2015/09/03 15:28

雨仕舞から塗装を考える① ~"塗る"より大切なこと~ 原田芳一

プロローグ
まずは私が広めたいと思っております「雨仕舞(あまじまい)」について説明致します。
雨仕舞とは、狭義としては「雨水を建物外部に速やかに排出する仕組み」のことです。個人的には、「防水」の概念、つまり雨水の浸入をシャットアウトする在り様とは対比するものと捉えています。


さて建築塗装の多くを占める改修工事、いわゆる塗り替え工事を依頼するお客様は、「塗り替え」という言葉の他に、建物を長くもたせたいと望んでいます。従って、我々が塗り替え工事を行った後は、建物がもつような状態へと変わっていなければなりません。しかしながら、市場で多く行われている塗り替え工事は、必ずしもそうなっていないのではないかという疑念をかねてから抱いておりました。


では、「もつ」とか「もたない」とは、いったいどのような状態を指してのことなのでしょうか?
改めてその言葉に向き合うと、大変あいまいな言い回しであることに気づかされます。また、そうであるならば、きちんと定義づけを行うことが必要と考えました。
その際最も優先すべきことは、誰にとっての「もつ」「もたない」なのか。その対象を定めることです。ここでは、日本の住宅建物で最も多い木造住宅の所有者を対象にします。


住宅所有者の多くは、所有する住宅に対し、生涯で最も大きな買い物であるという意識を持っていると思います。そのため所有者が一番恐れるのは、住宅の価値が失われていくことです。
建物の資産価値が失われる最も大きな要因は、構造体の不具合です。きちんと建っていられない建物に資産価値はつきません。構造体の不具合は、地震やシロアリなどの外的な要因を除けば、ほとんどが腐食によってもたらされます。そのため「もつ」「もたない」とは、腐食の有無によって関連づけられ、「腐食する」「腐食しない」に類義するといえます。


腐食は腐朽菌が発生することで起こります。腐朽菌が生息するには水分が必要ですので、木材に常に水分が供給されていれば、腐食が起こる条件が整います。逆をいえば、水が介在していなければ腐食は起こりません。つまり、建物に水分が介入するメカニズムを断つことが、建物をもたせることの本質なのです。
実際、建物内部に意図しない水分が存在する原因を挙げれば、そのほとんどが雨水の浸入、いわゆる「雨漏り」によるものと、結露によるもののどちらかです。


雨漏りを防ぐための対策として、誰もが思いつくのが「防水」でしょう。しかしながら、建物内部に水分を介在させないためには、防水だけを考えていれば良いわけではありません。なぜなら建物内部に生物の営みがあれば、必ず水分が発生し、内外の温度差により結露として顕在化するからです。例えば建物表面をすべてラッピングして防水すればどうなるでしょうか。内部結露により腐朽菌が発生し、腐食が進行してしまうでしょう。
水の移動は原則として上から下への一方通行ですが、水蒸気は下から上へと移動します。そのため、防水の概念を越えた「雨仕舞」の考え方が重要になってくるのです。


雨仕舞の考え方を取り入れるなら、一定のルールの下ですき間を設けることが必要になります。そうすれば、そのすき間から換気がなされ、外部からの水分の浸入を防ぐことと、内部に発生した水分を外部に排出させることの双方を両立します。また雨仕舞の仕組みによって、建物内部における水分の滞留を防ぐことが可能になり、ひいては建物の維持延命をもたらします。特に高温多湿な日本の気候下においては、雨仕舞なしには建物の維持を図ることができないと考えます。


現実には、雨仕舞が考慮されていない建物があったとしても、新築時に雨仕舞の仕組みが施されていなければ、改修工事で行える内容に限りがある場合があります。しかし重要なのは、雨仕舞を知識として有していない者が改修工事を行うことで、水分の逃げ道を埋めてしまい、施工後により腐食を促進させてしまう問題を防がなくてはなりません。実際にそういった事例は数多く存在します。従って改修工事に従事する者にとって、雨仕舞は知らなくてはならない概念であるといえます。


今回、連載を進めるにあたり、ひとつだけはっきりさせておくべき前提を示したいと思います。それは塗装しただけでは雨漏りは止まらないということです。
水を通さないためには、すき間のない塗膜を形成させなければなりません。しかしながら、我々が普段行っている塗り替え工事で生成された塗膜は、完璧にすき間を埋めてしまうほどの厚みはついていません。また塗らない箇所との取り合い(接合部)はすき間として残り、塗装しない箇所にあるすき間はそのままです。


よって我々が一般的に行う塗装工事の内容では雨水の浸入を止めることに深く寄与していないため、建物を「もたせる」ことにつながらないのです。こうしたことから塗料は改修工事におけるひとつの材料に過ぎず、塗装は改修工事におけるひとつの手段に過ぎないといえます。
次回以降は、塗料・塗装を通じて、どのような考えに立脚すれば、建物をもたせることができるのかについて、具体的に考えていきたいと思います。

※今号から原田芳一氏による連載がスタートします。建物を腐食させる最大の要因である「水」に対し、改修工事でどのような対策を施すべきか。また塗装の注意点や部位や素材に応じたアプローチ方法について実践的な解説をします。ご期待ください。
(編集部)

◇プロフィール
原田芳一氏。株式会社リペイント湘南(神奈川県藤沢市)代表取締役。塗装・防水工事を主体に年間100件以上に及ぶ建物調査を実施。「究極の雨仕舞は、100年住宅を可能にする」をコンセプトに資産価値に寄与する総合改修工事業の構築を目指す。47歳。