2013/09/04 18:18

実践ボディショップマネージメント(14) 第13章 人材育成について 伊倉大介

第13章 人材育成について

前章では社員に対する取り組みとして、人事評価について触れました。人事評価の大きな目的は「人材育成」にあります。この章では、私たちがどのようなスタンスで人材育成に取り組んでいるかをお話していきます。私たちの経営の基本思想は「人間経営」にあります。経営の要素として「人・物・金・情報」とよく言われますが、そのすべては人が左右しています。社内外を問わず、人と人との関わりを重要視し、私たちに関わる方々の幸せに、少しでも寄与したいと考えています。その考えのもと、まずは身近な存在で日々接する社員が幸せになるにはどうすればいいのかを常に考え、改善に取り組んでいます。

私たちの板金塗装業界は労働集約型の仕事であり、職人の技術力が経営を大きく左右します。そのため人材育成というと、どうしても技術力向上へ視点がいきがちです。もちろん、技術力の向上は欠かせない大切な課題の1つです。しかし技術一辺倒では、一般的な「社会人としての総合能力」が上がらないケースも出てくるのが実情です。

そこで私たちは人事評価制度の中で、コンピテンシーに対して評価をします。コンピテンシーとは「ある職務や役割において優秀な成果を発揮する行動特性」を指します。私たちの評価制度は5グレードに分かれており、社員の成長の度合いによって1グレードから5グレードまでの階段を登っていきます。見習いは1グレード、仕事が自己完遂できるようになると2グレード、部門長クラスが3グレード、工場長クラスが4グレード、そして経営幹部や執行役員クラスが5グレードとなります。それぞれのグレードにはそれぞれのグレードで仕事上求められるコンピテンシーが変わってきます。

たとえば見習いの段階である1グレードに求めているコンピテンシー(行動特性)は、「誠実な対応」「ルール遵守」「成長意欲」等の社会人として最低限必要なこととなります。2グレードでは「問題分析」「情報収集」「柔軟な対応」など仕事を自己完遂する上で必要な行動特性を求めます。3グレードは「目標達成」「人材育成」「課題形成」など、部門長クラスとしてよりマネジメントに対しての行動が求められます。4グレード、5グレードではよりマネジメントに特化した行動が求められてきます。

一般社会で「出世する」ということは、その人間が「いかにたくさんの人に影響力を及ぼしているか」とほぼ同じ意味になると考えます。課長、部長、専務、社長と出世していくということはより多くの部下を抱え、部下に対しての責任が生じます。その責任を全うするためには、マネジメント能力を総合的に高めていく必要があり、それぞれの立場、役職、グレードに必要であろう行動が変わってくるのです。

私たちは社員が置かれている各ステージをグレードと位置づけ、社員の能力の段階によって、「会社としてはあなたに、社会人としてこのような行動をしてほしい」というメッセージを明確にするために、それを人事評価制度の中に組み込んでいます。社員からすると、「自分が置かれているステージにおいて、どんな行動をとらなければならないか」がはっきりとし、また、それを最終的に評価されることによって、自分の得手不得手が明確になります。
また私たちは工場では、マネジメントや接客マナー、目標管理など、社会人一般のスキルアップのためのセミナー・講演会に積極的に参加をするように促しています。自分の現状をはっきりと把握して不得手な部分が明確になっていれば、自分がどんな知識を身につけ、どのように行動しなければならないのかが明確になり、自主的にその苦手な部分を補うために学ぶようになると考えています。

人材育成は会社が仕組みや取り組みを提供し、それにより社員個々が積極的に成長しようと意識を持ってもらい、自主的に行動に移してもらうことにより実現します。私たちは「人材を育成する」という、会社側からの押しつけの視点ではなく、「個人の成長に対するヒントを与え、意識を高めるフォローをする」という視点で「人財育成」に取り組んでいます。

人としての成長を考える

業界の現実に目を向けてみると、ベテランから中堅層、更に若い世代まで、技術を継承させていくことが急務となっています。そんな中、今後の若い世代が職人技術を継承しながら、板金塗装の技術者として生きていくには相当な努力が必要になることは明らかです。従来通りの「見て覚えろ」ではなく、会社として成長をサポートしていく体制作りが必要なのです。
社員の中には途中で挫折する人間が出てくるケースも考えられます。私たちは、たとえその社員が、数年働いた後、会社を辞め、全く異なる業種に転職したとしても、「あの工場での〇年間は自己成長において無駄ではなかった」と思ってもらえるような教育・育成をしていきたいと考えています。

板金塗装の技術や知識だけでなく、より広い視野で、人材育成・社員教育を捉え、人としての成長を促すことで、技術成長を安定・加速させる、そんな取り組みも板金塗装工場経営者にとって大きな責任になってきます。そしてそのことが社会に対する価値提供につながり、社会から認められる業界を作る上で大きな役割を果たすのではないでしょうか。次章は「雇用・採用」について話を進めていきます。

プロフィール:
伊倉大介氏(いくら・だいすけ)。1976年生まれ。東京都目黒区出身。
1997年伊倉鈑金塗装工業代表取締役に就任。2003年コーティング事業開始。2007年オークション代行業務開始。2008年廃車受付業務、レンタカー業務開始。2011年BP経営支援会社「アドガレージ」設立、代表取締役に就任。
2012年1月現在、社員10名、修理工場8人体制。