Web特集
2011年02月10日
シリーズ: 塗るということの規範
塗るということの規範(27) 中嶋徹
日本の職業記述ではペインター(塗装職)は「建築塗装工」という名称が公式な職業名になります。そして建築塗装は「街の空間を美しく彩り快適な室内空間となるような仕上げ」をすることが役割とされています。「塗料を塗ることによって建築物の内部や表面に塗膜ができ、これらが汚れや雨を防ぎ、建材が腐食するのを防ぎます」という「to protect」とともに「建物を美しく保つために役立ちます」という「to decorate」という建築の仕上げがその仕事になります。そしてそれは建築の"美容師"に例えられています。
ただこの例えの定義については語られていません。「広辞苑」によれば、「美容」の意味は(1)美しい容貌(2)容貌、容姿、整髪を美しくすることと記されています。この国の一般的な「美容師」のイメージは「ヘアードレッサー(髪結い師)」であり、大きな範疇で捉えれば「ビューティシャン(美容師)」であり、また「コスメティシャン」(メイクアップ美容師)を指します。これらの「美容」に関わる仕事の呼び名も「ヘアー・アーティスト」「メイクアップ・アーティスト」「ネイル・アーティスト」です。職業記述にある「建築の美容師」に随えば、塗装の役割は「美粧機能」を施す職業になります。
しかしこの職業記述の文脈にあるのは、「コーティング」的な規範に基づく「to protect」であり、記述の結びには「塗装工は、これまでのようなペンキ職人ではなく、建築生産と建築物の保全の中で大きい役割を果たし、建物の皮膚と言える部分の仕上げを総合的に担う重要な職責を果たしているといってもいいでしょう」と記されています。つまり「表面被覆処理技術」が規範にあります。
ただ『職業的な歩みと展望』の中では「建築のグローバル化から高級塗装が求められ、塗装の職業は技能に加えて美に対するセンスを必要とした職業になってきました。高級ホテルやビルなどで用いられる工芸的塗装のデコラティブ・ペインティングはその一例です。また塗装の美的表現である色については、カラーコーディネーターの仕事とも重なり女性の新しい職場として入職者も増えつつあります」と記されています。「to decorate」への転換的な職業の展開が記されていますが、やはり「ペインティング」の規範が明確に語られているわけではありません。
この文脈的落差には旧態依然たる「塗装工」という業種的な規範から乖離できないことにあると言えます。私たちがもし「ペインティング」の規範に基づくならば、それは「デコレイター」という職業的な領域を創造的に拓くことになるはずです。
展望的に語るならば、現在の工事業分類で言う「塗装」「左官」「内装」といった建築仕上げに関わる横断的な領域を目指した職業的な達成を課していかねば、私たちは新たな時代の新たな座標を確固として得ることはできないはずです。(おわり) ※2007年執筆
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