「クロスカラーリング」を新たな仕事のフックに

賃貸住宅の室内の原状回復を塗装で行うこの新たなサービスに、栃木県宇都宮市の坂本塗装(佐藤公彦社長)が乗り出した。既にいくつかのサンプル施工を終え、「依頼をいただいた不動産会社さんの反応は上々」と手応えを感じている様子。地域の不動産市場へのきっかけづくり、女性の活躍の場の創出、多様な働き方の提供など塗装業としての今後に可能性を見出しているようだ。


坂本塗装は栃木県宇都宮市に拠点を構える建築塗装会社。社歴は60年を超え、公共工事、橋梁塗装、野丁場のゼネコン仕事から町場の改修工事まで幅広い仕事を手掛けている。

そんな同社に「クロスカラーリング」の話があったのは昨年の秋口だ。取引のある関西ペイントブラーノから持ちかけられた。「もともと県営住宅の原状回復工事で室内の塗装を手掛けていたこともあり、ブラーノさんからのお話にも違和感はなかった」と佐藤公彦社長。むしろ、「クロスの張り替えに席巻されている賃貸住宅の内装に塗装が広がるチャンスにもなる」と肯定的に捉え、今年に入って活動を始めた。

「クロスカラーリング」の営業先として同社がアプローチを始めたのは地域の不動産管理会社だ。「賃貸住宅の維持・管理に関してはオーナーさんが直接というよりも管理会社がコントロールしているケースが多く、そこへのアプローチが効果的」と判断、地域の不動産管理会社へのアポ取りを始めた。

そこで同社が利用しているのが、社外の「在宅ワーカー」だ。一般の主婦など在宅で仕事を請け負う人と契約し、自社の仕事の一部をアウトソーシングする仕組みを同社では以前から導入。この在宅ワーカーに栃木県内の不動産管理会社にテレアポを行ってもらい、反響のあった企業に同社が訪問、営業を行うといった流れだ。

「スタートから1カ月ほどで5件の訪問先があり、このうち3件でサンプル施工が決定。新しいサービスなので、まずはサンプル的に施工させて頂き、その評価を踏まえて本採用につなげていく」と準備を進めている。

テレアポでの相手先の反応について佐藤社長は、「原状回復工事で定番のクロスの張り替えに比べてコスト面での優位性を持たせているので、興味を示す管理会社は多い。標準スペック化を検討するお話もある」と、クロスカラーリングへの手応えを感じている。

クロスカラーリング、驚異の施工性

坂本塗装でクロスカラーリングの施工を主に担当するのは、工事課の女性社員・青木桃子さんだ。県営住宅の原状回復工事も担当しており、室内の塗装にも慣れている。

今週号の1面の記事にもあるように、インテリアペインター協会が確立したこの塗装サービスの真骨頂は施工のシンプルさ。養生はマスキングテープのみで、ローラー塗装だけの1回塗り仕上げというシンプルでスピーディーな施工が事業性を生んでいる。

その施工を実際に経験した青木さんは、「専用の塗料とローラーを使うと塗料の飛散がなく、マスキングテープだけの養生で十分作業が行えます。入隅のキワの部分にも入っていくようにローラーが工夫されているので、刷毛も使いません。1回塗りで仕上げるため、身体の使い方に多少コツが要りますが、少し慣れれば女性でも問題なく施工できます。これまでの塗装の概念を変える工法かもしれません」と驚きを隠さない。

また、同社の小澤菫さんもクロスカラーリングの現場を経験した1人。小澤さんは、同社で営業職を担当しながら「塗装が好き」で特殊塗装のスキルも修めた女性社員だ。「クロスカラーリングだと1日で施工が完了するので、その日のうちにビフォーアフターを実感でき、仕事の達成感も強いです」と、別の視点からも価値を見出しているようだ。

坂本塗装の佐藤公彦社長はクロスカラーリングサービスについて、「まだ始めたばかりですが、まずは女性社員でこのサービスをオペレーションしていきたい。高所での作業もなく、重たいものも扱わないので女性がより活躍しやすい仕事だからです。そしてゆくゆくは、新たな雇用の受け皿にもしていきたい」と構想を膨らませる。

「基本的に1人で作業し、納期も比較的余裕があるので時間の融通がきく仕事」とし、「例えば子育てや親の介護をしながらなど『自分の都合に合わせて働きたい』といった人にも労働参加していただける」と説明。「一般の人でも作業できるほどシンプルな施工にしたからこそ呼び掛けられる」とクロスカラーリングの可能性を見出している。

同社はこれまで、"働くママとのペイントワークショップ"を開くなど、地域の人たちとのつながりを深めてきた。こうした関係性の中から、「クロスカラーリングをやってみたい」という人も既に出てきており、多様な働き方の提供が現実味を帯びてきた。

佐藤社長は、「クロスカラーリングの事業性にも、もちろん着目しています」と言及。「このサービスをきっかけに不動産や管理会社さんとの新たな関係が構築でき、本業へのシナジーも見込める。これらの会社さんは、自社の管理物件の維持管理で、常に"良い業者"を探しており、クロスカラーリングでのつながりをきっかけに鉄部や屋根・壁の塗装など本業へのシナジーが十分期待できる」と説明。自社に新たな仕事をもたらす効果にも期待を高める。



「マスキングテープだけのシンプルな養生」と青木さん
「マスキングテープだけのシンプルな養生」と青木さん
小澤さん
小澤さん

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