今年も暑さを警戒する時期がやってきた。いや、近年の暑さはもはや"熱さ"と表したいくらいのレベルで、職場での熱中症対策が罰則つきで義務化されるほどヤバいゾーンに入ってきた。そんな物憂い季節に、涼しげな話題をひとつ。氷と塗料の話題である。東京で初めて開催されたスケートリンクのイベント「PAINT ON ICE」を取材した。
6月初め、東京の江戸川区スポーツランドで「PAINT ON ICE」というイベントが開かれた。これまで北海道や愛知で1～2回行われたことはあるものの、東京では初めての開催。日本ではまだ珍しい氷上のイベントだ。
仕掛けたのは、オリンピアンで元ショートトラックスピードスケート日本代表の勅使河原郁恵さん。「アイスホッケーが盛んな北米で数年前から人気になっているイベントで、たくさんの人がスケートリンクに集まり、氷の上いっぱいに思い思いの絵を描いて楽しむイベント。人々とスケートリンクの近しい関係性がとても素敵で、私のホームリンクでもあるここ（江戸川区スポーツランド）でも開きたかった」と説明。施設管理者の江戸川区の賛同を得、実現の運びとなった。
勅使河原さんによると、ナショナルホッケーリーグ（NHL）が行われているアメリカやカナダでは、NHLのシーズン終了時に各チームがファンクラブの人たちや地域の子供たちをホームリンクに集め、「PAINT ON ICE」のイベントを開催しているそう。
「アイススケートをしたことのない人でもリンクに立つことができ、これをきっかけにスケートを始めてくれる人が増えれば」（勅使河原さん）との思いを込めて開催。当日は、近隣地域の親子連れなど400人近い人たちが参加、スケートリンクに親しんだ。
そしてこのイベントのもう一人の立役者が江戸川区スポーツランド指定管理者・加藤商会の泉田浩二さんだ。「私も海外のPAINT ON ICEの様子を見て感激していたので、勅使河原さんの提案に深く賛同。このリンクは、夏はプールとして営業するので、スケートリンクのシーズンが終了する6月1日に開催することで江戸川区さんの了承もいただきました」と説明。その準備の中で泉田さんは、塗料の手配も進めた。
「以前、SHOGENさんというアーティストの本の中で、日本ペイントさんが塗料を提供してくれるという情報に触れていたので、ダメ元でアプローチしたところ快く引き受けていただけました。ご協力にとても感謝しています」と感動の面持ちだ。
日本ペイントでは、「氷の上に塗料で絵を描くなんて、最初にお聞きしたときはびっくりしましたが、塗料の面白さや楽しさを伝えるのにとても新鮮で興味深いお話」と即決し、同社が続けている社会貢献活動「HAPPY PAINT PROJECT」の一環としてイベントを支援。併せて、これまでにも数回コラボレーションしている大塚刷毛製造にも声をかけ、日本ペイント及びニッペホームプロダクト、大塚刷毛製造及びハンディクラウンの4社で塗料や用具の提供、人的支援で協力、イベントを盛り上げた。
両社が用意したのは、廃塗料のアップサイクル品を含む水性内装用塗料と人数分の刷毛やカップ、マスカーなどの副資材。塗料に関しては、「実際に氷の上で試し塗りをしながら、どれくらいの希釈率がベストか実験を繰り返しました」と日本ペイントの担当者。
というのも、水性塗料をそのまま氷の上に塗っても凍結防止剤の影響で固まりにくい上、粘度が高くなって刷毛の運びも悪くなる。実験の結果、「水で5倍に希釈するのがベスト」との答えを導き出し、PAINT ON ICE仕様の塗料を用意した。
この塗料は、言わば「色水」なので、氷の上に塗ると瞬時に固まり（凍り）描画がとてもやりやすい。その超速乾（？）ぶりは、まるで理科の実験でも見ているようで、塗料の新たな楽しみ方を発見したようで面白い。
イベントでは、親子連れなど近隣の人たち約400名が参加。子供たちはもちろん、「氷の上に絵を描くなんて初めての体験。しっかり色も付くし、乾くのも早く、とてもビックリ。まるで氷の上のアート作品のよう！」とお父さんやお母さんたちも夢中だ。赤、青、黄やオレンジ、紫などカラフルなPAINT ON ICE仕様の塗料を200L用意したものの、「思っていた以上に皆さん楽しまれて、最後の方は塗料が足りなくなりそうでした。来年はもっと用意しなければ」と泉田さん。
「当社は、スケートリンクの管理運営を全国的に行っているので、今回のイベントの成功を各地のスケートリンクに報告し、このアート活動を広げていきたい」（同）とコメント。塗料の楽しさや面白さを伝える「PAINT ON ICE」のイベント、国内でも広がりそうな気配だ。
