ペイントに"巣ごもり需要"発生
フル稼働続く塗料サプライヤー

「Stay Home」―4月に発令された緊急事態宣言で外出自粛要請が出されて以降、塗料の販売傾向に大きな動きが出ている。消費者自身で塗装をするDIY向け塗料の販売が急増している現象だ。家で過ごさざるを得ない状況の中で、『居心地の良い空間づくり』への機運が高まり、それに乗じて室内用塗料を中心に販売が急伸。メーカーではいずれも「前年比で倍以上」「過去に経験したことのない出荷量」などフル稼働の状況が続いている。

住宅の内装シーンにインテリアペイントの需要創出をけん引してきたカラーワークス。秋山千恵美副社長は「4月以降の販売や問い合わせの数は例年に比べて3倍ほどに急増しています」と驚きを隠さない。同社ブランドのインテリアペイント「Hip」を中心に室内の壁の塗装を目的とした塗料が売れているという。「ステイホームによって家で過ごす時間が長くなり、多くの方が大掃除や断捨離をされたと聞いています。部屋の中が整理されスッキリしたことで、『もっと良くしたい』というマインドが生まれ、壁のペインティングにつながっているのでは」と分析。

インテリアペイントの普及をリードしてきた同社にして、「ペインティングをする人がこんなにいたんだと、私たちでさえ驚いているくらい」とその変化に目を見張る。東京・東神田のショールームで定期的に開催してきたペイントレッスンが当面開催できないことから、How Toペイントや色選びのレッスンなどの動画をYouTubeで発信。そのフォロワーの増加数からもインテリアペイントに関心が高まっていることの手応えを感じている。

ニッペホームプロダクツでもDIY向けの塗料の販売が増大している。「4月以降、過去に例のないほどの売れ行き。各方面で話題になっている"巣ごもり需要"が塗料にも及んでいる」と声を弾ませる。

同社の場合、木材保護塗料や室内壁用の塗料の販売が急増しているという。「ウッドデッキの色褪せが気になっていたけどメンテナンスする時間がなかった、壁紙の上に塗装できると知っていたけど行動に移せなかったなど、家にいる時間がたっぷりできたことで、これまで手を伸ばせなかったそうした需要が顕在化したのでは」との見方だ。

同社では家の中で楽しく過ごす方法を提案する特設サイト「STAY HOME ＆ ENJYOY PAINTING」を4月28日に開設、家庭でDIYペイントを楽しむコンテンツの発信をスタートさせた。「想定を大幅に超えるアクセス数」と手応えを感じるとともに、昨年秋に発売した新製品「MORUMORU」の好調な売れ行きに期待を高めている。同品はしっくい風の塗料を手で塗るユニークな商品で、「お子様と一緒に泥遊びの感覚でDIYペインティングを楽しまれているのだと思う。"楽しい"を切り口にペイント需要を拡大していくようグループを挙げて取り組んでいきたい」と積極姿勢を打ち出す。

関西ペイントグループのカンペハピオでも「4月は製造や物流が対応に追われた」というほどの活況さを見せた。「ステイホームを受け、塗料だけでなくDIY商品全体が伸びている印象」とのことで、補修製品なども伸長した。

特に同社の場合、感染予防を目的に3月に発売した「接触感染対策シート」が、「ホームセンターなど、お取り扱い頂いている店舗で軒並み在庫切れを起こした」と想定を超えた販売を記録。

同品は、超弾性の漆喰塗料「アレスシックイモンティアート」を不織布にコーティングしたシートで、ドアノブなど人の手が触れやすい箇所に貼って使用する。漆喰の持つ抗ウイルス機能で接触感染を予防するとの期待から一気に市場に広がった。

「ミルクペイント」のヒットによりDIY市場で急成長したターナー色彩は、「（2～3年前の）DIYブームの最盛期の頃のような売れ行き」と、DIY製品群がフル生産に入っている。「ミルクペイント」や「アイアンペイント」など女性のDIYerに支持されてヒットした同社の製品。ステイホームで室内のデコレーションに再び関心が向き、主婦層を中心にDIYペイントの需要が盛り上がっているとの見方だ。

同社は先ごろ、水性の万能プライマーを新発売。「冷蔵庫に黒板塗料を塗ってマグネットと黒板の両方の機能を楽しみたい、カラーボックスを塗り替えたいなど以前から万能プライマーのご要望が寄せられていました。今回、溶剤系並みの密着性を持つ水性万能プライマーを出せたことでDIYペインティングを楽しむ幅が更に広がる」とし、再び増大した需要の定着を狙う。

「日本にもペインティングをする人たちがこんなにいたんだ」とカラーワークスの秋山副社長がコメントしたように、ステイホームによってDIYペイントの潜在的な需要があぶりだされてきた。「その受け皿として各地の塗料販売店さんが地域の一般の人たちに向けた活動に力を振り向ければ、ペイント需要が広く根付くのでは。ホームインプルーブメント（住まいの改良、改善）の機運が高まっている今がその機会」（秋山氏）と呼びかける。