鈑金塗装作業における熟練者と非熟練者の違いを研究する大阪産業大学准教授の高井由佳氏は今年2月、コンピューターグラフィックス(CG)で再現した車体を使い塗装ムラを見つける練習ができるアプリ「リペア ペイント チェッカー」のアプリストアでの無料展開(iPhone、iPad対応)を開始した。ボカシ塗装の仕上がりに関する非熟練者の確認・評価の技能向上が目的だ。
高井氏は、体を使って作業を行う伝統工芸分野などの職人を対象に、カメラやセンサーなどを駆使して技術を解析したり、技術継承方法を検討したりすることを研究テーマとしている。その対象分野の1つとして自動車車体修理における鈑金塗装があり、上塗り作業における熟練者と非熟練者の動作の違いの可視化などに取り組んでいる。
高井氏は研究の動機を「現状、自補修の現場では作業マニュアルが作られていないことが多い。大抵の場合、熟練者が個人的に培ってきた勘やコツといった暗黙知を実際の作業を通じて学ぶ形の技術継承が行われている。これに対し、熟練者の作業を解析して言語化・マニュアル化する形式知化を実現すれば、非熟練者がより技術を習得しやすくなり、自補修産業の技術継承に貢献できると考えている」と説明する。
これまで高井氏は、日本自動車車体整備協同組合連合会などと協力し「鈑金塗装技術の形式知化」を目的に鈑金塗装の熟練者と非熟練者を対象とするデータ収集を2回にわたり実施している。
具体的には、頭や肩などの体の要所にマーカーを貼り付けてその部分の動きを追跡する「光学式3次元動作解析」や、スプレーガンの握る強さを測る「把持力測定」など、定量的評価を可能にする技術を使い熟練者と非熟練者の作業で何が違っているかを解析した。
その結果、上塗り作業では熟練者は頭や肩の動き(傾き)が少なく、立ち位置も変わらないことが判明。目線の変化を極力抑え、体の負担もできるだけ少なくする動きが身に付いていた。
また、熟練者はスプレーガンの移動速度が非熟練者より顕著に速かった。かつ、ワーク形状に合わせて手首を曲げるなどスプレーガンと対象の距離を一定に保つ工夫を行っていた。更にスプレーガンの握り強さについて非熟練者は「握り過ぎ」の傾向があった。
これらについて高井氏は「熟練者は素早くガンを動かして膜厚を微調整しつつ、ワークの端部では力を抜き、手首を使ってワークの形状に追従していた。これらは塗料の無駄を減らすためで、実際、熟練者と非熟練者では熟練者の方が塗料の使用量が少なかった」と解析する。
こうした研究を通じて分かったことについて「熟練者は年齢や体形、体格などの個人差があっても体の使い方に共通の要素がある。そうした要素は塗料の使用量をより少なくしたり、仕上がりをきれいにしたりといった塗装のクオリティアップにつながっている。つまり、非熟練者が熟練者の技術を継承することは、所属する会社ひいては自補修業界全体の顧客満足度向上に結び付くのではないか」とまとめた。
塗装ムラ発見のコツをアプリで
高井氏は最新の取り組みとして、CGの車体のドアから塗装ムラを見つけ出すアプリ「Repair Paint Checker(リペア ペイント チェッカー)」を開発し、この2月からアプリストアでの無料展開を開始した(二次元コードのリンク先でダウンロード可能)。現在はiPhone、iPadに対応。
開発のきっかけは、ボカシ塗装について非熟練者の仕上がりは熟練者から見ると「クライアントのクレームにつながる可能性がある」との評価を受けがちなこと。原因は、修理後の塗装ムラの確認と評価が適切でないからだ。
熟練者は修理箇所から一定の距離を取った上でさまざまな角度から確認を行っている。一方、非熟練者は修理箇所に近づき、その周辺だけに注目する傾向がある。このため車体から離れた際に浮かび上がるムラに気付くことができない。
アプリを起動するとデバイスのカメラが立ち上がり、AR(拡張現実)技術によりカメラ内の現実の風景の中にCGの車体が出現する。この車体の前後4つのドアそれぞれに1つずつ塗装ムラがあり、その場所をタップすると正解/不正解が判定される仕組み。難易度はEasyとHardの2種類ある。
車体に近づき過ぎても、真正面から見ても塗装ムラは見つけにくい。現実の確認作業と同じように「適切な距離を取り」「角度をつけて」見る感覚を養うことが狙いだ。塗装ムラの出現位置や形状はランダム。車体色はシルバーのみで、これは「シルバーができれば他の色にも対応できる」との熟練者のアドバイスがあったため。
「このアプリで塗装ムラを見つけるのがうまくなると、実際の車体でも見つけやすくなるかの検証が今後の研究テーマ。現在、協力してくれる企業などを探している」と高井氏は業界との連携を希望している。




