2017/01/17 15:51

雨仕舞から塗装を考える(16) ~"塗る"より大切なこと~ 原田芳一

―第15章―
職人の在り方

今回は、雨仕舞的な塗装手法を身につける上で非常に大切な、根っこのところの考え方をお伝えいたします。
唐突ですが、職人とはどういった人のことを指すのでしょう。辞書を引くと「身につけた技術によって物を作り出したりする職業の人(大辞林)」と書かれています。では、「職人」のところを「塗装職人」に置きかえてみると、「塗装する技術によって、塗ることを職業とする人」といった感じになるでしょうか。要するに、塗装職人とは塗ることを得意としている職人です。建物をもたせるための知識や技術を習得しているということではありません。でも現状、建物をもたせるための工事の多くを塗装業者に委ねています。その理由は、塗ればもつという安直なイメージを多くの人が抱いているからです。例えば、鉄板の表面が塗装されているものとされていないものとであれば、塗装されている方がサビにくいでしょう。でも建物を総合的に保護するということは、サビを防ぐようなわけにはいきません(実は防錆も大変奥が深いのですが)。これまで触れてきたように、ただ塗装するのでは、維持延命に結びつかないどころか、かえって腐食を早める恐れがあるのです。

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写真①


写真①は、屋根の軒先水切り、いわゆる「唐草」を近影したものです。築40年以上の物件で、それまでに過去4度ほど、複数の業者が屋根を塗装したとのことでした。著しくサビが発生しています。触るとボロボロと崩れ落ちます。唐草は雨水が瓦材の裏側を伝って浸入しないように施された部材です。そこが腐朽し、軒裏にはそこから浸入した雨水によると思われるシミがたくさんあり、一部腐食していました。なぜ何度も塗装工事が行われながら、こうなるまで放っておかれたのでしょうか。それは、塗装職人の使命がキレイに塗ることだからです。唐草は下からは見えません。キレイに塗ることが目的であれば、見えないところを塗らなくても手抜きにはなりません。このように、塗装職人の使命感では、建物をもたせることにつながらないのです。

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写真②


それでは、そのような塗装職人が建物の維持延命に関する知識や技術を身につけるための、私が考える最も重要な行動をお伝えします。それは、自らが手掛けた過去の物件を見ることです。
写真②は、平板スレート瓦屋根の塗り替え工事を行ってから5年を経過した時点のものです。建物のオーナーは、この塗装をした業者の対応に誠意がなかったため、伝手をたどって私に調査を依頼してくださいました。そんな経緯なので、直接その業者に話を聞くことはできず、現状の観察のみで原因を推測し、仮説を導きました。
まず、塗り替え工事の完了時にこのような状態で引き渡せるわけもないので、ムラなく塗装されていたことは間違いありません。5年のうちに変化していったのです。そのメカニズムを解き明かすポイントは、残った塗膜の様子です。最初からこのように塗ったような感じがしますが、おそらくその通り、このように塗ったのです。...前言と矛盾しているようですが、そうではありません。実はこう塗装したのは下塗りのほうです。下塗りのシーラーは「シール」の名の通り、基材と上塗りとを接着させるためのものです。でも、透明です。早く仕上げることだけがモチベーションの職人にとって、色がつかないシーラーは単にムダな工程なのでしょう。そして月日が流れ、シーラーを塗布したところ以外がはがれ落ち、あぶり出しのように現れてきたのです。


ただ、この職人に明確な悪意があったとは思えません。おそらく、こんなことになると分かっていれば、もっと丁寧に塗装したはずです。この変化をイメージすることができなかったのでしょう。そして、イメージできない理由は、自分が仕上げた現場が後々どうなったかを、今まで見てこなかったからです。多くの塗装業者などが行っているアフター点検は、零細塗装店であれば代表者が自ら、規模の大きなリフォーム会社なら、営業担当者や、アフター点検をつかさどる部署のスタッフが行うことが大半だと思います。点検業務は、実際に工事を行った職人に訪問させると、クレームやそれに伴う無償工事など、大変デリケートな問題に発展しかねません。元請ならなおのこと、そのリスクをさけるべく、下請のみで点検することを許可しないでしょう。このように、現状、多くの職人が、自分がしたことがどうなっているかを確認しないまま、職人であり続けているのです。見る機会がないのは仕組みの不備です。ですから、この事例を常識のない職人が犯した稀なケースとして片付けてはなりません。
かくいう私も、雨仕舞に対して関心をもったのは、自らが手掛けた建物に不具合が発生したことがきっかけです。仕様書を遵守し、確実に施工したにも関わらず、しばらくすると塗膜がはがれるなどの事故を起こしてしまうことがありました。そこで私は、なぜはがれたのかのメカニズムを解明しないことには、自信をもって塗装工事を勧めることができないと思ったのです。職人がそんな感覚を持つことによって、雨仕舞の考え方が飛躍的に身につくことでしょう。



◇プロフィール
原田芳一氏。株式会社リペイント湘南(神奈川県藤沢市)代表取締役。塗装・防水工事を主体に年間100件以上に及ぶ建物調査を実施。「究極の雨仕舞は、100年住宅を可能にする」をコンセプトに資産価値に寄与する総合改修工事業の構築を目指す。48歳。