大家さんにペイントファン急増中

賃貸住宅の大家さん（オーナー）の間で頼りにされているペイントの伝道師がいる。さいたま市の建築塗装業・ウォールデザインハラシマ（旧原島塗装店）の代表・原島信一氏だ。賃貸住宅の修繕で欠かせない塗装工事について解説する大家さん向けのセミナーが「分かりやすい」「役に立つ」と好評で、開催要請が後を絶たない。原島氏のセミナーに参加し、人気の秘密に迫った。

民間の賃貸住宅の経営形態を見ると、大家さんの8割以上は個人経営で、そのまた8割以上がいわゆる"サラリーマン大家さん"のような兼業家主。会社勤めや自営業をやりながらなど、賃貸経営専業以外の層が実は主流を占める。資産形成や安定収入を得るため中古物件を購入してまずは1軒から賃貸経営に乗り出す、そんな小規模家主が多いのが大家さんの実態だ。

ただ、家余りと言われる今の時代、賃貸住宅を所有していれば収益が上がるというものではない。いかに入居率を高め高利回りの家賃設定をできるか、自身で管理している場合はもちろん、不動産業者などに管理委託している場合でも所有物件の魅力づけが大家さんには欠かせない。

その運営管理において、修繕工事につきものの「塗装」は重要なポジションにある。建物の老朽化を防ぐだけでなく、"見た目"といった意味でも入居率に大きく関わるためだ。ただ、いつ頃、どのような塗装を、どれくらいの費用をかけて行えばベストなのか、塗装に関してほぼ素人の大家さんが判断するのは難しい。

そこで人気を集めているのが、日本ペイントのセミナーの講師として業界でお馴染みの原島氏による大家さん向けのセミナーだ。「一から分かる、塗料・塗装工事の今を学ぼう！」などと題して現場のプロが徹底解説。4年ほど前から始めたセミナーは、各地の大家さんのグループやサークルなどからの開催要請で引っ張りだこ。どのような話が繰り広げられているのか、先日、都内の会場で開かれたセミナーを訪ね、話を聞いてきた。

塗装工事を成功させる秘訣とは

セミナーは1時間以上に及び、内容もぎっしり。自身のパーソナリティ、自社の仕事内容や実績、不動産オーナーとの人脈やコラボ活動、大家さんのDIYによる室内の原状回復、塗料についての解説、塗装工事の内情、（大家さんが）買っていい物件の見分け方など盛りだくさん。

その中で強く印象づけられたのは、大家さんにとって小難しい「塗料」や「塗装工事」の話を身近に感じさせる展開の上手さだ。

例えば「塗料」に関してはそのルーツから解説。明治時代の初期に毒性の無い白粉をつくることから国産塗料の開発が始まったというくだりでは、人気のテレビドラマのシーンを引用して説明、受講者（大家さん）の「そうだったんだぁ」という関心をうまく引き出している。また戦後、輸入塗料に頼らざるを得なかったときの塗料の価格をクイズ形式で出題。東京・田町の一坪の値段が2円だった当時、輸入塗料1缶が3円もしたという答えには当然のことながら驚きの声が挙がる。

そうした話題の後で、シリコンやフッ素、遮熱塗料など現代の塗料の解説に移るが、興味深いエピソードで既に塗料そのものへの関心を引き寄せているので理解や納得も早い。塗料のグレードによる耐久性の違いや機能性塗料のメカニズムなど小難しい話がすんなりと耳に入る。

受講者が一番知りたい塗装工事の内情の話では、人件費や材料費、足場代、営業経費や利益といった内訳比率をざっくりと説明。その上で、塗装店が直接工事を請けた場合と、管理会社が間に入った場合の費用配分を明示し、「良い悪いの話ではなく、管理会社が間に入った場合はその分のコストが職人の人件費など下請けにしわ寄せがいくか、お客様への見積額を増して吸収しているのが現実」と内情を説明。

「塗料は半製品と言われ、塗膜になって初めて完成品になります。そしてその塗膜になる過程（塗装工事）を担うのは塗装職人です。直接にしろ、管理会社経由にしろ、職人にしわ寄せがいかないよう気にかけていただくのが塗装工事を成功させる最大の秘訣。職人を大事にして下さる大家さんには全力で応えていきたいと思います」との話に大家さんたちも納得、共感の輪が広がった。

セミナーの参加者は、「私たちは、塗装を始め建築に関しては素人。だからこそ業者さんと意思疎通をできるくらいの知識や情報を身につけたいと思っています。互いに納得して行われる修繕工事は良いものになると思いますから。そういった意味で今回のようなセミナーはとても貴重で、塗料・塗装のことがよく理解でき賃貸経営に大いに役立ちます」と絶賛する。

ちなみに原島氏は大家さん向けのペイントワークショップでも活躍している。入退去に伴う室内の原状回復工事をDIYで行うアクティブな大家さんに向けて、ペイントレッスンのワークショップを開催。ペイントDIYで壁を原状回復することで費用を抑えられることだけでなく、ペイントカラーによる物件の魅力づけも伝授。ここでもペイントファンの輪を広げている。