―第28章―
シロアリと腐朽と雨仕舞

木造建物のオーナーにとって、シロアリ対策は、外壁の塗り替えと同じくらい関心が高いです。最近では、住まいの外壁塗装とシロアリ防除をセットで提案する業者も増えています。多くの方が、シロアリに対し、建物に甚大なダメージを与えるという印象を持たれていることがうかがえます。そこで、今回はシロアリについて触れてみたいと思いますが、私はシロアリの専門家ではないので、改修工事業者としての経験による見地から考察してみます。

まず、シロアリについて少し紹介します。「アリ」という名がついていますが、いわゆる黒アリはハチの仲間であるのに対し、シロアリはゴキブリの仲間です。また、アリは肉食ですが、シロアリの食物は死んだ植物、特に木材です。シロアリには、植物細胞の細胞壁や植物繊維の主成分であるセルロースを分解する機能が備わっているため、「土に還す」という、地球環境の保全におけるメカニズムの構築にたいへん役立っています。我々はシロアリに対し、つい害虫扱いをしてしまいますが、自然界にとってはたいへん重要な役割を担ってくれているのです。

日本において建物に被害をあたえるのは、主に「ヤマトシロアリ」「イエシロアリ」の2種類です。ヤマトシロアリは北海道の一部や高地を除く全国に生息しており、イエシロアリは関東南部以西・以南の、主に沿岸部が生息域となります。要は、日本中どこにでもいるということです。通常は土の中で暮らしており、暗くてあたたかな場所を好みます。逆に、日差しや風には弱いです。従って、建物へ浸入するのは床下からで、また、日差しや風を避けるため、「蟻道」と呼ばれる筒状の道を作って餌場である木材へ行き来しています。

さて、私が今まで建物の内部でシロアリと遭遇した状況は、雨漏りしていたり、浴室や水道などの設備から漏水していたりといった場面に限定されています。かたや、シロアリの防除に用いる薬剤は、水がかかっている箇所に散布しても効果がないと聞いています。ですから、私がシロアリの存在を確認した場面は、どれも薬剤が役に立たない環境であったといえます。

そんなことから、シロアリを防ぐためには、薬を撒くより、漏水を起こさせない方が先決だと、私はいつしかそう思うようになりました。ただ、私はシロアリに関し、持論を客観視できるほどの知見は持ち合わせていません。そこで、某薬剤メーカーの研究員の方と、シロアリ駆除歴25年の友人にいろいろと質問をしました。

その取材を通じて分かったのは、シロアリは、私が見てきたような、漏水によって水気を伴っている場所、また、湿度の高い環境下に発生する率が圧倒的に高いということです。カラカラに乾いた床下に発生することもあるようですが、かなりまれであるらしいです。調べてみましたが、シロアリが湿気を好むということではなく、シロアリが過ごしやすいあたたかな床下においては湿度が上がりやすいということのようです。また、シロアリが生きる上で水分は欠かすことができないので、適度な量の水場があるところに拠点を設けるのではないかと考えられます。

従って、床下の環境を整えることにより、シロアリの発生を防ぐ可能性があることが分かります。また、薬剤については、常に水が供給されるような箇所には効果が発揮されないため、漏水が起こっていない場合のみに有効です。ですから優先すべきは、薬剤をまくことより、床下を点検して漏水が起きていないか、必要以上にあたたかく湿気を帯びていないかを確認し、改善を図ることであるといえます。

次に、腐朽(腐れ)についてです。腐朽は、木材に腐朽菌が付くことで起こります。腐朽菌は、シロアリと同様に、セルロースを分解することができますので、地球環境にとってはかかせないものです。腐朽のメカニズムですが、温度が30℃程度で、木材の繊維飽和点(水分率が約28~30%)以上の状態が17週~26週続くと、木材の強度低下が始まるという実験データがあります。要するに、雨漏りなどで、木材が乾く前に水分が供給され続けると腐りはじめるということです。腐朽菌は普遍的に存在していますので、条件が整えば木は必ず腐ります。

実は、私が今まで見てきた建物の不具合においては、シロアリの発生よりも、腐朽の方が圧倒的に多いのです。また、前述の薬剤メーカーでは、日ごろから木造建物の解体に立ち会い調査を行っているそうですが、過去の統計で、解体時に調査した全件数のうち、シロアリ被害の痕跡があったものが約80%であるのに対し、腐朽菌によるそれはおよそ95%だということでした。シロアリよりも腐朽の方が影響を及ぼす確率が高いのです。

最後に、私が遭遇した典型的な事例をご紹介します。

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この写真は、上部がモルタル下地に塗装仕上げ、下部が磁器タイル張りの建物ですが、その間のシーリングが劣化して雨水が浸入していました。雨仕舞の不具合です。シロアリが見えます(矢印)が、なんとここは2階と3階の間です。シロアリは土中からここまで上がってきたのです。確認したところ、シロアリ被害と腐朽とが同時進行していました。こういった現場を目の当たりにするにつけ、シロアリや腐朽の区別なく、まずは雨漏り・結露・設備の漏水など、木材が常に濡れているような状況を防ぐことが、何にも増して重要であると思えるのです。