―第26章―
耐震と雨仕舞

建物を新築したり、中古の建物を購入しようとしている方なら誰しも気にされるのが、建物の耐震性だと思います。命にかかわる問題ですので、当然のことです。また、多くの人にとって、住宅は人生で最も高額な買い物となるのですから、地震によってその資産価値が一瞬にしてゼロになることはなんとか避けたいと思うでしょう。

言わずもがなですが、日本は世界で有数の地震国です。それに呼応して、日本の耐震基準や、耐震・免震に関する技術は世界髄一と言ってよいレベルになっています。従って、現行の建築基準に則った建物であれば、絶対ではないものの、地震に関してはさほど心配いらないと言えるでしょう。

しかし、だからといって安心できません。なぜかといえば、建築における各法規制は、当然ながら、新築時の状態に対するものだからです。耐震基準を満たしている建物とは、新築時の状態で満たしているのであって、雨漏りなどで柱や梁、構造壁といった耐力壁が腐食した状況は想定されていません。

では、そういった建物の耐震性を確認する方法はないのかと考えれば、思いつくのが、既存建物の耐震診断です。

ここで、耐震診断について簡単に触れておきます。耐震診断には、簡易診断・一般診断・精密診断の3つがあります。簡易診断は、『耐震チェック表』などを用いて、オーナーやユーザーといった専門家以外がチェックをしてゆきます。それに対し、一般診断と精密診断は、ともに建築士等の建築技術者(特に精密診断においては原則として建築士)が行うものです。一般診断と精密診断との違いは、『破壊検査』を行うかどうかです。一般診断では、破壊検査は行いません。調査は建物内外より、主に目視で行います。

一方、精密診断では、壁などを壊して内部状況を調査します。一般診断でも、雨漏りの跡などがあれば耐震性を低く評価するのですが、耐力壁を壊して腐食状況を直接確認するのに比べ、調査の精度は下がります。精密診断まで行えば、建物の状態を詳細に把握できるので、耐震性だけではなく、建物を総合的に評価するのに大変有効であるといえます。

ただし、診断結果に基づき計画・実施される補強工事に関しては、一考の余地があると思っています。

耐震補強そのものについては、ガイドラインが明確になっているため、きちんとした管理がなされていれば、施工品質にブレが生じることはかなり少ないでしょう。もちろん、ガイドラインによらない、サギまがいの工事は論外ですが。でも、例えば雨漏りによって耐力が低くなってしまった壁を耐震補強する場合、補強自体は適切に行えても、雨水浸入のメカニズムを解消できずに、施工後再び雨漏りしてしまうことがあります。また、補強を行う際に外壁側を切断したところ、内部の防水層が不連続となり、新たに雨水の浸入経路が発生して構造材を腐食させてしまうといったことも起こりえます。

では、なぜこのようなリスクを抱えてしまうのかといえば、耐震診断や耐震補強に関する基準化の充実度に比べ、腐食などによる劣化に対するそれが、まだ途上であることに他なりません。その理由としては、繰り返しになりますが、建築関連法令の基準が、劣化に対してあまり考慮されていないからであると思えるのです。

ガイドラインが全く存在しないわけではありません。たとえば、住宅の品質確保の促進等に関する法律、いわゆる品確法に基づき、住宅の性能に関する共通ルール、すなわち基準を定めた『住宅性能表示制度』というものがあります。その中に、劣化の軽減に関する項目があって、劣化対策等級が定められています。劣化対策等級が3の住宅であれば、通常想定される自然条件及び維持管理の条件の下で3世代(おおむね75~90年)にわたり、大規模な改修工事を必要とするまでの期間を伸長するため必要な対策が講じられている、とされています。要するに、75年~90年長持ちするようにつくられていると評価しているのです。この制度に基づき、長期固定金利住宅ローン『フラット35』や、住宅瑕疵担保保険を扱う法人などで、適合基準を明確にするために独自に工事仕様を作成しています。

品確法ができてから、建物の耐久性の向上に対し、大変注目度が高まりました。ただし、その視点は、まだ新築の施工法などにとどまっており、既存の建物の改修に目を向けられることは少ないのが実情です。従って、同じ改修工事でも、耐震補強工事のように明確なガイドラインが存在するのとは異なり、既存の建物を雨水浸入による腐朽などから守るための工事仕様は、確立されているとはいえません。

建築士、建築施工管理技士などの資格要件は、おおざっぱに言えば、新築に関する知識を有している技術者です。改修工事に関しては、新築の知識だけでは足りないこともあるのですが、公的資格は今のところありません。ちなみに、私が有している、建築仕上げ改修施工管理技術者・建築仕上診断技術者・雨漏り診断士といった資格は、いずれも公的資格ではありません。

こういった例からも、新築偏重とまでは言わないまでも、改修工事に関してはまだ成熟していないことがうかがえます。

反面、昨今、住宅をはじめとした建築物ストックの有効活用への機運がますます高まっています。それに伴って、建物の保全に関する取り組みも、今後重要度が増してくることでしょう。おのずと改修工事の精度も求められます。だからこそ、耐震性の維持に際しては雨仕舞の知識が不可欠であるということを、特に建物の維持延命に携わる業者は深く認識しておかねばなりません。そういったことからも、改修工事のガイドライン化は、喫緊の課題であるといえるのではないでしょうか。