2016/02/26 10:39

雨仕舞から塗装を考える⑥ ~"塗る"より大切なこと~ 原田芳一

―第5章―
塗膜が剥がれる原因とは

塗装工事における不具合の中で最も目立つのが、塗膜の剥がれです。そして、その原因の多くに水分をはじめとする液体が関わっています。剥がれのメカニズムとしては、そのほとんどが塗膜と外壁など、塗る「相手」(被塗物)との間に液体が入り込むことによるものですが、入り込むタイミングはさまざまです。
まず、対象物が濡れているのに塗装してしまう場合が考えられます。このケースでは、液体が挟まることによる密着不良に加え、塗料が意図しない液体と混ざり合うことによって、塗料が固まらずに塗膜が形成されない、いわゆる硬化不良を引き起こします。


次に、塗膜が硬化する前に塗り重ねてしまえば、先に塗った塗料が固まらなくなる恐れがあります。そのような状況になると、塗料そのものが液体として作用するので、膨れの原因となってしまいます。また前回まで述べてきましたように、塗膜上部の雨仕舞や防水の不具合によって雨水が入り込むことがあります。更に断熱材が適切に設けられていなかったり、内部換気に問題があったりすると、室内の湿気が塗膜の内側で結露することもあります。
とここまで、さも当然のごとく書き連ねておりますが、中にはある疑問が湧いている方もおられるでしょう。そもそも、対象物に密着していなければ、液体が入り込む、入り込まないにかかわらず、塗膜は剥がれるのではないでしょうか?
実はそうではありません。たとえ密着していなくても、塗膜同士がつながっているので、それだけで剥がれることはありません。塗膜が剥がれるには、剥がそうとする力、エネルギーが必要だからです。では、剥がそうとするエネルギーとは具体的には何でしょうか?


先に述べましたように、塗膜同士はつながっていますので、剥がすにはそのつながりを断ち切らなければなりません。無論、自然には切れませんから、何らかの外的な力が必要になります。
例えば、意図的に塗膜を剥がそうと思えば、硬く鋭い道具を用いて、塗膜を傷つけようとするでしょう。そういった外的な力の中で最も影響するのが、液体から気体へ変わる力、すなわち気化なのです。物質が液体から気体へと変化する際に、その体積は爆発的に増加します。例えば水の場合、水蒸気に変わると体積は約1,700倍になります。そのエネルギーによって塗膜が膨れ、塗膜同士のつながりが切断され、塗膜が剥がれるのです。


さて、剥がれたり膨れたりしている箇所を補修する際、その塗膜を削り取り、ペーパーをあてるなどして下地を調整した上で、塗り直してはいませんか?それではまた同じように剥がれしまうでしょう。なぜなら、剥がれた原因を特定し、解消・改善していないからです。ですから塗膜の剥がれを直す前に、剥がれた原因を詳しく調べることを怠ってはなりません。そして、剥がれの原因のうち最も多いケースが塗膜内部への雨水の浸入です。従って、塗膜の剥がれを見かけたら、まずは剥がれた箇所の上方に雨水の浸入口があるかを確認すべきです。


さて、こうして塗膜が剥がれる理由についていくつか触れてきましたので、塗膜の剥がれについて少しずつイメージできるようになってきたかと思います。実は、塗膜の膨れや剥がれはある程度予測が可能なのです。
まずは、既存の塗膜が膨れている、または剥がれている箇所を調べます。その周辺下地は何らかの原因で液体が浸入し、とどまりやすい環境となっている可能性が高いので、そのまま塗装すると再び発生してしまうリスクがあります。下地や基材に水分を多く含んでいる箇所ももちろん剥がれやすいです。従って塗装する前に対象物に触れたりして確認する必要があります。

20160210-6-1.JPG

写真①


写真①は窯業系サイディングボード外壁の表面ですが、剥がれている箇所が黒っぽく見えます。このように基材が白ではなく黒っぽくなっていたら、間違いなく水分を含んでいます。この剥がれを単に塗装してしまうと、水分は逃げ場を失い、その結果として、水が気化する際のエネルギーによって塗膜が剥がれてしまうのです。
私は最近、建物調査の際に写真②のような水分計を持ってゆきます。そして、塗膜が剥がれている箇所の水分率を計測し、塗装が可能かを判断するようにしています。

20160210-6-2.JPG

写真②


また、下地の状態ではなく、被塗物(塗る相手)周辺の形状でも、ある程度の危険度を判断することができます。
例えば、軒のない建物の外壁を塗装する場合、上部の防水、特にパラペットや笠木内部の防水は同時に行うべきです。なぜなら現状では防水層に不具合が生じていなくても、塗り替えた塗膜と更新していない防水層なら、防水の方が先に不具合をきたす確率が高いからです。外壁の塗装がしっかりとしているのに対し、上部の防水層が壊れてしまえばどうなってしまうかは想像に難くありません。
このように、塗膜の膨れや剥がれは、その大多数において経年劣化ではないところに原因があります。従って代表的な膨れ・剥がれの原因をパターン化して認識していれば、塗装する前に塗膜が剥がれる事故をある程度避けることができるのです。

◇プロフィール
原田芳一氏。株式会社リペイント湘南(神奈川県藤沢市)代表取締役。塗装・防水工事を主体に年間100件以上に及ぶ建物調査を実施。「究極の雨仕舞は、100年住宅を可能にする」をコンセプトに資産価値に寄与する総合改修工事業の構築を目指す。47歳。