「ワクワクした気持ちで仕事に臨める会社にしたい」と話すのは、工業塗装会社・Kurosaka(本社・京都府綴喜郡宇治田原町)の黒坂俊之社長。数年前、社員の大量離職をきっかけに主力取引先だった自動車部品塗装からの撤退を決断する。以降、設備投資と合わせてキッズルームの開設、社員食堂の充実化、遊び時間の共有などの社内施策に注力する。選んだのは、人を基点とする新たな経営のかたち。社員のマインドに着眼した取り組みから好循環を生み出す同社を追った。
金属焼付塗装を主力とするKurosakaの設立は1965年。京都市内で創業し、現在の宇治田原工業団地に移転したのは1990年。2024年には、ベトナム法人設立のタイミングで黒坂塗装工業所からKurosakaに商号を変更。昨年、創業75年、設立60年を迎えた。現在、約40名の従業員が勤務する。
カチオン電着、粉体、溶剤の塗装設備を揃え、創業以来、新車用自動車部品塗装を主力に手堅く展開してきたが、2015年に転機が訪れる。「一度に8名の社員が退職した。従業員数が多くない当社において大きなショックだった」(工場長・中山孝信氏)と話す。
休日の少なさや有給休暇の取りにくさが理由だったが、部門間で異なる労働時間の違いも不満の温床になっていたという。特に自動車関係においては、品質とコストに対する要求が年々厳しさを増していた時期。会社としてもオーバーワークの環境が従業員の心身的負荷を高めていたことを再認識する機会となった。
そこで同社は、少量多品種に特化した高効率工場にシフトするため自動車関連の撤退という苦渋の決断を下す。ピーク時で売上の約6割を占める主力取引先との関係を切ることにリスクもあったが、会社の将来性や現場の状況を鑑みてやむなしと判断した。
そして取引関係の見直しと並行して行ったのが福利厚生を含む職場環境の改善。2020年に子連れ出勤を可能にするキッズルームを設置した他、2022年には「温かいご飯を食べてもらいたい」と社員食堂改め"Kurosaka Kitchen"をオープン。給食会社から提供される食材を使ってパート社員が調理するスタイルで毎日2種類のメインメニューから選んで食べられるようにした。その他、さまざまな施策を講じた。(以下実施例)
・トイレ、休憩室のリニューアル
・菓子自販機の設置(菓子は社長・専務が購入し格安で販売)
・完全週休2日制の導入(年間休日125日)
・リフレッシュ休暇(連続4日)
・アニバーサリー休暇(年3日)
また社内活動も積極化し、卓球や畑作業、筋トレなど仕事と関係ない時間を過ごす委員会活動(週1回朝30分)を実施。社員が輪番であいさつする全体朝礼も始めた。
これらの取り組みに共通するのは、社内コミュニケーションの活性化。スタート当初はギクシャクした雰囲気に包まれるが、世代、部署間を越えた交流が自ずと生まれるようになっていった。「慣れるまで続けることが大切」と黒坂社長。ひるまずやり抜く忍耐力をポイントに挙げた。
採用が好転、顧客も多様化
こうした社員に向けた改善策は、徐々に事業面においても成果を生み出していく。
1つは採用力向上。若手のエンジニアを採用した際、とある職業訓練校の講師が受講生に積極的に同社の入社を勧めてくれていることが分かった。同社とその講師とは見ず知らずの関係だったが、何らかの形で同社を知ったのだろう。最寄り駅から車で約30分と決して通勤に恵まれた立地ではないが、一連の取り組みにより求人で苦労することはなくなったという。
また自動車関連からの撤退で懸念された生産量の減少においても「ピンチになると不思議に良いことが起こる」と抜けた穴を埋めるように既存顧客や新規顧客からのオーダーが相次いだという。以来、自販機、道路資材、鉄道車両、自動車パーツ、室外機、鋼製家具、建機など業種分野も多岐にわたり、経営の安定化につながっている。
そうした好循環を生み出す背景には、効率化、品質向上に向けた積極的な設備投資に加え、人材と社内コミュニケーションを優先した会社づくりが根底を支えている。「我々の時代とは職業観も働き方も全く違いますね」と黒坂社長。職人社長らしく手短に昼食を済ませ作業に戻った。








