自動車の塗装面の外観検査はベテラン検査員が行うが、検査結果が属人的だったり、疲労で検査能力にバラつきが生じたりといった課題がある。こうした課題の解消のため、トヨタ自動車九州では塗装面を撮影した画像から欠陥候補を抽出しAIなどでOK/NG判定を行う検査システムの開発を実施。製造業での検査装置導入の実績が豊富なタカノと協力し、人と同等以上の検査精度を実現した。現在、レクサスのボデーとバンパーの検査工程で実運用している。
トヨタを代表するプレミアムカー「レクサス」を生産するトヨタ自動車九州では、これまで自動車塗装の外観検査は人の目視検査が主流だった。検査員の技量による検査精度のバラつきを避けにくいことや、長時間作業の疲労、高級車を扱う精神的負担といった要因から欠陥検出精度に課題があり、欠陥流出リスクが懸念されていた。
こうした課題の解消策として浮上したのが、外観検査工程の機械化・自動化の構想。「全欠陥が検出可能」「人より優れた検査精度」を目標に、製造業向け外観検査装置で実績のあるタカノと協力し、2020年から開発をスタート。約6年を経た現在、ボデー塗装及びバンパー塗装工程において、タカノの立体物向け表面欠陥検査装置「ZEBBRA」を応用した自動外観検査システムの実運用に漕ぎつけた。
「ZEBBRA」は液晶ディスプレイを照明として使い、光の帯(スリット光)を動かしながら塗装面を照らし、これをカメラで撮影する仕組み。撮影した画像の中でスリット光の輝度変化や形状変化といった「良品部では起きない異常」が出ている部分を画像処理で見つけると、その部分だけを「欠陥候補」画像としてピックアップできる。なお、この方法では写せない欠陥もあり、別な方式での撮影も行っている。
抽出された欠陥候補画像の「欠陥/欠陥ではない」の判別は、予め設定したルール・条件(ルールベース)とAIを組み合わせた判定機能によって行う。欠陥候補の抽出は、万が一の見逃しを避けるために基準が厳しめに設定されており、実際は良品だが塗面肌の状態などから欠陥のように見える「過検出」画像も多く含まれる。AIは、この過検出画像に対し正確な判定を下すことに大きく貢献している。
実際の検査フローでは、まずボデー(バンパー)を広範囲に撮影した大面積画像から「欠陥候補部分」を切り出して抽出する。次に抽出画像に対しルールベース/AIで判定を行い、「欠陥」か良品(過検出)なのかを仕分ける。欠陥と判定された部分は大面積画像のどこにあるのかマッピングされ、検査員が実際のパーツから該当部を探し出して対処するという流れとなる。
現在、この検査システムでボデー塗装工程の60%、バンパーでは40%をカバーしている。これ以外の部分は従前通り検査員の目視検査を行っている。今後、撮影ユニットを増設すればカバー率はより向上する見込みだ。
自動外観検査システムの適用範囲の概要は表を参照。主要欠陥の約4分の3をカバー、残りは現状では自動検出が難しく目視検査している。
検査システム導入の結果、欠陥検出率向上と検査員の負担軽減を実現。検査員のリスキリングにもつながった。同社では「当初の狙い通りの成果」と評価し、ブラッシュアップを継続中だ。
最初から100%の検査はできない
タカノは今回の共同開発を通じ「欠陥の鮮明な撮影方法や撮影クオリティの安定化などで多くの知見を得た。塗装面の検査に関して相当レベルアップした」と手応えを感じている。例えば、ある程度凹凸のある欠陥であれば、機械性能としては0.1ミリオーダーの高精度撮像が可能だという。
また、欠陥の見逃し・流出を避けるには過検出気味に欠陥候補を抽出する必要があり、過検出画像の正確なOK/NG判定はルールベースでは難しくAIが適しているとの見解を示す。「個別の欠陥の特徴を学習させる『教師あり学習』が有効。各欠陥につき100枚程度の画像を学習させれば、ある程度の精度は得られる見込み」とのこと。
自動車のパーツ以外の塗装製品に対する自動検査技術の適用については「今回のような大サイズのワークを少ない画角で撮影する検査システムであれば、コストや労力を比較的かけずに開発できるかもしれない」とした。
一方、最近は検査工程へのAI応用に過大な期待をかけられることが多いという。「最初から100%の検査精度は実現できない。人との協働から始めできることを段階的に増やしていくのが王道。AIの性能は何を学習させるかにかかっており、学習データを用意・選別するのは人間の役割。それには時間も労力もかかる」と釘を刺した。



