2013/02/25 12:29

実践ボディショップマネージメント(9) 第8章 理念浸透型経営 伊倉大介

第8章 理念浸透型経営

前々章、前章では社内コミュニケーションについてお話させていただきました。コミュニケーション環境を整え、心の通ったチーム作りをするには、チーム内の価値観を揃える必要があります。全く違う価値観の下でいくら話し合いを続けても答えが出ないからです。


私は過去の経験から「人が会社を作る」ということを痛感しています。1人の人間ができること、1人の人間の発想には限りがあります。だからこそ会社というチームで、1人1人がともに手を取り合いながら同じ価値観の下で進んでいく必要があると考えています。しかしながら、板金塗装業では日々の業務に追われ、目先の仕事をこなすことに終始し、「何のために仕事をしているのか」を考えていない工場が多いのが実情です。技術向上や売上確保が先行されがちな板金塗装業界の実情がそのような「根本を考えるきっかけ」を失わせている原因のひとつかもしれません。皆様の工場でもありませんか?「経営者として何を目指せばいいかわからない」「やる気がなく、不満ばかり言っている社員がいる」「それぞれの社員のモチベーションに差がある」「与えた仕事はこなすが自発的な工夫や提案がない」。実際に私の工場でも社員が増えていくにつれて、そのようなことが起こっていました。仕事に対する価値観の違いを明確にするため、レンガ職人の話をここでご紹介します。


とある場所で完成までに100年かかる教会を3人のレンガ職人が作っていました。そこに1人の旅人が通りかかります。旅人は3人の職人に「あなたは何のために仕事をしているのですか?」と尋ねます。1人目の職人は「見りゃわかるだろ。ただレンガを積んでいるだけだよ」と答えました。2人目は 「レンガを積んで壁を作っています、この仕事は大変ですが賃金が良いからやっています」と答えました。3人目の職人に同じ質問をすると「教会を作るためにレンガを積んでいます、この教会は多くの信者の心のよりどころとなり完成したら多くの人が喜ぶでしょう」と答えたそうです。


同じ仕事をしている人間でも「何のために仕事をしているのか」という考え方がこんなにも違う。価値観の違いで日々の仕事のモチベーションにも必ず差が出てきます。モチベーションの差は実際の仕事の結果にも反映し、長い目で見るとそれぞれの人間の成長にも大きく差が出ることとなります。
板金塗装業界でも同じことが言えるのではないでしょうか。それぞれの社員に対し自分たちの仕事に対する目的意識を明確にし、高い向上心を持って仕事をしてもらうには、会社全体が同じ価値観の下に進んでいく必要があるわけです。そこで私たちが取り組んだのが「理念浸透型経営」です。


私はまず、会社の軸である「経営理念」を作りました。会社は何を大切にして何のために存在しているのかを経営理念としてはっきりさせました。
そしてその経営理念を社員全員に浸透させます。ミーティングの時に繰り返し理念に触れ、作業や役割をひとつひとつ理念に結び付けます。また、新規に何か始めることに取り組む時も、理念とリンクさせて提案し、協力を仰ぎます。逆を言えば、理念にそぐわないことはすべて否定され、実施することができません。私の会社では理念は絶対的な存在であり、どんな価値観よりも尊重される会社の軸なのです。

大切にしている事を文字にする

経営理念を作るというと堅苦しく感じるかもしれませんが、私は「会社が大切にしている考えを単純に文字にする」作業だと思っています。
ここで、最も簡単な作り方をご紹介します。経営者が自分の会社で大切だと思われるキーワードを20個、紙に書き出します。その20個を今度は大切にしている順番に並べます。その後、上位3~5つを組み合わせて一文にしてみてください。それだけでも会社が「何を大切にしているか」が見えてくるはずです。ただ、経営者が思っているだけ、言葉で発しているだけでは社員には伝わりません。文字にすることに価値があるのです。経営者の想いや考えを、会社の価値観や軸として文字化して明確にすることで、会社というチーム全体の意識を「統率すること」が可能となるのです。


また、理念は一度作ったからといって変更できないものではありません。もちろん大きく変化させることは、軸がぶれてしまうために難しいのですが、状況を勘案して、その時点で最適な価値観や文言を選ぶべきです。
理念ができると、その軸から逸れず、流れに沿っている限り、それぞれの社員は自由な発想で行動することができます。どんな作業でもどんな行動でもどんな提案でも、理念に則しているか否かが判断規準になります。つまり、会社の中に緩やかな法律、ルールができ、組織に統率力が生まれるのです。


私の工場が社員全員に対して考え続けてもらいたいことは、「作業指示書に書いてある作業をしている」ではなく「給料をもらって生活するために作業をしている」でもありません。「お客様の喜ぶ顔がみたい。お客様に感動を与えたい」を超えて、「社会に価値を提供し、社会に貢献する」を最終的に目指してもらいたい。今もそれを実現するための仕組みを考え続けています。
次章からは、理念浸透型経営にプラスして会社というチームが一丸となって進んでいくために必要不可欠な、ビジョン経営の話を進めていきます。

プロフィール:
 伊倉大介氏(いくら・だいすけ)。1976年生まれ。東京都目黒区出身。
 1997年伊倉鈑金塗装工業代表取締役に就任。2003年コーティング事業開始。2007年オークション代行業務開始。2008年廃車受付業務、レンタカー業務開始。2011年BP経営支援会社「アドガレージ」設立、代表取締役に就任。
 2012年1月現在、社員10名、修理工場8人体制。