屋根塗装を定義するには、まず屋根の役割を明確に理解する必要がある。
屋根において、屋根材は一次防水と呼ばれ、その下にある下葺き材(アスファルトルーフィング等)は二次防水と呼ばれている。最終的に止水を担保しているのは二次防水としての下葺き材である。実際には屋根材によって大半の雨水を制御しているが、それは屋根材本来の役割ではない。二次防水を保護することが、屋根材に与えられた真の目的である。下葺き材が施工された状態で既に雨水は浸入しない構造になっているが、そのままでは破損や剥離が必ず生じるので、それを防ぐために屋根材が存在するのである。

近年外装リフォーム業界では、主に化粧スレート瓦材のうち脆弱である特定の製品を「塗装してはいけない屋根材」と区分けし、重ね葺き(カバー工法)を勧める業者が非常に多くなっている。しかし、重ね葺きの目的が建物の維持延命にあるのなら、重ね葺きが必須の工事であると言うことはできない。先述の通り、屋根材の目的はあくまで下葺き材の保護であり、最終止水ではないからである。さらに言えば、例えば化粧スレート瓦材の表面がどんなに荒れていたとしても、雨水を透過させてしまうことはない。

加えて、重ね葺きは非常に問題のある工法である。なぜなら、通気を阻害してしまうからだ。

下屋と外壁立上りの間には通気のための隙間が設けられているが(画像①)、この隙間の役割は通気だけではない。外壁材の内側へ浸入した雨水は二次防水の表面を流下し排出される構造となっているが、重ね葺きを行うと新築時に意図して設計されたこの排出口を塞ぐことになるのである(画像②)。これでは、折角の外壁通気構法が機能しなくなるばかりか、なにより施工したことでかえって雨漏りのリスクを高めてしまう。

では、塗装を行えば建物の耐久性が向上するかと言えば、その効果は極めて限定的であると言えるだろう。セメント由来の屋根材であれば、塗装により屋根材表面の吸水が減少することはあるが、それは屋根材自体の保護に過ぎない。先に述べた通り、屋根の最終止水は塗装対象である屋根材ではなく、下葺き材が担っているのである。

ちなみに、現下において化粧スレート瓦材を製造している唯一のメーカーであるKMEW社のウェブサイトでは、重ね葺き・塗り替えともに防水性の改善は図れないと示している。

遮熱塗装により下葺きの劣化を防げるという見解もあるが、疑わしい。アスファルトルーフィングは、一般的に表面温度が約140℃~160℃に達すると軟化・溶解し始めるとされている。対して、化粧スレート瓦材の下葺き材の表面温度は、真夏の晴天下でも60~80℃であると言われており、軟化・溶解点には到達しない。なお、実際の現場では、アスファルトルーフィングが瓦材裏面に付着していた例もあるが、そうなったのはアスファルトルーフィングの表面に粘着性が生じたことが原因と推察されるため、逆に連続性が保たれている証であるとも言えよう。

これらのことから、屋根塗装の塗膜が建物延命に直接寄与すると言うことはできず、直接的効果は美観向上に限定されると考えるのが妥当である。

日本の外装メンテナンスは、予防が主体である。かたや医療の世界では予防より治療に重点が置かれている。例えば、日本人の死因の第一位である癌に対するアプローチは、言うまでもなく「早期発見、早期治療」である。予防医学も進歩しているが、予防しきれないから治療に重きを置いているのである。医療の中心が治療であるのに、塗装業界が予防で万能とするのには無理がある。

ここまで、一般的に言われている塗装の様々な効果が真実と異なることを述べてきたが、反面、塗装によってしかもたらすことのできないすばらしい利点がある。

塗装は、言うまでもなく塗料を塗って色を付けていく行為であり、屋根塗装においては、下塗り1回、上塗り2回の計3回塗る工程が一般的である。専門工事27業種の中で、これほど対象部位を余すところなく何度も触れてゆく工種は他にない。

もし対象のある部位に不具合が発生していれば、職人でなくとも、様子の違いにはほぼ必ず気づく。すなわち、塗装は不具合発見のための合理的手段になり得るのである。これは建物に対する「人間ドック」に相当する行為である。これこそが、医療行為における早期発見・早期治療と同様の意味をもたらす。

屋根は建築物において、最も雨を受ける部位である。建築物の維持延命を図る上で、不具合を早期に見つけることのメリットは大きい。しかも、雨水浸入が建物の耐久性を損ねる大きな要素であることから、雨の影響が大きい部位ほど、早期発見の効果も大きくなる。このことこそが、私が考える、屋根塗装の最も大きな意義である。

その観点から、私が屋根塗装を定義し直すのであれば、「最も雨を受ける部位において、その不具合を精緻に見つけ出すことができる合理的手段」となるのである。