2017/02/28 11:09

雨仕舞から塗装を考える(18) ~"塗る"より大切なこと~ 原田芳一

第17章
最も腐食しやすい部位は?①

唐突に個人的な見解を申し上げます。戸建て住宅のような低層の建物において、最も雨水が浸入し、腐食につながりやすい部位はバルコニーだと思っています。今までの経験則からそう感じるのですが、一応の根拠もあります。水の流れは基本的に、上から下への一方通行です。従って、上向きの面が最も雨水を受けます。傾斜のついた屋根を持つ建物では、上向きの平面で最も広いのがバルコニーです。言い換えれば、最も雨水を受けてしまうのがバルコニーなのです。
このように伝えると、バルコニーの防水を頻繁に更新する必要があると思われる方も多いでしょう。実はそうではありません。しっかりと施工された防水層であれば、特殊な状況でない限り20年以上の耐久性は確保されると感じています。ですから、この防水は何年耐久であるとか、どれがどれより高耐久であるといった比較は、意味がないとは言いませんが、さほど重要であるとは思えません。でも事実、雨漏りや腐食のうち、バルコニーが原因である割合はたいへん高いのです。防水層の耐久性に問題がないとすれば、バルコニーのどこが弱点なのでしょうか。

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写真①


まず挙げれば、それは"笠木"です。本稿では"笠木"をバルコニーの腰壁(手すり壁)の上端などに取り付けられる金属板を指すこととします。
写真①は、既存住宅の笠木を取り外したところです。腰壁の天端(上端)には、透湿防水シートが腰壁の内部より延長して張られています。その上にホルダーと呼ばれる受け金物が乗り、ビスで固定されています。笠木はこの金物にはめ込まれます。
さて、この納まりには多くの問題があります。まず、透湿防水シートの合わせ目にすき間が空いています。専門的な知識がなくとも、これでは雨水が浸入することは一目瞭然です。そもそも、天端に透湿防水シートを使用すること自体が不適切です。透湿防水シートには粘着層がないので、ビス穴を止水することはできません。ホルダーを留めるビスは、そんな透湿防水シートを破って下地の木材に打ち込まれています。しかも、防水テープやシーリングを用い、穴を埋めようとした痕跡もありません。そもそも、笠木の内部は上を向いている面なので、物理的に雨水がとどまりやすく、雨水浸入のリスクが高いのですから、屋根や外壁よりも、更にしっかりとした防水措置が求められます。それなのに、このような納まりでは、笠木の中に浸入した雨水を防ぐことは不可能です。

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写真②


写真②は、写真①の物件を当方で改修している状況です。いったんホルダーを外し、鞍掛けシートを張りました。このシートは、アスファルトルーフィングシートの一種で、シートの内部に粘着層があるので、ビス穴を止水することができます。ロールシートを長手方向に張ってゆくので、角以外は継ぎ目が出ません。そして、ホルダーを再接着する際には、ビスの周囲に捨てシール(接合部や穴などにすき間が空かないよう、あらかじめシーリング材などを充填しておくこと)を施します。このように内部の防水処理を行った後に笠木を取り付けました。改修工事のため、いろいろと制約があり、理想とする施工には至らないのですが、この状況下でできる限りのことを行いました。
実は、紹介したような納まりの不備は、この物件に限ったことではありません。程度の差こそあれ、多くの新築住宅において不適切な施工がなされています。その理由は、笠木の取り付けにおいて詳細なマニュアルが存在しないことだと感じています。


なぜ存在しないのか?思うに、一元化ができていないことが最大の原因です。例えばモルタル外壁の場合であれば、防水シート・モルタル・笠木のすべてを扱うメーカーが存在しないのです。屋根や床防水においては、屋根材メーカーや防水材メーカーが、施工に関するほぼすべての材料を扱っているので、詳細なマニュアルを作ることができます。でも、そういった部位以外では、いちメーカーが扱いのない領域にまで踏み込んでマニュアルを作ることができないのは当然です。
また、住宅のコストダウンへの需要が高まっている背景もあり、職人の分業化がますます進行しています。例えば、防水シートは大工、モルタル外壁は左官工、笠木はサッシ工と、わずか数メートルの笠木を納めるのに3種の職人が関わります。それでも、現場を速く仕上げるという点からは、その方が合理的なのです。業種が違えば顔を会わさないこともしばしばです。これでは責任の所在が明らかにならないので、おざなりな施工となってしまうでしょう。さらには、こういった状況ゆえに、自らが携わっている工程の意義・目的が分からないまま作業している職人がますます増えているのです。それでも、雨仕舞に基づく納まりを包括して管理する技術者がいればきちんとした施工となるのでしょうが、平均して数件から10件くらいの現場を掛け持ちしている現場監督に、詳細な管理を求めるのは無理です。
要するに、現状における一般的な新築工事では、笠木を適切に納めることは容易ではないのです。