Web特集
2009年04月17日
環境技術として信認を得られるか 機能の"見える化"に課題(遮熱・屋根用塗料特集2009から)
現在、高反射率塗料を含む遮熱塗料市場はOEMによるダブルカウントも含め年間5,000トン台を超えていると見られる。日本塗料工業会加盟企業による高反射率塗料の出荷量は、全用途ベースで平成16年1,549トン(報告企業数13社)、平成17年2,414トン(13社)、平成18年3,102トン(14社)、平成19年3,769トン(17社)と伸長の一途をたどっている。報告企業数も年ごとに増えていることも数量押し上げの要因となっているが、現時点までの需要増に加え、会員外メーカーや中空層を配した厚膜系の遮熱塗料があるため、出荷ベースで5,000トン超、メーカー出荷額ベースで大まかに換算すると55~65億円程度に達すると推測される。
しかし、日塗工調査を対前年伸び率で見ると、平成17年55.8%増、平成18年28.5%増、平成19年21.5%と伸長率ではやや鈍化傾向を示す。日塗工サイドでは、5年後には高反射率塗料は7,000トン~1万トンに達すると予測しており、導入期から普及期に突入しつつあることをうかがわせる。
しかしメーカーの遮熱塗料市場に向ける目は拡大市場に向けた積極さよりも冷やかさが目に付く。参入メーカー40社以上と言われている参入企業の多さが、個々の企業の伸長率を弱めていることも背景にあるが、「屋根用塗料においては、既存製品にない付加価値として、高反射率塗料が採用されるケースが増えた。しかし、需要規模そのものを広げているわけではない」と既存市場での置き換えでしかないという見方は多い。市場自体は拡大基調にあるため各社は積極的な市場展開を図っているものの、乱売競争も激化しており、今一歩収益の高い市場になりにくい様相を呈している。
また、この数年の遮熱塗料ブームで、過去に手掛けた物件の良し悪しに関わる評価が市場から出るようになってきた。汚染性や塗膜耐久性、濃色タイプの変退色といった塗膜性能の問題など、普及期ゆえにさまざまな問題点も浮き彫りになっている。そこで国や業界団体でも高反射率塗料の性能評価試験を行っており、"健全な市場形成"を旗印に性能と効果の相関を検証しようとする動きが活発化している。
屋根用を主力としていた製品開発については各社水系化の開発を進める一方で、今年から新たに外壁用、防水、舗装向けの製品を投入する動きが活発化している。先述したように屋根、外壁といった用途が既存領域内での置き換わりでしかない一方、道路向けや軽歩道向けは新規市場と見る向きが強い。
道路向けにおいては、道路会社と連携を組む形で、テスト施工やフィールド施工を実施。実証データを蓄積しつつあるが、まだ「路面の反射が高まることで不快感が高まるのではないか」「ビル群などで反射した光がビルの窓に侵入するのではないか」などデメリットの部分が指摘されている他、保水性舗装といった別の環境技術との比較もあり、本格採用は少ない。景気刺激策として公共工事の増加を期待する向きも強いが、財源の問題もあり、どれほどの需要が出てくるかはっきりとした見通しは見えない。ただ、それでも各社が新製品を市場投入してくる背景には、テーマパーク、公園、駐車場、歩行者道路などの用途で需要が高まるとの見方があるからだ。
用途展開に向けた動きは舗装向けのみにとどまらず、プールサイドや競技場トラック、ゴムチップ製の運動場、冷凍庫、プラントなど多岐にわたる。
遮熱塗料の存在価値とは
遮熱塗料や高反射率塗料にどこまで期待するかは、市場の成長を計る上で重要な問題である。
省エネ効果については、使用色と断熱材の有無が高反射率塗装の効果を左右する。つまり色調では白色が日射反射率を最も高くし、性能面でも白が一番高い効果を発揮する。ただ、断熱材や形状的に何らかの空気層が入っている建築物での効果は検証が難しい。環境省も「空調設備が入っている建築物では断熱材が入っていることが考えられるため、省エネ効果の大きな成果は得られにくい」と説明する。また中空層を配した遮断熱塗料や断熱塗料といった類においても、業界全体で性能評価試験に取り組んでいる例がないため、現在は個々の企業のデータでしか評価を訴求できない状況がある。むしろ住宅塗装を手がけるある施工業者によると「性能については大げさに言わないようにしている。ただ㎡単価に換算すれば高反射率塗装は一般塗料と比べてわずか数百円の上積みでしかない。それでも一般塗料と比べると付加価値があるため当社では標準スペックに入れている」とコメント。共通の性能評価とはかけ離れたところで、需要開発に対する取り組みが実在する。
ただ色の問題は、根本的に遮熱性能に大きく関わる。明度が高いほど、日射反射率が高いのは明らかとなっている。一般白色と遮熱白色との差をどのように明示していくかの問題はさておき、住宅屋根などでは、茶系、濃紺、濃緑など濃色タイプが多く使われているため、白の採用はほとんどない。舗装用もしかり。そのため濃色タイプの高反射率塗料は、施主の要望や用途など色ニーズに対応するということに存在意義を見出すことができる。
省エネ効果としては、断熱材のない物件を除いて、明確に提示しにくいのも事実。またヒートアイランド防止効果についても、夜間の蓄熱を抑え都市熱を抑えるという効果は実証されているが、地域環境、気候風土が大きく影響するため全国一律の普及は難しい。
その一方で省エネ効果やヒートアイランド抑制効果とは別の機能である熱劣化抑制や金属の熱収縮抑制といった新たな機能も見出されている。一定の暴露試験を要するため効果の検証はこれからだが、日射を反射させることで素材そのものの熱劣化を抑制し、コンクリートやサイディングボードなどの建築素材の耐久性を高められるならば新たな付加価値となる。また熱収縮においても既に開閉式のスタジアムで採用事例が出ており、用途の広がりが期待できる。
環境省 実証実験に着手
遮熱塗料市場を健全な市場に成長させていくためには何が必要なのか。環境省は平成15年度より手数料徴収体制における対象技術6分野の実証実験を行っている。対象技術分野は1)小規模事業向け有機性排水処理技術分野2)湖沼等水質浄化技術分野3)山岳トイレ技術分野4)VOC処理技術分野5)ヒートアイランド対策技術分野(建築物外皮による空調負荷低減等技術)が選定され、ヒートアイランド対策技術分野は平成18年度から実施している。既に70件以上の申請を受け付けており、他の選定分野と比べても圧倒的な申請件数を抱えている。
これらの対策技術としては窓用日射フィルムなどがあるが、平成20年度からは新たに高反射率塗装が対象となり、既にワーキンググループにおいて実証実験の結果が報告されている。
各製品の実証実験のデータは5月に冊子にまとめられ発表する予定だが、実証実験では同じ明度でも製品によって日射反射率が違うことが明らかになった。試験は白、灰色、黒の3種類で実験が行われたが、同じ明度での製品によっての最大差は、白で約25%、灰色15%、黒25%の開き。同じ明度でも製品によってばらつきが出るのは、採用している顔料の種類や塗料配合技術によって生まれるもので、性能とコストをどうバランスを取るか、市場に対するメーカーの考え方が反映されている。
「同実証実験は比較による優劣をつけるものではなく、あくまでも施主にとって分かりやすい判断基準を与えること」(環境省)を目的としている。とは言え、製品によって、日射反射率や暴露試験結果、またそれらのデータを元にしたシミュレーションによって空調負荷低減効果が明示されるため、実質的には製品ごとの相対評価が可能になる。また同実証試験を受けると環境技術実証事業ロゴマークの貼付が可能となるため、このロゴマークを販売促進として利用する動きが予想される。
製品JIS制定に着手
昨年、高反射率塗料を対象にした日射反射率の試験法JIS規格が制定された。これにより共通の基準による日射反射率の比較が可能となった。
そこで、適正な製品をベースとした需要拡大を図るには、正規の塗料品目として認知を得ることが必要と、現在製品JIS化に向けた取り組みが進められている。
今年の8月にJIS原案委員会が発足する予定。現在プレ委員会として、メーカー、施工、学識経験者、検査機関などの各専門家を交え、基準作りに向けた討議が始まっている。
当初は機能JISでの取得を見据えていたが、経済産業省は塗料JISとしての取得を要請。屋根用塗料JISとしての方向で規格化が進められようとしている。
ここで問題になってくるのは、高反射率塗料の定義。東京都はクールルーフ推進事業においてN6(灰色)で日射反射率50%以上という定義を用いたが、製品JISにおいては赤外線領域で基準を作る方向となっている。
可視光の範囲を含まないため、製品そのものの性能に焦点が当てやすい反面、可視光の部分が赤外線領域においても影響を与えるため、色別によって数値が大きく違うという問題がある。
特に白と黒では最大で75%の差があり、これを1つの基準でルール化するのは困難。ただ色別に区分するのはもっと難しく、「JIS化は難産となる」と塗料の持つ色の自由自在さゆえの課題を抱えている。
日塗工側は赤外線領域で40%以上あるいは50%以上というラインでの設定を見据えているが、日射反射率を基準とした高反射率塗料という定義そのものも基準化を困難にさせている要因となっている。
JIS化の見通しは原案委員会が発足して、2年半-3年かかると見込まれている。そのため、JISが制定されるのは、早くても2012年。それまで日塗工規格(JPMA)を便宜的に打ち出すことも考えられるが、「日塗工規格の策定は想定しない」と、これからの3年間は現状と同じく、基準定義のない状態で市場競争が繰り広げられることになる。
機能の社会的価値とは
塗装するだけで冷暖房負荷が低減でき、地球温暖化防止対策に寄与する。投資効果に見合う環境技術としての切り口に、遮熱塗料に対する市場の眼差しは熱い。しかし、液体という性状や色の自由度、塗膜形成に不可欠な施工品質の確保など塗料ゆえに「誰にでも分かりやすい」「はっきりとした効果が体感できる」というところの実証が難しいのも事実。「ここまで塗料の機能が社会的関心を集めた例は知らない」との声もあり、遮熱塗料をいかに適正に市場形成させていくかが、業界全体の課題となっている。
しかし一方で、この定量化技術の背景にあるところは検証データと実証との相関関係を明らかにできるということが前提となっている。言い換えるならば、実証できない効果は定量化できない、公的な評価が得られないということにつながる。「明らかに温度の違いを感じる」という体感や感性では不十分というところが、塗料の機能を定量化、つまり"見える化"することの難しさにつながっている。
現在、日射反射率塗料による反射性能を基本とした評価技術の検証が進んでいるが、このことが塗料の機能を訴求する上で障壁となる可能性も否定できない。つまり、定義付けをすることが本当に市場にとって望ましいのか否か、メーカーの開発を制約することにつながらないか根本的な問題を浮き彫りにさせる。
ただそれでは、まがい物製品を横行させてしまうリスクもある。既に現状の市場では販売先行の競争が繰り広げられており、塗料という液状製品の特性をいかに市場に分かりやすく伝え、信頼を得ることができるか。
そういう意味で遮熱塗料は、"塗料の機能を市場に伝える"という命題を担うパイオニアとしての試金石であり、現状進めている評価技術の確立の取り組みこそが今後の塗料産業の在り方を左右するきっかけともなる。
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