2016/11/30 15:07

いいいろの日特集2016 群を抜く色彩パワー 問われる社会的責任

カラーデザインへの関心が高まっている。市場や社会の成熟化が増すにつれ、本当の価値とは何かとの問いかけが底流にある。ライフスタイルもモノで豊かさを感じる時代が終わり、手作り感のある生活への指向が強まっている。全国で開かれている塗装のワークショップがとても好評なのもうなずける。工業製品から景観・生活シーンまで、カラーデザインの高度化へのニーズがある。その中でペイントカラーは他の商材にはない群を抜くパフォーマンスを持つ。それを受け止める業界体制の整備が課題となっている。

心理学では色彩が人の心や行動に大きな影響を与えることが実証されている。例えば部屋の色を変えるだけで学習効果に違いが出る。淡彩色の壁から鮮やかなビビッドカラーに変えることで、脳が刺激されることが分かっている。赤と黄は心拍数を増やし、青は逆に減少させる。
こうした色彩効果を活用したのが安全表示。赤の用途として防火、火災報知機などの消火設備類、黄と黒の縞は注意喚起、緑は医療や薬品関連など、色彩による安全表示は法律で決められている。


素朴な疑問を抱く。なぜ人間は色彩に影響されるのだろうか?いやすべての生物が色彩、つまり光によって生きているといえる。色彩=光は電磁波スペクトルの中で可視光スペクトル(波長380~780nm)の領域にあり、ある米国の研究者は「光には肉体を力強く働かせる作用があり、光そのものが体内に浸透して多くの合成物をつくり、代謝機能を活発にし、細胞を維持し再生するなど生命のリズムに影響を及ぼしている」という。
色彩(光)は生命そのものと深く関わっていることが分かる。それだけに色材としての塗料産業は責任が重く、色彩のより効果的な活用への使命(ミッション)がある。この自覚が出発点であり最終目標ともなる。

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色彩産業の責務

生活シーンから社会にはさまざまな人工色が露出している。シーンによって色彩は混乱している。よくヨーロッパに観光ツアーに行った人たちから「街の景観に統一感があり、日本に帰ると色はめちゃめちゃ」との感想を聞く。20年ほど前から景観条例が成立しているが、彩度の高い色を規制するなど、ネガティブなもの。良い景観づくりを導く方策に乏しい。
だが、ここ数年少子高齢化を背景に街づくりが活発化している。全国的に見て、郊外型の大型ショッピングモールに地域密着型の商店街が衰亡するパターンが多くある。人の流れが変化し商店街に人が来なくなる傾向が顕在化している。その一方で小さな子連れの母親や高齢者は徒歩圏にある商店街でゆったりと買い物を楽しみたいとのニーズが高まっている。商店街の魅力はなんといっても対面販売にある。
また、生活シーンでは物を配置するだけの生活からの脱却が急だ。家具、カーテンなどのインテリアアイテムを自分の好みで取り揃え住空間にセットして分かったことは、アイテムごとのちぐはぐさ。そこには自分らしい空間の欠如が感じられ、こだわって買った高級家具が全体とのバランスを欠き落ち着かないものとなる。ようやく生活者も住空間を構成する天井・壁・床の色彩のコーディネートに目を向け始めてきている。


こうした動向にペイントカラーのデザイン性に活躍の余地が大きくある。いやむしろ空間シーンの演出力でペイントカラーは他の商材に比べ群を抜いたパワーがあるのだ。あるペイントショップ店頭のシーンがある。母親が幼児を乳母車に乗せ来店。むずがっていた幼児が眠ると安心したように色見本帳デッキに行って、真剣な表情でカラーチップを手に取り思案する。インテリア空間を想像しながら頭の中でカラーシミュレーションする。
このシーンが象徴しているのは、ペイントカラーの有しているパワー。確かにペイントの他にも色材はさまざまある。発色法や加飾技術の進歩はアップテンポ、モバイル製品の一部では塗装レスも進行する。こうした競合にあってもペイントカラーの優位性は動かない。しかし安住していると遅れをとるかもしれない。色彩大戦争は既に始まっているのだから。


調色は魔法のつえ

塗料にとって調色は魔法のつえではないか。カララントといわれる原色を設定すれば現在の技術で約20万色のカラーバリエーションを実現することができる。他の色材は決して持ち得ないパフォーマンスだ。といっても人間の視認力はその何十倍もあるといわれており、4Kや8Kテレビの出現も進歩の途上のマイルストーンに過ぎない。
日本を除く世界、それが先進国であれ新興国であれ、ペイントの購買は店頭で色選びをしてディスペンサーで調色するスタイル。つまり色へのイメージ訴求があるからこその形態といえる。ところが日本では店頭調色でペイントを売る店はほとんどない。このギャップが、ペイントが色彩としての力を発揮する阻害要因ともなっている。
目を工業用に転じても同じ状況にある。OEM塗料は相手先のカラースペックがある。発注元の色彩指定に縛られる。これもペイントカラーのデザイン性の制約となる。ある工業用塗装業者は「カラーに関しては自前スペックで顧客開発すべきだ」と発想の転換を強調する。


調色の在り方を変える必要があるのだ。塗料産業にとって色彩ニーズは受身のスタンスであった。そのシンボルが日本塗料工業会の色見本帳。いわば標準色見本とのコンセプトだが、色の飛びが大きく使いにくい。このため調色センターにくるサンプルはDICカラーによるものが多いという実態がある。何のための色見本帳なのか。
世界では各塗料メーカーが独自の色見本帳を作成しているばかりでなく、毎年カラートレンドを取り入れたカラーパレット、それに基づくカラーカタログ類でマーケットを刺激する。あるアメリカの塗料メーカー幹部は「売上の2%はカラーに投資して、競争力を高める努力をしている」と語る。塗料ではなく、その最大のパフォーマンス(付加価値)が色彩にあることは明解だ。
日本で店頭調色が普及しない理由はユーザーや消費者側にあるとの指摘がかつて強くあった。つまり生活シーンに色彩を入れる習慣がないとの理由。このロジックは生活者の動きでいとも簡単に崩れてしまった。真剣に色選びをする生活者は多く存在し、むしろ店頭調色など受け皿がなく、生活者は困惑し行き場がないのが実情なのだ。だが色彩をうまく活用できるレベルにないという実態も事実ある。
従ってハードとしての店頭調色を置いてみても即集客力につながるわけではない。必要条件を満たすためには消費者と共感を持って色彩提案できる人材の育成が鍵となっている。


色彩を媒介する人材

業界には色彩スキルのある人材はいるが、カラープレゼンテーションできる人材が欠如している。カラーコーディネーター資格はあっても、それはあくまでも色彩知識であって、生活シーンに色彩(ペイントカラー)を落とし込むスキルではない。ではスキルはどうしたら身に付くのだろうか。
受け皿となるべき塗料販売店や塗装業の在り方の変革が必要になる。塗料のカラーデザイン力を媒介とする人材を配置したいが、その前に業態がマーケットの変化に対応できなくなっていることを自覚すべきではないか。差別化できない商材とサービスで競っていては勝者すら疲弊していく。今ある顧客の先にあるマーケットを開拓する方策の中にカラー戦略が構築されなくてはならない。色彩の時代が来ているのに塗料産業はおいてきぼりということにならないように、まずはペイントカラーを扱っている責任と誇りが求められている。
〈後記〉よく塗料の付加価値として機能を強調する声を聞く。当然の指摘だとは思うが、新しい機能の付与はフィルムなど他の材料でも十分対応できる。しかし色彩となると、20万色のカラーバリエーションは他の追随を許さないペイントカラーの独断場なのだ。色彩はペイントにとっての絶対的な差別化要素といえる。

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