2016/10/20 13:16

雨仕舞から塗装を考える(13) ~"塗る"より大切なこと~ 原田芳一

―第12章―
工期の考え方

塗装の目的のひとつに、対象(被塗物)を保護するという役割があります。もちろん、単に「塗ればもつ」というものではないことは、これまで繰り返し説明してきました。ただし今回は、建築とは切り離し、塗装による保護効果についてシンプルに考えてゆきます。
塗装によって皮膜が形成され、外部の劣化要因から対象を保護することについては、あえて説明するまでもないでしょう。皮膜、いわゆる塗膜は、自らを犠牲にして対象を守っています。塗膜が厚ければ厚いほど対象を劣化要因から遠ざけますし、塗膜自体を維持することにもつながります。ただし、やみくもに厚く塗ればよいというわけではありません。壁体のような垂直面に塗装する場合、一度に大量の塗料を塗りつければどうなるでしょう?ダレが発生し、厚みが均一になりません。ですから、均一な塗膜をより厚くさせるためには、薄い膜を何度も塗り重ねることが必要になります。


さて、そこで考えなければならないのは、塗り重ねるタイミングです。薄い膜を重ねてゆく目的は、塗膜を均一に「厚く」することです。そのためには、塗り重ねる前に先に塗った膜が硬化し、その場にとどまり動かなくなっていなければなりません。乾く前に塗装しても膜は厚くならないからです。
中には塗膜に触れて塗料が手につかなくなってから塗り重ねればよいと考える人がいるかもしれませんが、実はそれでは不十分です。塗膜は厚みがあるので、外側は内側より先に硬化します。外側は乾いても内側は乾いていない時間帯が必ず存在するのです。では、指で触って問題がないからといって塗り重ねてしまうとどうなるでしょう?もし内側が乾いていなければますます硬化しづらくなり、縮み・割れ・はがれなどの原因になりかねません。このような状態を「硬化不良」と呼びます。


それでは、硬化不良を起こさないために、塗り重ねてもよい状態をどのように判断するかですが、そこには基準が存在します。それぞれの塗料には塗り重ね乾燥時間という設定があり、次の工程に移るまでの目安となる時間が決められています。下塗りに用いるシーラーやフィラーにおいては、多くは4時間以上、中には24時間乾かさなければならないものもあり、上塗りは2時間から4時間以上という製品が多いです(※気温23度の場合)。この時間は、触ってもくっつかなくなるまでの時間(指触乾燥時間)より、平均して4倍ほど長く設定されています。適切に塗り重ねるためには、表面が乾いてから更に多くの時間を待たなければならないのです。
塗装工程が下塗り1回・上塗り2回の計3回塗りならば、上記に当てはめると少なくとも2日はかかります。住宅であれば、外壁・軒裏・破風・屋根・付帯部などの部位に分かれており、接している部位同士はどちらかが乾かなければ塗れません。3回塗りを1セットとすれば、合理的に作業をすすめても3セットは必要になるでしょう。つまり、2日×3セットですから、塗るという行為だけでおよそ6日を費やすことになるのです。塗り重ね乾燥時間が定められている以上、どんなに職人を多くいれても、どんなに能力の高い職人が作業しても、短縮されることはありえません。


それでは住宅などの塗り替え工事において適切な施工を行った場合、どのくらい日数がかかるのかを整理してみましょう。
足場組みに1日、高圧洗浄に1日、養生に1日。そして雨仕舞の不具合を解消・改善するための工程。建物をもたせるためにはこの工程こそが最も重視されるべきであり、少なくとも3日程度かかります。その後やっと塗装工程に入るのですが、先に述べましたように約6日必要です。最後に、足場解体に1日。上記のすべてを足すと13日になります。ただし、これらの工程には、雨の日や休日は含まれていません。それを含むと確実に3週目に突入します。更に足場班と実施工班を分けているところが多いと思いますが、実施工班が速やかに着手できるように、足場を前もって組んだり、完了後検査やそれに伴う補修(ダメ直し)を行う予備日を設けなければならないため、足場解体の日程を予備日の後にする必要があります。すると、工事がスムーズに進んだとしても、足場組みから解体まで約1カ月程度かかる計算になるのです。


この事実は、一般的に言われている10日から2週間という工期の目安とはかなり異なります。それは主に2つの理由が挙げられるでしょう。
1つは、一般的な塗り替え工事においては、雨仕舞という概念が定着していないため、それに要する施工がなされていない点。もう1つは、塗り重ね乾燥時間を守らず塗装してしまう点です。近頃は、塗り回数を増やして高品質をアピールする業者や団体も増えていますが、彼らがその分工期を長く取っているという話は聞いたことがありません。塗料を何回塗ろうが、雨仕舞の不具合をそのままにしていたり、乾燥時間を待たずに塗ったりすれば、品質の向上につながりません。塗り回数で施工品質の優劣を計ることはできないのです。
では、それに代わる客観的な目安は何か?難しいながら、これまでの論を踏まえあえて示します。利益を少なくしてでも、良い仕事をしたいという気概をもった職人は存在します。工程を端折らず、丁寧な仕事を旨とする、そういった施工者の工事はとかく時間が、つまり人手間がかかります。逆に、利潤を上げようと思うなら人手間を減らすのが最も近道です。
伝統工芸の世界では「匠」と呼ばれる領域にまで到達した職人がいますが、その人たちが手間を惜しむような仕事をするとは想像できません。従って、延べ作業人員が多くかかる施工者は、良質な工事を行う可能性が高いといえるのではないでしょうか。

◇プロフィール
原田芳一氏。株式会社リペイント湘南(神奈川県藤沢市)代表取締役。塗装・防水工事を主体に年間100件以上に及ぶ建物調査を実施。「究極の雨仕舞は、100年住宅を可能にする」をコンセプトに資産価値に寄与する総合改修工事業の構築を目指す。48歳。