Web特集
2010年08月03日
塗料産業の復活、流通の再生 巨大生活者市場に向かう(流通特集2010から)
「40年以上の空白がある以上、(塗料業界と)生活者との溝はすぐには埋まらない」(塗料メーカートップ)と述べ、生活者に向かう組織作りには時間がかかることを示唆する。確かにその通りなのだ。即席ラーメンを作るようなわけにはいかない。
しかしスピード感をもって変化しないと、塗料産業は存続し得ない。時間がかかるのはなぜか。制度やハード体制にかかる時間を指すのではない。そんなものは1年もあれば構築できるテーマ。生活者との距離を短縮する上での最大のネックは業界人の意識にある。先のトップの言葉は自社の社員の意識の改革が難しいと述べていることでもあるのだ。
「こうありたい」を追求する
意識改革がなければ流通を再活性化することはできない。この方向ではメーカーもディーラーも塗装分野も同じ。まずはこの点で共同歩調がとれることになる。ところで生活者に向かう意識とは何かを明らかにしなくてはならない。
まず生活者市場の巨大さに注目しておこう。少子高齢化による構造変化が起きつつある消費市場は、ユニクロの成功に象徴されるようにニューカテゴリービジネスの登場で市場が根底から変わりつつある。ユニクロはファブレス(工場を持たない)を特色としているが、いわゆるファッションメーカーではない。衣料品を売って成功したのではないことを認識しなくてはならない。でも売っているのは衣料品そのものではないかと反論もあろうが、そのマーケティングの仕方を見てほしい。
塗料と同じく衣料品も超成熟化産業となっている。そこから出発したユニクロは、これまでのファッション産業の常識をことごとく否定することで成長のステップを駆け上ってきた。
原料の調達から生産・供給プロセスは従来のファッション産業の在り方を全否定するものであった。大手アパレル産業は多くのデザイナーを抱え、トレンドを分析。新たなトレンドを創るファッション提案をしてきた。これに対しユニクロは「自らがこうありたい」の視点を重視する。例を示そう。人間の体型は毎日変化する。そこでユニクロは1cm刻みのパンツサイズを用意した。またカラーの面でも同一デザインでのカラーバリエーションは数パターンを一気に何十色と広げ、色彩力をモチベーションにつなげた。(メーカーなどの)供給側の"数色増えればコストが上昇する"といった通念を否定するものであった。
「こうありたい」とは単純なテーマではある。しかしこのコンセプトがヒットするには消費者のマジョリティが賛同しなくてはならない。「こうあるだろう」というマーケット予想を立てる企業がほとんど。しかし「こうあるだろう」はどこまでいっても市場予測で、生活者の行動は全く読めないのが実態なのだ。
「こうあるだろう」を分析するため、膨大な消費動向分析がされる。かつてカーメーカーの新車開発は4年が標準、最近は2年ほどに短縮されているとはいえ、2年先の動向を予想しなくてはならないのだ。特にカラーデザインはセンシティブ。グローバルカラートレンドからローカルトレンド(地域色)にまで落とし込み、車種ごとに5~6色の標準色設定に持っていく。この労力たるや大変なもので、時間とコストの結晶が決定カラーデザインともいえる。
こうしたマーケティングの限界はすぐ目につく。消費者の指向を集約して売れる・魅力あるはずのカラーデザインのヒット率は意外と低い。むしろ「こうありたい」との発想のデザインがヒットする。確率論的には精密な予想とランダム予想との差はほとんどない。むしろ「こうあるだろう」のカラーデザインは生活者側からすれば限られた選択肢の押し付けに他ならない。
生活ベースを変える
塗料産業が生活者生産として再編されなくてはならない。とりわけ流通面で生活者に向き合うことは社会的要請でもある。これまで改修・保全という形である程度社会貢献はしてきた。しかし今やエコと生活は一体のものとの社会意識の中で、あらゆるストック(社会資本)ばかりでなく、生活の在り方そのものの省エネ・省資源指向に合致する方向で塗料産業が受け皿となっていかなくてはならなくなっている。
ビジネスチャンスなどといった了見の狭い課題ではない。文字通り社会を支える産業のひとつが塗料産業であり、そうなるべく社会から要請されている。豊かな社会とは経済的に成長することが前提と考えられてきた。収入の豊かさは必ずしも幸福をもたらすわけではないことは、かつての高度成長時代の経験で学んだことでもある。これからの社会の豊かさの尺度は変化してきている。地球規模の環境問題であり、グローバル化した中での人と人とのつながり、共生観に基づいたコミュニティ意識が生まれ、その中から豊かさを感じる方向だ。
少し飛躍したが、生活産業としての塗料産業とのコンセプトは未成熟のもので、そのステップも見えていない。とはいえビジョンとして示すことはでき、その突破口(足がかり)が発見されている。その鍵は流通改革の方向性と成否が握っている。
まずはそのビジョンとは何か。抽象的にではなく、具体的に描いてみたい。イメージできるのは米国スタイル。流通の2大チャンネルはホームセンターと専門店で、競合する関係にある。安価の塗料を買うのはホームセンターという差もあったが、ホームセンター側もペイントについてはコンサルティングセールスし、店頭調色対応もしているので、安さへの訴求+αの方向が強まっている。
専門店はペイントショップと呼ぶよりも、デコレーションセンターとの名称が20-30年前から一般化。塗料を軸にデコレーションアイテムである壁紙、床材、窓用品、タイル、額縁などを扱っている。住宅の装飾(ドレスアップ)ニーズに対応する業態。ただこうしたアイテムもホームセンターで安く手に入れることはできる。
ホームセンターと決定的に違って、ホームセンターには絶対できない専門店のサービスがある。それは商品でもコンサルティングでもない。生活者と一緒になってライフスタイルを創造するサービス。専門店では日常的に見られる光景がある。茶飲み友達のように専門店のスタッフと主婦が住宅の模様替えについて会話する。それが商売っ気抜きの井戸端会議のような輪になることも珍しくない。ショップが地域交流のサロンに変わる。この親密感あふれる顧客との関係があるから大型ホームセンターの攻勢に耐え、全米に1万4,000-1万5,000の専門店が生き残っている。
こうした流通の在り方は米国特有のものではなく、グローバルスタンダードといえる。アジア地域でも経済開発が遅れ中産階級の少ないフィリピンが調色ディスペンサーの販売量でアジアトップになったことがある。手動式のディスペンサーでのトップだが、色を選ぶ楽しみは普遍的なものなのだ。
生活者に向かう力
生活者に向かう力をつけなくてはならない。その突破口となるのが「塗装教室」。2~3年前からメーカー主導でマーケティングの一環として行われてきた。そこからは驚くべき生活者像が見えてきた。主な点を3つにまとめてみる。
1)生活者は塗料に対して全くの白紙。 何も知らないし予断も持っていない。
2)塗装体験は塗料の価値を高める。
3)生活との接点を実感できる。
1)については、業界人の勝手な思い込みでDIYの中で自分で塗りたい人は塗っていると思ってきた。ところが実態は全く違うのだ。説明書きを読んで塗装が分かる人がほとんどいなかったのが実態。失敗して塗装はこりごりという人も多い。DIYが定着していれば家庭塗料がもっと着実に伸びてもよいはず。ホームセンターに近い塗料販売店に塗料を買う顧客が流れる現象が見られる。塗料の基本が知られていないので「ペンキは臭い」といったマイナスイメージが先行することもある。ただ全体として生活者は白紙状態と考えた方がよい。どう染めるかは塗料産業のアプローチによるとも言える。
2)の塗装体験の効果は決定的なものだ。それもプロに基本から教えてもらったとの体験は「もっと知りたい・やりたい」に即連動する。あるアンケートでは塗装教室参加者の90%がまた参加したいと回答。塗装を体験することは生活者に大きな感動を呼び起こし、生活づくり(ライフスタイル追求)のツールとして役に立つとの意識を定着させることが判明。
確かに塗装教室を販促に使うのは今に始まったことではない。ニューバージョンの視点は内装(インテリア)から出発し、住内外と周辺へのリニューアルやリノベーションを起こしていく方向。エコライフとも連動した消費者行動につながる可能性が大きい。
塗料の価値を決定するのは誰か。これまでは大口ユーザーであったせいか、決定権はユーザー側にあった。ところが生活者が塗料の価値を認めるパターンは逆になる。「良い塗料を使って効果を発揮したい」とのニーズが基本になる。むしろ塗装をもっと合理化できないかとの指向になる。
またプロの塗装業者からインストラクトされることへの感動が意外に大きいという事実がある。専門技術への憧れだけでなく、信頼性への希求がそこにある。自分で塗る人が増えるとプロの仕事はなくなるとの通念と違って、プロを信頼したいとの意識が生活者に流れている。そこから反転して、生活者の信頼を感じたプロの塗装業者のマインドが180度変化する。「自分たちの技術、努力が正当に評価される」と感じた塗装業者は、自信を持って生活者と会話するようになる。当然ながら技術への向上心やマナーもレベルアップする。
戦略として塗装教室を展開していくには大きな壁もある。スペースがない、集客手段がないといった問題以前に、人のローテーションの課題が大きい。これまでの業務の中で塗装教室を開くとなると、塗料販売店の負荷は高まる。土曜日の開催が通例だからだ。ある塗料販売店トップは「月1回開きたいが、現状では3カ月に1回しかできない」という。これでは販促効果は半減する。いつでも相談できるとの雰囲気づくりのために週1回は原則となる。どうすればよいのか。ルーティンワークの組み換えしかない。日常業務のある面を省いて効率化し、塗装教室の定期開催をスケジュール化する必要がある。
塗装教室に積極的なところではリピーターが多くなるとの課題も目立つ。「もっとやりたい」との回答に見られるように、参加者の固定化が進み広がりのネックとなる事態も起きる。このための対策として実質的有料化や同一テーマの定着など対策はあるだろう。またグループ参加方式も検討するなどしてとにかく「あそこに塗料や塗装の相談にのってくれる専門店がある」と認知させることだ。
世界的に見て建築塗料の需要構造は内装が70%近く、外装は30%台。もともと建築用はインテリアペイントのイメージで形成されてきた。このため日本以外の世界の塗料メーカーは独自のファンデッキ(色見本帳)を作り、3,000色のカラーバリエーションを競い合ってきた。色数だけでなく、販促のツールの大半はカラーツール。色の組み合わせなどのツールで常に生活シーンに刺激を与えている。
日本だけが取り残されてきたのは、建設業界の枠組みでの供給・サービスから一歩も出ようとしなかったからだ。ゼネコンの崩壊からコストありきは改修市場までを支配。施工や工事品質を担保するコストがとれず、改修市場は施主や生活者無視の状態にある。生活者の発想からは遠い現実と決別するためには、生活を豊かに楽しむためのツールとしての塗料・塗装の活用を生活者に理解してもらう必要がある。
塗装教室、次の段階とは
これからの塗装教室を考えてみたい。現状では参加者の主体は50-60代と高齢化。この層は時間的ゆとりがあるせいか参加意欲がある。一方で30-40代の子育て世代、若い女性や学生層といった層の取り込みはできていない。塗装教室の参加者の口コミ効果を広げていくためにも、参加者の層別によるメニューテーマのフレキシブルな設定がなされる必要がある。もうひとつのポイントは塗装教室を色彩提案につなげていく方向。塗装の楽しさは自己実現にある。これに自己表現となるカラーコーディネートの感動を加味していければ、塗装教室の効果は倍増する。
色彩をビジネスチャンスにつなげていくことが専門店性の要点といえる。調色機能を有するディーラーだけでなく、店頭での調色は専門店としての必須アイテムになる。調色機能はスピード調色のためにあるのではなく、本来は色彩提案のためのマシンなのだ。鮮度のあるカラー(ホット・カラー)をその場で提供する武器。単に色見本帳からカラーセレクトされるばかりでなく、専門店だからこそオリジナルカラーを設定するためのツールともなる。
既にあらゆる分野で業種の垣根がなくなりつつある。塗料産業も例外ではない。メルトダウン(溶解)していく業際の中で生き残る最大の方向は色彩産業でしかない。生活者に基盤を置く色彩産業へと転換できるならば、新しい成長軌道がくっきりと描き出されている。しかも色彩パワーは業種をクロスオーバーする力を秘める。
領域を超えた商材の組み合わせ、新たなマーチャンダイジングができる可能性は、メーカーよりも流通業者の方が優位。生産という重石がない分、フットワークがあるからだ。
流通スタンスから生活産業への転換。これにはまず業界人の意識変化が前提となる。そして意識変化は新たな行動を引き起こす。意識変化の困難さはトップが変わっても社員が踊らないところにある。社員からすれば踊らないのではなく、踊るステージがないのだ。トップは組織を変え、働き方を変え、業務評価を変えるなどステージを用意しなくてはならないだろう。
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