2016/09/23 08:58

雨仕舞から塗装を考える(12)~"塗る"より大切なこと~ 原田芳一

―第11章― 「おすすめ塗料」の事情

今回も前回と同様、我々塗装業者が常識として捉えている事柄の矛盾について述べてまいります。
家電量販店で買い物をする際、メーカーから派遣された販売員に接客された経験をお持ちの方は多いでしょう。そういった販売員は、当然ながら、自らが籍を置く会社の製品を売ろうとするために、その製品のメリットを強力にアピールします。販売員によっては、他社の商品の不利になる情報を持ち出すようなことまでします。購入する側からすれば、販売員には中立的な立場での助言をしてもらいたいのですが、販売員がメーカーから派遣される仕組みの中では、期待することはできません。
塗り替え工事においても似たようなことがあります。「おすすめ塗料」を提案する業者が大変多くなっているのです。果たしてこのような提案は、本当にお客様のために行われているのでしょうか。家電製品のように、売る側の都合が多分に含まれているのではないでしょうか。それを検証するために、おすすめを設定することによる業者のメリットを先に挙げてゆきます。


まず、扱う塗料の種類を少なくできることが最大の利点です。同じ種類の塗料を使えば、在庫負担やロスを防ぐことができます。また、塗料メーカーの中には、施工業者に購入金額を競わせ、多く購入した業者を表彰したりしていますが、使用材料を表彰対象商品に一本化することにより、売上レースを有利に展開することができます。他には、営業マンが覚えなければならない商品知識を簡素化できるため、教育にかかる期間を短くすることができたり、相対的に購入量が増えるため、仕入れ金額が下がることもあるでしょう。
このように商品を絞ることにより、多くの利潤が業者にもたらされるのです。もちろん、上記のようなことがあったとしても、それで経費が削減され、施工金額が下がるのであれば、お客様の利益にもかないます。その点については、なんら異存ありません。ただ、家電製品の例で挙げたように、その「おすすめ」が、客観的な視点で選定されたものでない可能性は非常に高いでしょう。我々は、お客様の望みをかなえるために存在しているはずです。それならば、例えばソムリエやコンシェルジュのような観点が必要なのではないでしょうか。具体的には、さまざまな塗料についての情報を収集して知見を広め、そのバックボーンの下、塗る対象物の状況やお客様の希望に合わせて、おすすめする塗料を変えてゆくのがあるべき姿だと思うのです。いくら施工金額が下がったとしても、成果物がお客様の意向にかなったものでなければ何の価値もありません。高い、安いを論ずる以前の問題です。


では、ソムリエやコンシェルジュのように、それぞれお客様にあったものを個別に提供してゆこうと考えた際に、選ぶべきではない塗料があります。それは、普通に売っていない塗料、つまり、一般には買えない塗料です。例えば施工会社が塗料を製造し、それを市場で販売することなく自社の工事にだけ使用するといったケースです。また、それに近いのが、メーカーが認定する施工店でなければ購入できないなど、購入する際にさまざまな制約を課している塗料です。私は原則として、これらの塗料を選択肢から外します。なぜなら、これらの類のものは、「市場の洗礼」を受けることがないからです。製品は商品として売り出すことにより、多くの一般消費者の前にさらされ、その結果、いろいろな反響を呼びます。例えば、売れ行きが良かったり悪かったり、高い評価を受けたり、クレームが入ったりといったことです。その商品があまり売れなければ、お客様のニーズに合っていない可能性に気づかされます。またクレームを受ければ、品質など、その製品に何らかの問題があることに気づかされます。

そのように製品を市場に出すことであらゆる方向からさまざまな洗礼を受けることとなり、それを改善・改良することによってその製品は洗練され、成熟し続けるのです。片や市場の洗礼を避けてしまった製品は、一般消費者からの厳しい反応により改良点が見出されるといったことがないので、成長・進化を期待するのは難しいでしょう。そのことから、私としてはお客様のために、市場で揉まれ改善・改良をし続けている塗料を選択肢に残したいのです。ちなみに、私はお客様からさまざまな塗料についての評価を質問されますが、当然ながら販売されていない塗料については、どうやっても答えられません。それがどのようなもので、どのような仕上がりになって、どのように劣化してゆくのかを検証する術はほとんどないのです。そのような製品は実際に使ってみなければ評価できませんが、その「実験」を、お客様の費用で、お客様の物件で行うなど、道義的に許されるものではありません。無論、検証できない製品をお客様に堂々とおすすめすることもできません。


塗料は、どんな特徴があっても、中身を見ただけで製品名までを判別することは不可能です。実は、その見極めがつかないという要素が、おすすめ塗料やオリジナル塗料を生んでいるという側面があります。お客様が見た目でその塗料の良否を判断できないため、業者のいいなりにならざるを得ないというのが、この問題の根底にあるのです。ただし、消費者はそれほど愚かではありません。また、情報量が加速度的に増え続けている現代において、不実はいずれ必ず白日の下にさらされます。現にこうして論理立て、掘り下げてゆけば、疑問や疑惑があぶり出されてしまいます。従って、我々はいかなるときもお客様の利益を最優先し、それにかなうよう、常に正直に取り組まなければならないのです。
なお本稿の考え方は、もちろん塗料に限ったことではありませんので、ぜひとも製品や材料を選定する際の参考になさってください。

◇プロフィール
原田芳一氏。株式会社リペイント湘南(神奈川県藤沢市)代表取締役。塗装・防水工事を主体に年間100件以上に及ぶ建物調査を実施。「究極の雨仕舞は、100年住宅を可能にする」をコンセプトに資産価値に寄与する総合改修工事業の構築を目指す。48歳。