2012/03/05 18:19

揺れるライン塗装No.163 JRCS・豊浦製作所 粉体塗装導入で省人化、合理化図る

世界造船竣工量において2009年に中国が韓国を抜き世界造船王国となった。日本の造船業界は価格競争力の低下とともに急速な円高によって厳しい環境に追い込まれている。「(国内の)船舶の受注残は2012年後半にもなくなる」といわれる中で、船舶用の動力・計装システムを手掛けるJRCS(本社・山口県下関市、社長・近藤高一郎氏)は全社一丸となってこの難局に立ち向かっている。一昨年の6月に導入した同社豊浦製作所の粉体塗装ラインを取材した。
20120125-6-1.jpg 
豊浦製作所全景

昨年9月に同社は船舶用配電機器、制御、計測機器の開発・製造を行う日本無線電機サービス社と販売を手掛けるジェーアールシーエスが合併し、現JRCSと商号を変更した。これによって多様化した船舶ニーズに迅速かつ的確に対応できる体制が固まった。開発から製造を担うのは旧日本無線電機サービス社の豊浦製作所だ。
同社の主な製品群は高圧配電盤・配電盤・始動器盤及び分電盤などの動力製品と監視・制御システムの計装製品に大別される。特にLNG船を始めとするハイグレード仕様船舶に採用されているインテグレーテッド・オートメーション「OASIS」は国内船舶を中心に高い採用率にあり、計装製品の主力製品となっている。また停泊中の船舶による大気汚染を防止するコールドアイロニングシステムなどニーズを先取りした製品開発にも力を注ぐ。


20120125-6-2.JPG 
取締役豊浦製作所 所長・中津留大典氏

同社の受注量の60%は国内の造船所からで残りの40%は韓国、中国といった海外。とりわけここ数年は中国からの受注量が増えている。しかし円高が大きな重しになっている。「弊社は国内で生産し輸出で対応してきた。加速する円高が大きな足かせになっている。中国の同業者との(価格)競争では全く勝負にならない。30~40%の開きがある」と取締役・豊浦製作所所長の中津留大典氏は嘆く。


20120125-6-3.JPG 
最新鋭の機械加工ライン

現在、中国の造船所向け製品に限っては現地メーカーと協同で製作して納めているが、主要部品は日本から送っているため、「それでも厳しい」というのが本音だ。
2003年以降受注量が旺盛になる中で、高品質が売りだった。外観品質では配電盤の筐体はスポット溶接が入るためにサンダー掛けをし、パテ付けを行い、更に研磨して塗装を行っていた。塗装も規定膜厚40μm以上を確保するため溶剤塗装で仕様により2コート1ベーク、3コート2ベークで仕上げていた。円高の進行に伴い、この品質の追求が中国製品とのコストの乖離を大きくした。


「リーマンショック後に新たな生産改革に踏み切り、生産性の向上を目的に設備投資を行い、最新鋭のパンチプレス、折り曲げ加工機、レーザー加工機を導入した。そして一昨年に溶剤塗装から粉体塗装に切り替えるなど合理化を進め、その一方で、ムダ取り活動を通して現場の見える化を推進してきた」と中津留所長。

コンパクトな粉体塗装ブース

塗装は30年前に導入した溶剤塗装設備に手を加えながら使用してきたが、老朽化が著しいためスクラップ&ビルドで粉体塗装を導入した。同時に小ロット・多色及び環境に対応するため新たにバッチ式の粉体・溶剤兼用水洗ブースと乾燥炉も設置した。
「粉体塗装の前処理ライン(リン酸鉄処理)と水切り乾燥炉は既設を使用し、ブースは専用色自動ブース、色替え自動ブース及び補正用の手吹きブースの3台を導入した。最大被塗物は高さ1200mm×幅2400mm×奥行600mmまで可能となっている」と同製作所の茶山誠氏。塗装機器は各機器メーカーの導入企業数社の製造現場を見学後、総合的に検討の上、いずれも日本パーカライジング製を採用した。
専用ブースと色替えブースは実績の高いマルチカラーブースを導入。いずれも1レシプロ3ガンを対面に設置するとともに、クイックマルチカラーブースの前身ともいえる床面左右に吸引ダクトを設け中央から両サイドに床ブローする仕組みだ。また天井と側壁は透明の樹脂を採用し、天井コーナー部は塗料の付着を抑えるためアール取りにしている。


20120125-6-4.JPG 
板金加工

塗料供給装置は塗料タンクの差し替えと簡単なエアブローで塗料色替えが行えるマルチボックス・フィード。更に定量供給装置・ジャストフィードを装備。ガンは最新式のGX8000シリーズを搭載している。1ガン当たりの吐出量は60g/minと抑え目に設定しており、平均膜厚は60~70μm。
専用ブースは7.5BG7/2という配電盤関連で使用されているうぐいす色の1色に対応しており、この色でほぼ全体の70%を占める。色替えブースは塗料タンク3台を備え、グレー系をメインに日に2回程度の色替えを行っている。手吹きブースはカートリッジ式のプラスチックブースでハンドガン2式を置く。ここは使い捨てとなっている。「色数は全部で約60色。近年多色化の方向にある。現状の色替え時間は1人で15分を要する」(茶山氏)という。


集塵機は自動ブース2台兼用となっており、ダンバーで切り替え運転をしていく仕組みだ。バッチ式ブースの吹き捨てにするケースも含めて現状の塗料使用効率は80~85%。


20120125-6-5.JPG
専用自動ブースの前景

数年をめどにオール粉体化

粉体塗料は神東塗料のポリエステル樹脂系粉体塗料を採用。使用している素材がクロメートフリー電気亜鉛めっき鋼板(通称ジンコート21)、ステンレス、アルミと船主のニーズに対応。通常、非鉄金属の場合は下塗りにプライマーを入れるが、今回の神東塗料の粉体塗料はプライマーレスの1回仕上げでOKというもの。従って素材に応じて仕様を変える必要がないことから手離れがよく、生産性に寄与しているという。
「従来から取り引きのある大手塗料メーカーは粉体塗料の小ロット・多色化に難色を示した。しかし神東塗料は我々の要求に対し誠実に対応して頂き、要求に適った塗料を開発して頂いた」と茶山氏。同社としては技術力と対応力に優れた塗料メーカーと取り引きをしたいとの思いがあった。


20120125-6-6.JPG 
1レシプロ3ガンを対面に設置しての塗装

20120125-6-7.JPG 

手吹きブース

20120125-6-8.JPG 

電気関連の組み付け

それは過去に塗装剥離のトラブルが生じた際に、前処理、塗料、機器の各社がそれぞれの言い分を述べるだけで解決にならなかったという苦い経験がある。以来、社内で塗料・塗装の勉強会を開催し、研鑽を積んできた。同時に試験装置を揃え、自社で評価を行える体制を整えた。「今回は日本パーカライジングに元請になって頂き設備はパーカエンジニアリングが担当した」と中津留所長は経緯を説明する。
また同社は数年後をめどに現在行っている小ロット・多色の溶剤塗装を粉体塗装に切り替える予定だ。オール粉体塗装にすることで更なるコストダウンと作業環境の改善を進める方針。「(今回)粉体塗装に切り替えることで塗料代が10%ほど節減するとともに現場の省人化が図られた。既に現場サイドから溶剤塗装はやめてほしいといった声も上がっており、(環境問題から)時代の要請にも応えていく必要がある」と工作グループ・グループリーダーの金田利寛氏はコメントする。


しかしその一方で筐体の塗装レス化が静かに進んでいる。めっき鋼板を使用することでコストダウンの要請に対応したものだ。「原価低減のニーズが強く、塗装レスもコストダウンの選択肢のひとつ」(中津留所長)と明かす。

見える化による生産改革

組み立て工程は配線関連を主にオーダーごとにミスのないよう慎重に行われる。とりわけ電子部品の製造・組み付け工程は煩雑な作業なだけに仕様に合わせて電線の色を変えるなど細やかな気配りと必要な量だけを揃えることで未然にミスを防ぐ工夫を図っている。「部品供給は必要な所に、必要な量を、必要な時に搬送するようにしている」(中津留所長)と社内配送に専任のスタッフを配して行っている。


また事務部門を含め現場での見える化活動では、各セクションにVMボードを掲げ、生産管理、原価低減、省力化、人材の育成などテーマを決めて取り組んでいる。電子部品の製造工程ならば人材育成、原価低減、品質の3つをテーマに掲げる。特に人材育成では習熟度に応じてA~Cランクに分け、それぞれがひとつ下のランクの人材を指導し、スキルアップを図ることで全体のレベルアップに結びつけるという仕組みだ。同時に改善提案などさまざまな工夫を凝らしムダの排除を進めている。


更に女子社員の雇用維持の観点から4年前に社内託児所「ラッコランド」を開設した他、技術の伝承を目的に「技能道場」を設置。まさに人材は人財に他ならず、同社の経営ポリシーを見たように思う。


20120125-6-9.JPG 
社内託児所「ラッコランド」