2015/11/05 17:13

雨仕舞から塗装を考える③ ~"塗る"より大切なこと~ 原田芳一

―第2章―
カッパと傘の違い

前回までの話で、構造体の腐食に最も影響を及ぼすものが水分であること、水分の供給は、そのほとんどが雨水の浸入と結露であること、そして雨水の浸入と結露を同時に抑制するために「雨仕舞」の考え方が重要であると述べさせていただきました。そこで本連載のキーワードとなる「雨仕舞」について、分かりやすく説明したいと思います。


雨仕舞の目的の1つに、建物内部に水を浸入させず、かつ建物外部に水蒸気を排出させるための仕組みを構築することが挙げられます。水蒸気の排出が求められますので、密閉した空間を作らずに雨水の浸入を食い止めなければなりません。これを可能にするのが、水と水蒸気の動きの違いです。水は、基本的には重力にしたがって動きますので上から下への一方通行です。かたや水蒸気は比重が軽いので、下から上へも動きますし、気圧差やそれに伴う風によって自在に移動します。したがって、雨水が建物から離れるような形状に開口してあげれば、その仕組みが成り立つのです。


雨仕舞とそれと対比する(建築)防水との違いについては、雨天時に外出する際に用いる雨具をイメージすると分かりやすいかもしれません。
多くの方は、雨の日には傘を差して出かけられると思います。ただし、自転車やバイクに乗るときや作業の際など、どうしても手を塞ぐことができない場合には、カッパを着ることがあるかもしれません。カッパを装着したときの不快感は、この場で説明するまでもないでしょうが、雨が浸入していないのに内側がビショビショに濡れてしまいます。また顔を覆うことができないため、首筋などから雨水が浸入してしまうこともあります。何より装着するのが大変面倒です。


その点、傘は上記の不具合をほとんど解消してくれます。まず、蒸れることがありません。また、足元より頭の方に雨がかからない仕組みなので、体の上から下へ雨水が伝ったりすることはほとんどありません。そして、傘を差す行為はとても簡単に行えます。
このことは、そのまま雨仕舞と防水に当てはまります。
防水は、カッパを着るようなものです。湿気の逃げ道がなければ、内側は蒸れてしまいます。また防水層の中央部よりも継ぎ目や端部の方に雨水が浸入する恐れが高くなります。そして、防水層を設けるためには、既存の下地の状態や構造上の問題といった不確定な要素をクリアする必要があり、そういった意味では大変面倒です。


一方、雨仕舞は傘を差すようなものです。密閉しないので、建物内部が蒸れること、すなわち結露を防ぎます。また雨仕舞においては、仕組みとして継ぎ目から雨が浸入しないようにしているため、継ぎ目が弱点になることはありません。加えて、雨仕舞は形状を工夫していくものであり、対象物全体をどうにかして覆い隠さなければならない防水に比べ、不確定な要素に左右されるリスクは格段に少なくなります。
もちろん、雨仕舞を是とし、防水を否定するものではありません。そもそも雨仕舞と防水は完全に対をなすものではありません。建築においてはどちらも不可欠ですし、建物内で共存しているのが当然です。


ただし、高温多湿である日本の気候において、こと木造の建築物に関しては、設計段階からなるべく雨水を溜め込まない構造にした方が、より腐食のリスクを回避することができます。すなわち、できる限り屋上やルーフバルコニーなどを避け、防水層に頼らない仕組みを構築すれば、腐食しない確率が高まるのです。
その仕組みを具現化しているのが、近世以前から存在している建築物、例えば寺社仏閣です。
写真は、法隆寺の五重塔です。この写真を見て、壁面に雨がかかる様子を想像してみてください。それには、台風による猛烈な風雨をイメージする必要があったでしょう。そうなのです。五重塔の壁面には、滅多なことでは雨がかかりません。外壁の板材にすき間が空いていようが、しっくいにひびが入っていようが、あまり問題にはならないのです。

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「法隆寺五重塔」(写真=裏辺研究所)


私がかつて宿泊した古民家の窓には雨戸がなく、障子のみで外部と仕切られていました。家主曰く「普通の雨では障子が濡れたりしない」のだそうです。その古民家の軒は壁から1m以上外に張り出していました。まさに大きな傘を差したような感じです。こういった建物においては、防水の概念はほとんど必要ないのです。
このように、雨がかりのない壁面をもたらすことが、雨仕舞の大きな目的のひとつです。


我々塗装業者は、塗装によって防水化が図れれば建物をもたせることができると考えがちであり、また、そのように説明しがちです。しかし、そうではない要素が数多くあることに、もっと目を向けなければなりません。
先人は、脈々と受け継がれた経験則から、土壌、風土に合った様式を見出し、選択し、用いてきました。だからこそ、先の五重塔のように、千数百年以上前の建築物が現存しているのです。
我々は、そういった歴史的な建造物や古民家から、先人の知恵に触れ、その真理を理解し、今の生活に積極的に組み入れていくことを、もっと重要視すべきだと感じています。



◇プロフィール
原田芳一氏。株式会社リペイント湘南(神奈川県藤沢市)代表取締役。塗装・防水工事を主体に年間100件以上に及ぶ建物調査を実施。「究極の雨仕舞は、100年住宅を可能にする」をコンセプトに資産価値に寄与する総合改修工事業の構築を目指す。47歳。