塗料ディーラーの大井産業（本社・福岡市、社長・田中俊二氏）は6月、自動車補修用オリジナルスプレーガン「二刀流（にとうりゅう）」の販売を開始した。3年前に社内プロジェクトをスタートし、自社ブランドの開発に着手。スプレーガンメーカーの恵宏製作所（本社・大阪市、社長・村上正明氏）と共同で商品化を実現した。「業界に一石を投じる契機にしたい」（担当者）と既存メーカーとは一線を画した展開を指向する。
同社がオリジナルスプレーガンの開発に着手したのは2017年。同社が所属する同業者グループ「トップネット」が会員各社の社内プロジェクトを共有・支援する"夢工場応援隊"と称するプログラムを推進していたことが同社をブランド開発に向かわせるきっかけとなった。
開発チームのメンバーである宗村晋氏（熊本営業所課長）は、「限られた市場で競争を続けるレッドオーシャンの状況を無力化するには、自社でブランドを持つことが必要だと考えた」と説明。続けて「ブランド化するためには、商品を使用するユーザーにファンになってもらうことが重要」とユーザーの愛着や嗜好性が強いスプレーガンに目を付けた。
とはいえ、スプレーガンも塗装機メーカー各社が参入し、熾烈な販売競争が繰り広げられている市場。またメーカーとも取引関係がある同社が単にスプレーガンを開発するだけでは、徒労に終わる。
そこで同社が開発コンセプトに据えたのが、サイドカップとセンターカップを1つのガンで両立させた商品の実現。粘度が比較的高い水性塗料やハイソリッド塗料においては、重力に従って塗料がスムーズに注入するセンターカップが適していると言われているが、作業性やバランスの観点からサイドカップユーザーが多く占めるのが現状。「1つのガンで両方に対応できるようにすることで、センターカップに関心を持つユーザーに訴求すると考えた」と市場性を見出した。
こうした同社の開発コンセプトにスプレーガンメーカーの恵宏製作所が呼応し、商品化に向けた共同開発がスタート。恵宏製作所は、1.6mmのノズル口径で微粒化メタリック塗装を実現する「ATOM S.C」を開発するなど、独自の設計思想を武器に根強いファンを有することでも知られる。しかし、開発が進むにつれ難易度の高さに直面。特に困難を極めたのが、大井産業側が提示したデザインの具現化だった。
今回、スプレーガンのデザインに関しては、看板や造作などのグラフィックを手掛ける同社スタッフがデザインを担当したが、提示したデザインではサイド、センターの両立は難しいと製作側の恵宏製作所と衝突。折り合いがつかず、一旦は白紙の状況に追い込まれたという。
しかし、製品を完成させたいという両社の思いは消えず、時を置いて開発作業を再開。3年の歳月を費やし、「二刀流」の完成にこぎつけた。
構造自体は、恵宏製作所が蓄積してきたノウハウを応用する形で金型から染色まですべてオリジナルで開発。鋳造はSSA工業（大阪府枚方市）、アルマイト加飾は電研（大阪市）が担当した。「開発に参加して頂いた企業を紹介することで、開発ストーリーを共有できる形にしたかった」（宗村氏）と話す。
卸対応、海外市場も視野
本来であれば、毎年4月に実施している同社主催の自動車・建築関連総合機材展「大の市」でお披露目する予定だったが、コロナの影響で中止が決定。自社の営業展開をベースに6月から販売を開始し、現在は専用サイトでの注文も受け付けている。
ラインアップとしては、「二刀流」各色50丁限定の全9色と柄・模様を施した各色10丁限定の「プレミアムタイプ」の5色。
色名には、桜花（ピンク系）、青藍（青系）、夜霧（黒系）、榛摺（茶系）、唐紅（赤系）、茜雲（黄系）、紫式部（紫系）、草枕（緑系）、向日葵（黄緑系）と日本らしさの表現にこだわった。
価格は、「二刀流」5万9,800円（税別）。本体、サイドカップ、センターカップ、ガンスタンド、アタッチメントをセットで販売する。プレミアムについては、問い合わせ対応としている。
スプレーガンとしては、高めの設定だが、「センターカップを検討している導入機種として選択してもらいたい」とコメント。限定モデルによる希少性にも期待感をのぞかせる。
既に同業者から卸対応の要望も寄せられており、今後は機種の拡充、海外も視野に販路拡大に注力していく意向。「当社としては、決して既存のメーカーと競争する考えはない。ディーラーとしてブランドを持つことの価値を強みにしていきたい」と新たなディーラー像の構築を見据えている。
【二刀流スペック】
ノズル口径:1.4mm、1.6mm△吹付手元空気圧力:0.2MPa△空気使用量:220ℓ／min△塗料噴出量:155～170ml／min△パターン幅:250～270mm△質量:440g
