―第19章―
"塗らない"からといって...

当たり前ですが、塗り替え工事は施主からの依頼があってこそ行うことができます。いきなり何事かと思われるでしょうが、とても重要なポイントになります。

施主の依頼はさまざまです。「屋根は瓦だから」「外壁はカバー工法を行ったから」「防水工事をしてまだそれほど経っていないから」などといった理由で、施工範囲を定めてくる施主もいます。そういった際、施主の求めにただ応じるだけで、指定された範囲以外の部位の調査を行わない業者の方が圧倒的に多いと感じています。でも、本当にそれでよいのでしょうか?

写真①

写真①

写真①は軒天井にシミがあります。このお宅では、施主が塗り替え工事を行うにあたり、複数の業者から相見積を取っていました。ただし、屋根は焼成瓦なので施工対象から外すという指示がありました。他の業者は、施主の指示通り屋根には上らず、下からの目視で調査していたようです。

写真②

写真②

写真②はシミのある部位を地面から撮影しました。丸で囲った箇所ですが、下からでもなんとなく確認できます。この程度のシミでは、原因まで調べない業者の方が多いでしょう。でもシミがあるということは、裏側に雨水がたまっている可能性が考えられます。ですから、そのシミの原因が何であるかを、必ず究明しなければなりません。

写真③

写真③

写真③のように屋根に上ってみると、すがり部の袖瓦の先にすき間がありました。ここから入り込んだ雨水が軒天井の傾斜を伝って軒先まで到達したのです。新築時にはこのすき間をしっくいで埋めていたようですが、キレイになくなっていました。これは明らかに新築時の不具合です。割付(瓦の配置)を考慮した設計を行い、水下の瓦を水上の瓦の下に潜り込ませるように加工しなければなりません。この不具合は、屋根に上ったからこそ見つけることができました。他の業者は、施主から依頼されたまま、屋根上で調査を行わなかったため、このような状況になっていることに気づかなかったのです。

写真④

写真④

写真④は外壁塗膜にフクレが見られます。この物件の1階は店舗であり、数年前に入口付近のみを石材調塗装にて仕上げていました(下部塗膜)。施主の目的はあくまで店舗ファサード(正面)の視覚的な更新だったため、意向により上部外壁は塗装しませんでした。当然、石材調仕上げ塗膜の上部端末は露出します。雨水を受ける形状です。したがって、そこから雨水が浸入し、塗膜をふくれさせてしまったのです。

写真⑤

写真⑤

写真⑤は、屋上のパラペット(外縁部に立ち上げられた小さな壁)の天端(天面)の様子です。今では主流になっている押え金物が使用されておらず、ゴムシート防水の端末がはがれています。施主は屋上防水の更新などは考えておらず、外壁の塗り替えのみを希望されているようですが、塗膜がフクレを起こすリスクが大変高いため、パラペットの状況を改善してからでないと塗装することはできません。

写真⑥

写真⑥

写真⑦

写真⑦

写真⑥のように、鋼製の外部階段や開放廊下がさびてくると、施主は鉄部を腐食から保護するために塗装することを考えるでしょうが、このまま塗装してもさびを抑制することはできません。なぜなら、階段や廊下の表面(床面)から浸入した雨水によってさびを発生させているからです。写真⑦のように、防滑床シートなどを用いて上部床からの雨水浸入を防いだ後に塗装しないと、ハケの届かない鋼材の内側からさびが進行してしまうのです。

建築の施工業者は、施主が望むべき姿となることを事前に約束し、業務を遂行することになります。ですから、約束を破らないためにも、施主の依頼が良くない結果を及ぼすことが明らかな場合には、合理的な理由を添えて異を唱えるべきです。"塗らない"部位をおろそかにすることはできないのです。