―第25章―
雨仕舞と法令

日々の生活の中で困ったことについて、専門家に相談することがあると思います。身体のことなら医師、社会的なトラブルについては弁護士などが代表例ですね。その他、さまざまな問題の解決に際し、専門家の協力を仰いだ経験は、誰しもがお持ちでしょう。

では、建物のことに関する専門家は、と聞かれれば、まず思い浮かべるのが建築士ではないでしょうか。建築士は国家資格であり、建築に関するさまざまな知識を有していなければ取得できません。また、行政に建築許可を申請できるのは建築士ですから、建築士がいないと、そもそも建物を建てることができません。そういったことから、建築士は建物に対して最も精通している資格者であるといえるでしょう。

しかしながら、建築士であれば、こと建物の維持延命、ひいては"雨仕舞"に詳しいのかといえば、決してそう言い切れません。その最大の理由は、建築士の試験においては、そういった内容は一切問われないからです。雨水の浸入を防ぎ、雨水による建物の劣化を食い止めるための知識や技術などに関しては、全く分からなくても試験に合格できるのです。加えて、建築士試験の根幹をなす、建築基準法やその施行令、また関連法令のいずれにも、雨水を抑止する内容に関する記述はありません。建築に携わっていない一般の方々の多くは、雨漏りしないような建物を建てるように法律で規制され、また、行政が許可を出す際には雨漏りしないように精査すると思われているかもしれませんが、それは全くの誤解なのです。

そして、雨漏りに関する法基準がないという事実から導かれる状況として、設計の段階から雨漏りリスクの高い建物が、実際に存在します。

写真①

写真①

たとえば、写真①のような軒が全く出ていないような建物は、都心の狭小地などを中心に増えてきています。こういった形状は『軒ゼロ』と呼ばれているのですが、軒がなければ雨が屋根と壁、壁と開口部(窓など)との"取り合い" (接合部)にかかりやすくなるため、雨漏りのリスクが高まります。

また、建物形状が複雑になればなるほど、面が多くなり、何らかの接合材を用いて面同士をつなぐことになります。

写真②

写真②

写真③

写真③

写真②と③のどちらが、形状として雨漏りしやすいかは、直感的に理解できるでしょう。ですから、経験を積めば、建物の図面を見ただけで、雨仕舞上の弱点を挙げることができるようにもなるのです。もちろん、軒ゼロの建物であっても、また、面の多い建物であっても、必要な措置を講ずることで、そのリスクを軽減することができます。ただし、すべては相対的なものであり、こうすれば絶対であるといったことではありません。心にとどめておかなければならないのは、「資格を持った人が設計したから」「行政が許可を出したから」といっても、雨仕舞に関しては、設計上問題がないということにはならないということです。

話は変わりますが、新築してから一定の期間内に雨漏りが発生した場合に責任を負うのは、もちろん建てた側、すなわち施工者です。調査によると、雨漏りを大量に起こした住宅会社は倒産する率が高いそうですが、ある意味当然でしょう。ですが、設計した側にまで責任が及ぶかといえば、現状ではなかなかそうなってはいません。前述の通り、雨漏りしやすい設計、しづらい設計という法的基準がない以上、設計者にまで責任を負わせることは容易なことではありません。従って、工務店などの施工者は、その設計で建物を建てて問題がないかを自主的に判断しなければならないのです。

ただ、近年、法解釈も変わりつつあります。これまで、雨漏りの瑕疵担保期間は品確法(「住宅の品質確保の促進等に関する法律」平成11年6月23日法律第81号)で10年と定められていました。しかし、2011年の最高裁判決で、「居住者等の生命、身体又は財産を危険にさらすような瑕疵が存在する場合には、設計・監理者や施工者に対し、民法の不法行為責任が問われる」との判断が示されました。民法の時効(排斥期間)は20年です。また、品確法での『売主』というくくりではなく、設計・施工者に損害賠償責任が及ぶことが明記されています。要するに、直接的な契約関係になくとも、その責任を問えるということなのです。

このように、少しずつ建物所有者の利益が保護されるような環境になってきましたが、かといって、所有者が何の知識も持たずに建物を適切に管理できるようなわけにはいきません。従って、あくまで所有者主体で維持管理の計画を立て実施すること、また、改修工事を行う際には、施工会社との間でできるだけ詳細に合意を形成することが、やはり重要なのです。