2016/08/17 10:01

雨仕舞から塗装を考える(11)~"塗る"より大切なこと~ 原田芳一

―第10章―
塗料の"性能"とは

前回まで雨仕舞の考えをいかに改修工事に応用するかについて解説してきました。本稿からは、一般的に広まっている塗り替え工事における考え方が、建物を保護する本質を捉えていないと思われる点について述べていきます。
近年、塗り替え工事の見積を依頼すると、依頼者がリクエストしなくても複数の提案による見積書を作成する業者が多くなっています。その違いは塗料のグレードによるものです。塗料メーカーが公表している期待耐久年数をベースに、次の塗り替え工事までに要する期間を目安化し、その違いを金額に反映させています。「この塗料を塗ると ○○ 年もちます」といった感じです。


さて、本当に耐久性の良い塗料を塗れば、確実に次の塗り替え工事までの期間が延びるのでしょうか。これまでの連載で、建物がもつという定義を構造体が腐食しないこととするならば、改修工事においては雨仕舞の仕組みを構築させることが最も重要であることを、繰り返し述べてきました。また、通常の塗装方法による塗膜では完全な防水化は図れないこともお伝えしました。例えば、外壁のひび割れは、雨水が浸入する恐れがあることから危険度の高い劣化現象であるといえますが、施工業者が発行する保証書には、ひび割れに関しては免責となっています。
それはある意味当然です。使用する塗料が何であれ、普通に塗ったのではひび割れを完全に防ぐことはできないからです。弾性(伸び縮みする)塗料であっても、単にローラーで塗っただけの薄い塗膜では、十分な追従性が得られないため、ひび割れの抑止力にはなり得ません。結局のところ、高耐久を謳う塗料を使っても、構造体にかかわる根本的な劣化現象を回避することはできないのです。しかるに塗料のグレードは改修工事の本質にあまり影響しないといえるのではないでしょうか。


では、そもそも塗料の耐久性とは何を根拠にしているのか、そこを明らかにしなければなりません。間違いなく言えるのは、謳われている数値は、その塗料にて生成された塗膜の耐久性であって、被塗物である建物の耐久性ではないことです。塗料の耐久性は、当たり前ながら塗料メーカーが提供している指標ですので、どこに塗られるかも分からない「相手」を評価することなどできないことは、専門家でなくとも理解に難くありません。


次に、塗料における耐久性の根拠は、個々の塗料によって異なることです。例えば、JIS規格にもなっている最も代表的な耐久試験の方法に、紫外線照射による促進耐候性試験があります。これは、塗膜に強い紫外線を与えて塗膜の変化を捉える試験です。主に光沢保持率の低下などを調べていきます。つまり、日射によって塗膜表面の艶がなくなることを劣化としているのです。また、低汚染を謳っている塗料においては、その効果が低下する度合いを評価しているものもあります。こちらは、汚れが付着しやすくなることを劣化としています。要するに、塗料の耐久性はその塗料の特長が失われるまでの期間を示しているのであり、建物の劣化に対する応力として連動しているわけではないのです。上記より、塗料の耐久性能とはかなりあいまいな概念であり、また決して建物の維持延命に即したものにはなっていないといえるのではないでしょうか。


次に、塗料の種別について少し検証していきます。近年「無機塗料」なるものが出てきて、それまでの有機系塗料と対比されて捉えられることが多くなりました。この「無機」とは「無機化合物」のことで、炭素原子を中心に組み立てられていない化合物を指します(有機化合物以外の化合物ともいえます)。もともと「有機」とは生物が作り出す化学物質を、無機とは鉱物のように生命とは直接関係せずに存在している物質を指していました。建材でいえば、陶磁器やガラス、セメント、金属(間化合物)、石材などが無機化合物になります。利点は、紫外線に対してほとんど影響を受けないことにあります。仮に磁器の茶碗(無機)と、同じような形をしたプラスチックのコップ(有機)を、日当たりのよい場所に10年間放置したとします。プラスチックのコップはボロボロに割れてしまうかもしれませんが、茶碗は汚れを落とせば10年前の質感がよみがえるでしょう。反面、茶碗とコップを高いところから落としたらどうなるでしょうか。コップはうまくすれば割れないかもしれませんが、茶碗は確実に割れてしまいます。すなわち、無機はひび割れしやすいといえます。


さて、特徴はこれくらいにして、無機と呼ばれている塗料に関して私の思う懸念を挙げます。それは無機塗料の定義が非常にあいまいであることです。現在のところ、無機化合物のみで生成された塗料は存在しません。その最大の理由は、無機化合物は有機化合物に対しほとんど接着しないからです。このことは、有機塗膜の上に(有機系の接着剤を混入していない)モルタルを塗布してもすぐに剥がれてしまうことからも分かります。それではもともとある塗膜の上に塗装することができません。従ってすべての塗料は接着力をつけるために、有機化合物とのハイブリッド構造になっているのです。逆に、無機化合物を一切含まない塗料も存在しません。そもそも開発者は目指す性能(効能・効果)に近づけることを目的として原料を選択しているのであり、そこに有機・無機を分ける必要はありません。憶測ですが、紫外線劣化を起こしづらい塗料を開発しようとし、目的にかなったものが完成した際に、それを「無機」と称したのではないでしょうか。


従って無機系塗料の明確な定義や無機系塗料・有機系塗料の明確な境界線などないこと、有機より無機の方が優位であるという考えは極めて偏狭であることを、我々はよく認識しておくべきです。

◇プロフィール
原田芳一氏。株式会社リペイント湘南(神奈川県藤沢市)代表取締役。塗装・防水工事を主体に年間100件以上に及ぶ建物調査を実施。「究極の雨仕舞は、100年住宅を可能にする」をコンセプトに資産価値に寄与する総合改修工事業の構築を目指す。48歳。