Web特集
2010年08月27日
シリーズ: 地域力
地域力(第7回) 嘉納(秋田) 屋根ペン、セルフメンテ需要創出 消費者市場開拓が安定経営に貢献
秋田県の北部に位置する大館市。人口約8万人を数え、県北部の政治、経済、交通の中心を担う。豊富な森林資源に恵まれ、製材、木工、家具製造などが主要産業として盛ん。また全国的には比内鶏の産地、忠犬ハチ公生誕の地としても有名だ。 嘉納は市内中心部に近い国道7号線に面して立地している。毎年この時期(ゴールデンウィーク‐10月中旬まで)、国道を通り過ぎるドライバーや道行く人の目を引く白い大きなテントが店先の駐車場に現れる。"屋根ペン"の特設売り場だ。既に10年以上店先テント販売を続けており、「屋根ペンの時期」を連想させる風景としてすっかり地域に溶け込んだ。
同社は売上高の2割近くを地域の一般消費者を中心とした店頭販売が占めている。主力の業販部門では建築、車両、木工、重防食など幅広い分野を扱うが、「需要としてはやはり全体的に縮小傾向。加えて環境変化が激しく、相手先の要因による売上変動など他力本願では経営の安定化が図れない。対応の鉾先として一般消費者需要の開拓に目を向けた」(矢守社長)と説明する。 地域柄、ほとんどの住宅はトタン屋根を用いている。積雪による傷みを伴うため、数年に一度塗り替えるといったメンテナンスへの意識は高い。「農家の人などは元々セルフメンテナンスを行っているケースも多く、こうしたスタイルを一般消費者にも普及させることで需要の底上げを図る」方向を目指した。
同社がとった手法は主に3つ。市内幹線道路に面した立地を活用しての大型テント特設販売は目立つ上、「いつでもやっている」「屋根ペンのことならここに来ればいい」という安心感を与える。また毎年5月から8月にかけて月に2回地元新聞に広告を打ち、潜在意識への刷り込みも行っている。この2つはいわば地域への露出を高める手法。屋根メンテナンスの必要性を感じたとき、すぐに連想される存在になることが目的だ。 そして最も大切なのが対面販売の内容。相手は素人のため懇切丁寧なアドバイスがいる。「ホームセンターなどでは決して得られないプロならではの知識、ノウハウで的確にアドバイス。場合によっては現場に足を運び、下地の状況に合わせた仕様組み、必要量の算出と小分け販売、調色、施工法の指導などこと細かい対応を徹底した」。
一方、消費者側からすれば業者に頼むよりもはるかに安い金額でメンテナンスできるので何よりもお得感が高い。更にプロの適切なアドバイスも得られるので施工に関しても安心。総体的に満足度の高いこうしたサービスは当然のことながら口コミで広がり、点から線、面へと需要が広がっていく。地域需要の開発ではこの「口コミ」を発生させられるか否かが大きなポイントだ。 一般消費者への販売は、時間と手間が掛かるわりに売上単位は小額で「わりに合わない」とする業界通念が一般的。しかし「そこで折れてはいけない」と矢守社長。「ひとつひとつの取引は確かに小額でスポット。しかしそれが口コミで広がり面の需要としてボリュームが出たとき、売上のベースとして読める上、利益率の向上、回収リスクがないなど経営安定化に大きく貢献する」と自ら実践してきたことの成果を振り返る。
数年に一度、決まってお盆の時期に屋根ペンを買いにくる客がいる。話を聞いてみると『息子が帰省していて、やることもなく暇そうにしているから手伝わせてやるんだ』とぶっきら棒にこたえるが、「たまにしかない息子さんとの時間。一緒に作業ができる嬉しさが滲み出している。塗料・塗装が離れて暮らす父親と息子のコミュニケーションを演出する、こんな嬉しい使われ方はない」と顔をほころばせる。 地域消費者市場でセルフペイントを"普通のコト"として浸透させていくことをミッションとしている。最近では外壁でも使われ始め、内装向けの啓発では塗装教室も開催した。ペイントが普通のコトとして根付いた上で「塗料といえば嘉納」と地域ナンバーワンのポジションを築くのが矢守社長の目標。地域での圧倒的な認知度の高さは業販部門にも相乗効果をもたらすと見ている。「決してボリュームのある市場ではないが、地域市場に真剣に向き合うとまだまだ伸びしろはある」と先を見据える。
昭和38年創業。自身は日本ペイントで勤務したのち、昭和58年に入社。父親である先代の跡を継ぎ平成7年に社長に就任した。塗料の専門店としてのプロ意識が高い。調色、とりわけ難度の高い木工塗料の調色には絶対の自信を持つ。また7名の社員も建築、自補、木工、工業用、重防食などオールラウンドプレーヤーとして活躍。こうしたプロとしての専門性を地域市場で価値化するためにも消費者市場の開拓が必須と考えている。
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