2014/02/21 12:00

実践ボディショップマネージメント(22) 第21章 事業継承について 伊倉大介

第21章 事業承継について

私は全国各地で講演をさせて頂き、何人もの社長さんや後継者さんとお話をさせていただく中で、板金塗装業界の事業承継をスムーズに進めていくことが、各工場が解決すべき大きな課題の1つだと感じています。我々の業界内では、以下のような問題が多いのです。「経営者の御子息が親の事業に魅力を感じていない」「後継者に事業を継がせるタイミングが極端に遅い」「後継者(身内でも身内外でも)の経営者としての意識や責任感が希薄である」
では具体的にはその問題をどう解決していくべきなのでしょうか。私自身は大学生の時に父を亡くし会社を継ぎ実質的には2代目というよりも1.5代目くらいの感覚で経営をしています。早い段階から経営者としての業務をやらざる得ない状況の中で、後継者が「経営者としての責任感」を持つことの必要性を痛感しています。
ですから後継者が早い段階で事業承継に対して意欲を持ち、知識を広げつつ情報を整理して、しっかりと会社を譲り受ける準備をする必要があります。後継者が未来の経営者として必要な知識や取り組みは、財務管理や経営戦略、商圏分析や集客の仕組み等々、多岐にわたりますが、私は最も重要なことが3つあると考えています。
1.自社の的確な現状把握
現在の会社の状況を財務面・集客面・組織面から的確に把握します。今現在、会社はどのように集客し、どのような財務状況で、また、どのような人材がいて、どのように経営がなされているのか。感覚ではなく、定量的に判断ができる数字を把握することが必要となります。
2.会社の軸を明確にする
社員の立場からすると、経営者の交代に際して最も不安な要素は、「変化」です。社長が変わることによって、職場環境が変わる。待遇が変わる。自分たちへの思いが変わることを恐れます。この不安を取り去るには、経営者と後継者が協力し、時には幹部を巻き込んで会社の軸を経営理念として「明確に文字化する」必要があります。社長の気まぐれな言葉だけでなく、経営理念という形でそれを会社経営の基準やルールにしていくわけです。また経営ビジョンを明確にすることで、社員が会社の未来像をイメージできるようになります。経営理念という「会社の事業に対する考え方」を基に、ビジョンという「会社の未来像」を構築する必要があるのです。事業承継の時期は多少なりとも変化を伴うので、今までやっていなかったことにも取り組めるチャンスの時期でもあると思います。
3.経営計画の作成
現状を把握し、ビジョンができたら、それを経営数字に落とし込みます。その段階で現状とビジョンの差がはっきりするので、その差を埋めるための経営計画を作ります。たとえば、現在の年商が5,000万円で、10年後に1億の会社を目指すのであれば、10年間で5,000万円多く売り上げる会社を作らなければなりません。そう考えると、5年後には7,500万円、3年後には6,500万円、1年後には5,500万円の売上にしていく必要がある。ビジョンから逆算して経営計画を作るのです。
上記3つの取り組みは、社長と後継者がしっかりと想いや情報の共有を図りながら進めなければなりません。同族承継でも他人承継でも、コミュニケーションを密にとって、できる限り融合を図りながら進める必要があります。
承継のタイミングが見えてきたら、財務面での承継準備をしていきます。贈与や名義変更、資本面や借入金など、譲る側と譲られる側の双方のバランスを考えながら、お互いにいい条件で、無理せず引き継ぎができる対策をしていきます。また、社外に対しての配慮も必要です。お客様や取引先(特に銀行)に対し、今までと変わらない信用を保つためには、承継に関しても情報共有しておく必要があります。

できる限り早い承継を

私は経験上、事業承継は早ければ早いほど、いいと考えています。会社の代表者は、実際に金銭的な経営責任を負わない限り、真の責任感は生まれないと思うからです。その観点からすると、後継者はできる限り早い段階で経営者という立場に立ち、その責任感の中で役割をこなしていくことが、会社にとってプラスになるのではないでしょうか。私たちの業界では、70歳の社長がバリバリの現役で、50歳の専務に経営知識や責任感が欠如しているパターンが多くみられます。その状況は、交代の運転手がいないツアーバスのような状況と言えるのではないでしょうか。運転手(社長)が疲れて、運転をしながら眠ってしまったらどうなるか。
早い段階で事業承継をして、責任感が芽生えると、会社経営に対する意識が変わり、改めて自社の将来について真剣に考えるようになります。それが、経営知識の習得や、会社の具体的な経営改善につながっていくのです。ですから現社長は、できる限り早く経営者を退きつつ、本気で後継者をバックアップしてあげて頂きたいと思っています。それに対して後継者は、「こいつなら譲れる」と社長が思うような根拠を示す必要があります。それには現状を把握し、会社の軸を明確にした上で、具体的な経営計画を作り、社長に根拠のある説明をしていく努力をする必要があります。「早い段階で、後継者が経営者になるための準備をして、それを見た社長さんが、納得して譲れる環境を作る」ことが理想的な事業承継と言えるのではないでしょうか。 

プロフィール:
伊倉大介氏(いくら・だいすけ)。1976年生まれ。東京都目黒区出身。
1997年伊倉鈑金塗装工業代表取締役に就任。2003年コーティング事業開始。2007年オークション代行業務開始。2008年廃車受付業務、レンタカー業務開始。2011年BP経営支援会社「アドガレージ」設立、代表取締役に就任。
2013年8月現在、社員12名、修理工場9人体制。