2016/05/19 11:14

雨仕舞から塗装を考える⑧ ~"塗る"より大切なこと~ 原田芳一

―第7章―
カバー工法のリスクを知る

さて前回は、写真①のようなサイディングボード下端に適切なすき間がない時に取るべき3つの方策の内の1つ目として、サイディングの端末を削り、意図的にすき間をあける方法をご提案しました。そして、その方法にはリスクがあることにも触れました。今回は、そのリスクからお話いたします。
写真①の水切りは、サイディングの裏側で上方に立ち上がっているはずです。ただし、それはあくまで一般的な場合であって、実際の建物では中を見るまで分かりません。まったく立ち上がっていないものもあれば、少ししか立ち上がっていないものも存在します。
従ってすき間をあける際には、水切りがどこまで立ち上がっているかを確認しながら行う必要があります。既存の建物では、「そうなっているはずだ」という常識は通用せず、そう思い込むと取り返しのつかないことになってしまうのです。

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写真①


2つめは、水切り上部にある雨水が浸入すると懸念される箇所をできる限り埋めていくことです。先に触れた通り、水切りが全く立ち上がっていないものや、写真①の例とは異なりますが、そもそも水切りがないものも多く存在します。そういった外壁においては、雨水を外部に排出させる仕組みがないと考えられますので、取るべき方策としては雨水が入ってこないように、すき間というすき間を片っ端から埋めてゆくしかなくなってしまうのです。
そこで注意すべきは、塗膜では雨水の浸入を食い止めることはできないという大原則です。
一般的な塗り替え仕様において形成される塗膜の厚みはおよそ100ミクロン程度、1ミリの10分の1くらいです。反面、雨水浸入の危険があるとされているすき間は、およそ0.2から0.3ミリ以上といわれています。塗膜では危険なすき間を埋めるほどの厚みはつかないのです。従って、すき間を埋めることにおいて、塗装ではない方法に依らなければなりません。


更に2つめの方法では、すべての壁面をくまなく埋め尽くすことなどできるのかという問題が残ります。そして、仮にシーリング材などで埋め尽せたとしても、シーリング材は10年を待たずに劣化しますので、再びすき間があいた時には、また同じ問題に直面してしまうことは明白です。
そこで、それらのリスクをすべてクリアする最終的な方法として、3つ目となるサイディングを張り替えるところに至ります。張り替えの一番のメリットは、新築時から内在している不具合を解消することにあります。人間に置き換えれば、「対処療法」ではなく、「体質改善」を行うようなものです。ただ、ぜひ皆さんに知っていただきたいのは、安易に「増し張り(カバー工法)」を選択してはならないということです。
カバー工法は、張り替えに比べ安価であり、廃材が発生せず、見た目が新築のようになるため、近年急速に広まった工法です。特に金属サイディングのカバー工法は、たいへん軽量で、厚みもないため、既存建物の凹凸に対し自在にあてがうことができることから、比較的手軽に採用されています。


では、その何が問題かというと、張り替えの最大のメリットである、不具合を解消することにならないのです。
例えば写真②の住宅は、かつて金属サイディングのカバー工法にて改修工事を行っています。このたび雨漏りが発生したとのことで散水調査を行ったのですが、矢印Aの地点(南面バルコニー)に水をかけたところ、矢印B(西面角)から出てきたのです。写真では分かりにくいのですが、バルコニーの端から南西角まで2mほどありますので、西面に水がかかってしまうことはありません。従って南面にかけた水は、金属サイディング同士が生じるすき間やサイディングを取り付ける際の部材をつたって横に移動し、角を曲がって西面の端まで達したのです。
カバー工法は、いわゆるボロ隠しのようなもので、元々の外壁がどのような状態であっても、取り付けてしまえばきれいに直ったようなイメージになります。ただし、一旦雨漏りが発生すると、トラブルになっている部分が隠されてしまうため、その原因を究明することが大変難しくなってしまいます。

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写真②


もちろん、カバー工法で取り付けられた外壁材を雨水が乗り越えた時にその雨水を速やかに外に逃がす仕組みがきちんと備えられていれば良いのですが、そのようなことをすれば、仕上がった際の見た目が変わらないにもかかわらず、金額は確実に高くなります。市場原理が働けば、雨仕舞などを考慮して張らなくなることは明白です。またサッシなどの上から張り込んでいくので、そもそも雨仕舞的な納めができず、端末はすべてシーリング材で処理することになってしまいます。
我々塗装業者の中にも、安易にカバー工法を提案する者が増えています。でも上記の通り、取り付けに伴うリスクは大変大きいのです。受注しても自身で施工せず、協力業者に委ねることが多いと思いますが、そうであればこそ仕組みを熟知し、リスクを避けることを重視しなければなりません。

プロフィール
原田芳一氏。株式会社リペイント湘南(神奈川県藤沢市)代表取締役。塗装・防水工事を主体に年間100件以上に及ぶ建物調査を実施。「究極の雨仕舞は、100年住宅を可能にする」をコンセプトに資産価値に寄与する総合改修工事業の構築を目指す。47歳。