも遠い。


エーアンドエムはまず1日完結型のペイントスクールを開校した。主婦やサラリーマン、学生、店の装飾に活用したいカフェのオーナー、そしてプロの塗装職人など受講者はバラエティに富む。スクールの内容はエージングやフォーフィニッシュの技法を体験してもらうというものだが、「参加された皆さん誰もが『表現することの楽しさ』に目覚めます。学校の美術の時間のように上手い、下手といった評価軸に縛られるのではなく、表現することそのものを楽しむといったスタイル」。


「表現することの喜びを共有することがペイントと生活者との距離を縮めるための大切な要素」と感じたはやしさん。次に手掛けたのが誰もが気軽に楽しめる特殊塗装キットの開発だ。自社が築き上げてきたノウハウを惜しげもなく注ぎ込み、独自のレシピによるペイントとツールをキット化。2003年、「PAINT magician」の商品名で発売した。


キットの中に入っているマニュアルに沿って作業していくと錆、緑青、クラックなどのエージング、味わい深いメタリックエフェクト、大理石や木目、空といったフォーフィニッシュの世界が広がる。手持ちの家具や家電製品、アクセントウォールなどに施し、個性的な表現を使って空間を楽しむ。


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手持ちのTVを緑青テイストに

東急ハンズの塗料売り場担当者もPAINT magicianの魅力にはまった1人。エーアンドエムで体験講習を受け、その楽しさに商品力を確信。現在、塗料コーナーでヒット商品となり、全店への導入計画も進んでいる。


はやしさんは「塗料・塗装業界の人たちとのつながりをもっと強くしたい」と考えている。業界が生活者と喜びを共有できる仕事のスタイルに少しでも変われば、塗料・塗装の社会的な存在感が高まると考えているためだ。


スクールの話題を聞きつけて、地方での開催を望む声は多い。しかし物理的に応えてあげられない。はやしさんは塗料・塗装業界の人たちにその受け皿を期待する。「私どもで講習を受けていただき、それぞれの地域でスクールを開催していただけるのが希望。参加者が表現することの楽しさに気づいてもらうためには教え方のコツがあります。そうしたノウハウも伝え、スクールの開催、ひいてはペイントの楽しさを伝えるマイスターが全国に広がっていくのが夢」と期待を寄せる。


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"表現"することの楽しさに目覚める

ライバルはケータイ 

感性価値という言葉が生み出される以前から、その本質である生活者との"感動、共感"を基点にビジネスを構築してきたのがカラーワークスだ。


同社の秋山千恵美さんが先日札幌でインテリアスクールの講師を務めたときのこと。「熱い思いで何時間も語ったのですが、結局最後に色を塗ったときが一番盛り上がりましたね。色のダイナミズムに感動して涙を流す人もいるほど。色が人の心に働きかける力を改めて感じました。『色で生活を豊かにする』という私たちの原点はひとつもブレませんし、むしろその確信が日に日に高まっています」と自信に満ちた表情で語る。


インテリアペイントという我々の業界が手を拱いてきた世界で孤軍奮闘し、日本の住宅シーンでひとつのポジションを築き上げてきたカラーワークス。
そんな同社にとってのライバルはいま、「携帯電話や旅行」という。お金を使う優先順位で携帯電話の買い替えや旅行など、生活者にとって楽しみなモノやコトと比較されるまでに存在感が高まってきたことを示している。


「最近では遠方から来店する方も増えています。それも深夜バスに乗ってまで。それほどまでに色で空間を変えたい、暮らしの場をもっと上質なものにしたい、ひいては自分を変えたい、行動を起こしたいといった強い動機を感じます。わざわざ遠方から来てくださる方に申し訳ない気持ちで一杯になるとともに、地方での受け皿の必要性を痛感しています」と、生活者の感性の変化に業界全体で追いついていけないジレンマが常について回る。


秋山秀樹社長は「商品戦略、見せ方、伝え方、プロモーションなどカラーワークスのノウハウはトライアンドエラーの繰り返しで構築してきたもの。当然その分の投資も行ってきた。しかし新たなビジネスを立ち上げるためには何れの商売でも同じこと。業態を転換していくというのは、要は経営者の腹の括り方の問題だと思う。当社が目指してきた方向は間違っていなかったし、そのポテンシャルはますます高まっている」と確信に満ちている。


冒頭にも触れたように、今後生活者の消費スタイルは"感性"に左右される部分の比重が高まってくる。ほとんど無彩色の日本の住空間に、色を採り入れることによる空間のダイナミックな変化、色と生活者個々のライフスタイルやライフステージとの物語性の演出など、感性価値のキーワードである「感動」や「共感」を軸としたビジネス展開の可能性が内装マーケットには限りなく広がっている。

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