低温化140℃の可能性は、技術と新用途で成長へ

粉体塗料需要が低調に推移している。経済産業統計によると、2024年の販売数量は前年比で減少傾向が続いている。1~7月の期間では前年比5.6%減と停滞基調が続く。需要分野ごとの動きとしては、産業機械向け、例えば工作機械、建設機械、農機具といった分野において、生産数量の減少に連動して粉体塗料需要も減っている。一方で、自動車部品や鋼製家具向けなど、塗料メーカーの販売数量が伸びている分野も一部では見られている。

今年の動きとして減少傾向が見られる粉体塗料需要だが、中長期的に見れば成長市場との見方が多い。現状の落ち込みについても「粉体塗料だけが減っているのではなく、工業塗料全体に停滞感が見られる。むしろ溶剤塗料に比べれば落ち込み具合は少ない」(塗料メーカー)との声が多い。そのため塗料メーカー各社では粉体塗料事業に注力する動きが出ている。


低温化ニーズで開発活発化

市場ニーズとして粉体塗装ユーザーから要望が強いのが、低温硬化タイプだ。焼付温度の削減に寄与する低温硬化タイプは以前から各塗料メーカーで上市しているものの、CO2対策やエネルギーコストの削減に効果が期待できるため、最近は一層ニーズが高まっている。

ポリエステル樹脂系粉体塗料では、通常の180℃×20分に対し160℃×20分タイプを各塗料メーカーは上市し展開している。更なる低温化としては、関西ペイントが150℃×20分を上市済みであり実績を重ねている。日本ペイント・インダストリアルコーティングスも「新たに150℃以下の開発、導入を計画中」として市場ニーズに対応した展開を図っていく。
 需要創造に向けて低温化の動きは活気づいており、140℃を見据えた開発が進んでいる。焼付温度を140℃まで下げることができれば溶剤塗装と同じ焼付条件となり、粉体塗装と溶剤塗装を同じ塗装設備で生産することが可能となる。乾燥炉の設定を変更する必要がなく生産効率が高まる。

ただ140℃までの低温化となると現状では課題が多く、塗料製造時に熱を加える工程で硬化反応が起こるリスクや、塗料の保管・輸送時のブロッキングの可能性など解決すべき問題は残っている。特に汎用的に製品として流通させるとなると課題が多いため、特定ユーザーと共同で取り組むことで、塗料の取り扱いを徹底管理する方法も考えられる。いずれにせよ焼付温度の低温化が粉体塗料の需要創造につながる重要な要素となっている。

ビル外装材で粉体塗装の流れ

近年、粉体塗料の動向としてビル外装材への採用が増えている。従来、建物の外装材では一部で高耐候ポリエステル樹脂系粉体塗料の採用があるものの、長期耐久性が求められる高層ビルのカーテンウォールなどでは溶剤系ふっ素樹脂塗装が主流となっている。

そんな中、ふっ素樹脂とポリエステル樹脂を含有した粉体塗料の採用が目立ってきた。

森ビルは外装建材に粉体塗装を採用する方針を打ち出している。その理由として大別すると、環境負荷低減、塗り替え時のリコート性、そして建築外装材の生産拠点の影響もあるという。ビル建材の量産品は建材メーカーの海外工場で生産されることが主流となっており、中国などでは規制が厳しくなり溶剤塗装が使いにくい状況となっている。そのため、粉体塗装の方が生産面でも優位性が出ている。

また、これまで溶剤系ふっ素樹脂塗装を採用してきた施主や設計会社、ゼネコンなどでは粉体塗装においても、耐候性に優れるふっ素樹脂系を使用したいとの考えがある。それに対し、ふっ素樹脂とポリエステル樹脂を含有した粉体塗料が製品化され実績も重ねており、実際の物件での性能評価が出ていることも採用を後押しする。

今後、大型開発プロジェクトを中心にビル外装材において粉体塗装の採用が進むと想定され、粉体塗料市場の拡大につながるはずだ。

ただし、中国をはじめとして海外で加工・塗装されるため、国内の粉体塗料需要という視点では、建材分野の粉体化の流れが大きく影響するとは言えないかもしれない。

しかし、追加部材や複雑形状部材、更には意匠性が求められるエントランス周りなどは国内で塗装されることも考えられる。基本的に新たな用途で粉体塗装の使用が広がることが、横展開として別の用途でも使われる可能性は十分にある。

環境負荷低減の観点から粉体塗料は拡大してきた経緯があり、近年では人手不足対策として生産性に優れる粉体塗装の注目度が高まる。これからは市場ニーズに対応した製品開発や新たな用途展開を進めて更なる市場拡大が期待される。



粉体塗料販売数量(2024年).jpg
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