2015/02/19 10:31

~技術を旅する~(第11回) 応用編・水素脆性 小柳塗工所・小柳拓央

皆さん、こんにちは。「技術を旅する」今回は水素脆性(読み:すいそぜいせい)についてお話しをします。


塗装屋には聞き慣れない用語
水素脆性という言葉は、初めて聞く方もいるかもしれません。別の用語で、「水素遅れ破壊」とも言います。これは金属の結晶粒界(すきま)から、水素が金属内に侵入し、膨張することで金属を破壊する現象です。塗装の工程では酸洗い時に注意する必要があります。
酸洗いは、めっき処理の表面活性によく使用する工程です。しかし、塗装では必ずしも行う工程ではなく、鉄の錆び取りや素材のエッチングなど、水洗脱脂の直前に行うことがあります。


ただし、「酸洗い」すべてが悪影響するわけではありません。注意が必要なのは主にバネ材と溶接している部材です。これらの部材に応力(特に引っ張り応力)がかかっているとき、後々になって水素が膨張して破断します。「遅れ破壊」と別名で呼ばれるのも、数か月後に発生することがあるからです。
筆者の会社でも、バネを扱う顧客から、「水素脆性が発生するので、錆があっても絶対に酸洗いによる錆び取りはしないこと」との約束で仕事を頂いたことがあります。
また、溶接の専門家からも、溶接後の塗装工程に関して、溶接した部分のスケール取りには、「酸洗いは注意」と話をしたことがあります。


しかし、酸に対して過度に心配する必要はありません。酸でも影響する要因はpH濃度と接触時間です。前処理のリン酸塩皮膜は、弱酸で時間も短く、これが水素脆性に影響するという話はほとんど聞きません。
ちなみに、カチオン電着塗装では水素脆性を心配し、バネ材への採用を敬遠されたことがあります。先方の回答理由として、カチオン電着塗装は、通電時に水の電気分解で水素が発生し素材に触れるからです。
「カチオン電着塗装で水素脆性するのか?」と質問されれば、「経験したことはありません。しかし、絶対に"ない"とは言えません。心配なら実験、検証しましょう」と答えています。その上で、「仕事を頂いて、問題ないものは多くあります」とお伝えしています。


工業試験所には、水素脆性の試験もあります。顧客から懸案された場合は、検証した上で、仕様に反映すると良いでしょう。
ちなみに金属が水素を吸収する現象は、水素脆性のように悪い影響だけではありません。水素吸蔵合金と呼ぶ、水素を蓄える合金がハイテク技術であります。これは水素で走る燃料電池の自動車の技術にも一部応用されています。水素自動車の今後の普及は、水素の貯蔵技術の進歩がカギを握ります。次回は防食技術の話です。