賃貸オーナーがペイントにはまる
向ヶ丘遊園プロジェクト

7月、神奈川県川崎市のアパート「クロスコート向ヶ丘」でユニークなペイントワークショップが開かれた。賃貸住宅のオーナーネットワークを中心とした人たちが集まり、リノベーション中のアパートの部屋の壁を実際にペイントするイベント。賃貸住宅の内装に塗料を普及させるヒントが垣間見えた。

ワークショップを主催したのは、クロスコート向ヶ丘のオーナー・夏山栄敏さん（写真）。経営コンサルタントなどを営む傍ら、中古の集合住宅を購入して大家業を営む不動産投資家でもある。「築50年近くが経過し、3年以上全空（全室空き家）で、ほぼ廃屋状態（笑）で売りに出されていたこの物件を今年1月に購入、学生さん向けのアパートとして再生しているのが『クロスコート向ヶ丘』です」と説明。

2棟からなるアパートはそれぞれ10室ずつ部屋があり、各部屋のリノベーションはほぼ完了、既に入居が始まっている。それとは別に、以前のオーナーが居住していた1号棟の2階部分を民泊やコミュニティスペースとして活用することを計画。「向ヶ丘遊園プロジェクト」と銘打って現在リノベーションの真っ最中で、ここが今回のペイントワークショップの会場となった。

この2階部分は約120㎡の広い空間に民泊用の個室4室と広間、キッチンや水まわりを配置。「それぞれの個室と広間はじゅらく壁と畳敷きのかなり年季の入った状態だったのですが、それらの古い物を生かしながら再生するのがテーマ」と夏山さん。

この計画に呼応したのが、夏山さんと親しく、クロスコート向ヶ丘の外装リノベーションも請け負った原島塗装店（さいたま市）代表の原島信一氏だ。

原島氏は向ヶ丘遊園プロジェクトの内装壁の再生に関西ペイントの漆喰塗料「アレスシックイ」を提案。夏山さんは「向ヶ丘遊園は海外の人たちに人気のある観光スポットが集まったエリアで、民泊もインバウンドの方たちの利用をイメージしています。ですので日本建築の良さを感じてもらうためにも漆喰は打ってつけ。しかも左官工事ではなく、刷毛とローラーで比較的簡単に塗れるとお聞きし、どうせなら親しい人たちとワイワイ楽しみながら施工できないかと思い立ちました」とワークショップを計画。

ペイントは楽しい！

夏山さんがフェイスブックで呼びかけたこのワークショップに約20人が参加。夏山さんと親しい大家さんネットワークの人たちや民泊・イベントプロデューサー、女性DIYerなど多彩な顔ぶれで、「漆喰塗料というものに興味があるし、その塗料で築古物件がどのように蘇るのか楽しみ」といずれも興味津々。

原島氏がインストラクターを務め、また関西ペイント販売の笹川昌嗣部長もサポートで参加。消臭や空気質改善などアレスシックイの特性を説明しながら塗装作業をデモンストレーションし、ペイントワークショップがスタートした。

柱や枠、床などの養生に始まり、元々のじゅらく壁に対してアレスシックイの専用シーラーと上塗りという流れで進行。「実際の壁をペイントするのは今回が初めて」という参加者も半数程度いるが、塗ることに全く躊躇はなく、早くやってみたくてウズウズしている。ペイント作業を楽しんでいる周りの雰囲気がそうさせるのだ。

酷暑の中、見ている側が心配になるほど皆さん作業に熱中。でもその顔に苦行のかけらは一切なく、ペイント作業を楽しんでいる雰囲気が全身から伝わってくる。笑い声もたくさん飛び交い、現場は終始明るい雰囲気に包まれている。「誰もがすぐに作業に参加できるペイントだからこんな雰囲気になるのでしょう。完成を目指して皆で同じ作業をしている一体感もペイントならでは。壁紙だとこうはいきません」と関西ペイント販売の笹川氏もペイントワークショップの魅力を再確認。

原島氏も「日本の住宅の内装空間にペイントを広めていくことを自身のミッションとしており、大家さんネットワークのつながりの中でワークショップなどの普及活動を行っています。所有物件の内装をペイントで原状回復される大家さんも増えてきており、関心の高まりを実感しています」と活動に力が入っている。

今回のイベントを主催した夏山さんは、所有物件の原状回復に際して「家内と一緒に、自分たちでできる部分はDIYで施工しています。入居いただく方に少しでも快適な空間を提供したいと、物件への思い入れが深まりますから。今回のリノベーションに関しても各部屋のダイノックシート貼りやボロボロになっていたランドリールームの天井や壁を自分たちで塗装しました。ペイントは色によって雰囲気がガラッと変わりますし、漆喰塗料のように簡単に快適空間にも変えられます。これからも積極的にペイントを使用したいですし、ペイントは賃貸住宅にもっと広がると思います」と感想をコメントした。