2016/07/25 11:50

雨仕舞から塗装を考える⑩~"塗る"より大切なこと~ 原田芳一

―第9章―
建物診断の本質を知る

我々塗装業者が塗り替え工事を行う最大の目的は建物をもたせることであり、また多くの施主もそれを望んでいます。ということは、建物はあたかも患者のようであり、我々は医師のような役割を担っているともいえるでしょう。そうであるならば、建物を塗り替えるにあたり、事前の調査が大変重要になってまいります。何の検査も行わず、いきなり治療を始める医師がいないのと同様です。


そういったことから、最近は見積書とともに建物調査報告書(診断書)を提出する業者も多くなっています。ただ、問題なのはその中身です。
チョーキング・ひび割れ・ハガレ・色あせ・藻カビの発生などといった劣化現象を並べ、それらのすべてを経年劣化として捉え、塗装して新築のように「戻す」ことを目的として、通り一遍の所見を述べている診断書が大変多いのです。そのようなものは「診断書」とは呼べません。
塗り替え工事の目的を、建物を腐食から守ることと捉えるならば、雨水浸入のリスクに主眼を置くべきですから、「チョーキング」や「ひび割れ」といった括りではなく、個別の劣化現象に対し、雨水の浸入する恐れがどのくらいあるのかを明確にしなければなりません。


また、新築時の状態に戻すことを目的とするのは、本質的に誤った考え方です。腐食が進行している箇所は、新築時の納まりに問題がある場合が圧倒的に多いのです。それなのに新築の状態を神格化し、いかに新築時に近づけるかといった意識で診断書を作成するのは、ある意味的確な診断を放棄しているといっても過言ではありません。
建物は一棟一棟が異なっているのですから、似たような内容の診断書などありえません。患者の数だけ診断結果が異なるのと一緒です。診断書は受注を得るためのプレゼン資料ではありません。もっと個々の建物に真剣に向き合う姿勢が必要なのです。


さて、建物調査の必要性を示したところで、実際の調査に関し、重要なポイントを何点か挙げたいと思います。
まずは、その建物固有の劣化状況を見つけ出すことです。もしそのような箇所があれば、それは劣化ではなく、新築時の「不具合」である可能性が大変高まります。それと同様に、他の部位に比べ著しく劣化している箇所においても、新築時から不具合が内在している恐れがあります。
ちなみに不具合とは、広辞苑によると「(製品などの)具合がよくないこと。また、その箇所。多く、製造者の側から、『欠陥』の語を避けていう」とありますので、ありていにいえば欠陥です。
また、現状ではそれほど劣化が進行していないものの、新築時の納まりに問題があるか、または問題とはいえないながらも弱点である箇所についても挙げておきます。

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例えば、この写真の囲み箇所は「すがり部」と呼ばれる屋根の納まりです。ケラバ(切妻屋根の妻部側面)板金の上端が棟(屋根の「尾根」に当たる頭頂部)にまで到達していないので、必然的に雨水を受ける形状になります。従ってこの部位は劣化の如何にかかわらず、設計段階から「弱点」であるといえます。そこで、ここから雨水が浸入しないように、水の流れを考慮しながら念入りにシーリング処理を行うことは、極めて重要なポイントとなります。
余談ですが、建物調査を行う際には、五感を働かせて劣化状況を見出すように心がけます。特に大事にしたいのは、「臭覚」と「触覚」です。藻カビの臭いや腐食箇所の柔らかさを感じるのです。そのためにも、状況が許す限り屋根やバルコニーにも上がってみることが求められます。


次に、不具合であるならばどのように直していくか、その道筋を示さなければなりません。経年劣化ではなく特別な理由があるのですから、単に塗装する、または腐食した木材を交換するなどの処置を行っても、すぐにその劣化現象が再発してしまいます。新築時の仕組みに戻してしまったのでは、根本的な解決にはならないのです。
ただ問題なのは、改修工事の場合には、見えない部分の状況が分からないことです。従って、非破壊の調査だけで劣化の原因を断定することは限りなく不可能に近いといえます。そこで、どうしても仮説に基づく推論で施工方法を定めなければなりません。だからといって、あいまいな言い回しでおざなりな提案をすることは許されません。論理が破たんしていない、合理的かつ具体的な仮説を立てることが重要なのです。


そして、不具合や経年劣化の状態をくまなく列挙したら、それらの現象が建物の構造体に与える影響、すなわち「危険度」を判定します。建物の維持延命に最も影響を及ぼすのが構造体の腐食であるとするならば、最も腐食する恐れがある部位から順に並べていくのです。お客様がご用意されている予算は有限ですから、我々には、建物の維持延命に際し、手掛けなければならない優先度を定める義務があります。
そして、最終的にその調査報告書を基に適切な修繕方法をご提案すること、これがすなわち「仕様」であり、その仕様にて工事を行ったときにかかる費用を明示したものが「見積」です。ですから我々は、建物の状況を調べることなく、単に数量を積算しただけで提示された金額などは、もはや改修工事にかかる見積とは呼べないと自覚しなければなりません。

◇プロフィール
原田芳一氏。株式会社リペイント湘南(神奈川県藤沢市)代表取締役。塗装・防水工事を主体に年間100件以上に及ぶ建物調査を実施。「究極の雨仕舞は、100年住宅を可能にする」をコンセプトに資産価値に寄与する総合改修工事業の構築を目指す。48歳。