「多くの来店者で賑わうペイントショップにしたい」。そんな理想を掲げた挑戦が始まった。建築用塗料ディーラーの荻野塗料（本社・神奈川県藤沢市、社長・荻野宏之氏）が建設を進めていた新社屋が完成、その目玉となる店舗が10日、オープンした。目指すのは、「海外のペイントショップのように多くの来店者で賑わう店先」だ。一方、新社屋の内装の壁全面に本格的なドライウォール工法を採用。ペイント仕上げによるスタイリッシュな職場づくりで、人材採用への効果も狙う。
同社は、2021年3月に本社の隣地に680平米の土地を取得。ここに新社屋を建てて本社機能を移すとともに、旧社屋で行ってきた店頭販売の増強を目的に店舗の拡充を計画。昨年5月に着工し、同12月10日に竣工、年明けの1月10日に新店舗をオープンさせた。
竣工した社屋は木造2階建てで、延床面積は700平米。このうち、店頭販売を行う店舗フロアーは200平米を擁し、建築用塗料の専門店としては国内でも有数の広い売場面積を確保した。
しかも店舗の小屋組みをトラス構造としたことで、柱のないフロアーレイアウトを実現。入口から店舗全体を一望できる開放感と、木造トラスの小屋組みを現（あらわ）しにしたオシャレな空間を演出。これまでにない垢ぬけたペイントショップとなった。
目指したのは、「多くの来店者で賑わう海外のペイントショップのような店づくり」（荻野社長）だ。
「他界した先代（荻野社長の父の正弘氏）が、30年以上前に海外視察で訪れたニューヨークのペイントショップがモデル」と荻野宏之社長。塗料店が多くの来店者で賑わうといった、日本では考えられない光景に感銘し、自らの生業の理想の姿を重ねた先代の正弘氏。以来、同社は店頭販売に注力し、今では売上の2割近くを稼ぐ部門に成長している。この店頭販売事業を更に増強するのが新店舗開設の狙いだ。
強みは、店頭における高度な接客スキル。プロの塗装職人を相手に30年以上にわたって磨いてきた接客力には自信がある。ベテランの店舗スタッフに加え、昨年の春には"現場"に精通した営業部門のトップを店舗の店長に据える人事を敢行、接客力が一段と増した。今春には建築系の専門学校から女性の新卒者も新入社員として加わり、計5名体制で新店舗を運営していく。
更に、これまでバックヤードにしまっていた塗装用具や資材などの商品も一堂に店頭に陳列。特に、刷毛やローラーは圧巻の品揃えで、「近隣の建材店やホームセンターにはない専門店ならではの魅力」とし、「塗料から用具、資材まで塗装現場で必要なすべてがワンストップで揃うショップ」として満足度を高める。実店舗でしか体験できない"ショッピングの魅力"をEコマース時代の差別化に据えたい意向だ。
集客に関しては塗装ユーザーのみならず、大工、板金、外構など「少しでも塗料を使う多様な業種、職種の方々にアプローチし、新規のお客様になっていただく。塗料にそれほど詳しくないお客様だからこそ当社の接客力が生きる。ゆくゆくは地域の一般のお客様にも来ていただける店にし、ここ湘南エリアで"塗料と言えば荻野"と認知されるほど存在感を高めていきたい」と新店舗を成長の基点に据える。
塗装仕上の壁、リクルートの切り札に
今回の新社屋の建設では、業務、営業、経理、配送など各部門のワークエリアを働きやすいよう広くレイアウトした他、大人数を収容できるセミナールームや女子社員向けのレストルームも新たに設けた。レストルームはさながらカフェのような設えで、ドアを閉めれば電話の音もシャットアウト、仕事を離れたリラックスタイムが持てる。「この部屋に入ると気分もほぐれるので、社員との面談にも活用していきたい」と荻野社長がこだわった空間だ。
そして、それ以上に強くこだわったのが新社屋の内装仕上げ。屋内の壁はすべて本格的なドライウォール工法を採用した。北米式のドライウォール施工で定評のあるペインターに仕事を依頼し、「ペイント仕上げならではの上質な空間づくり」にこだわった。塗料を生業としているプライドと、リクルートを強く意識してのものだ。
同社は内装塗料の普及にも精力的で、新社屋の内装仕上げでその姿勢を体現した。間接照明の光と塗装仕上げの壁とが織りなす上質な空間は、一般的なオフィスと職場環境の差が歴然。訪れた人に"ステキな会社"との印象を抱かせ、その洗練されたオフィスで人が働いている光景が、「人材採用へのフックになる」との狙いもある。
多くの来店者で賑わう店先、人が集まり働きたくなる会社を目指し、塗料ディーラーの新たな挑戦が始まった。
