「第28回全国建築塗装技能競技大会」(主催:日本塗装工業会)が9月10・11日の2日間、北海道立総合体育センター「北海きたえーる」(札幌市)で開催された。今回は全国の各ブロックの予選を勝ち抜いた38名の塗装技能者が出場し、内閣総理大臣賞は天坂恭介氏(たの塗装工業=北海道)が受賞した。北海道代表の同賞受賞は、前回2023年の新潟・長岡大会に続き2大会連続となった。
塗装の魅力や可能性をアピールする真剣勝負の場に位置づけられる同大会。昭和43年の第1回以降、隔年で開催され、途中コロナ禍の中止に見舞われながら今回で28回目を迎えた。
開会式では、加藤憲利会長、稲葉了大実行委員長、松田勝巳技能委員長が登壇した後、北海道代表の天坂恭介氏が選手宣誓を務めた。
加藤会長は「本大会は競技という名称こそ付いていますが、相手を倒す勝ち負けを争う競技ではありません。忙しい中、あるいは疲れている中にも関わらず、大会に向けて一生懸命に特訓し、磨き上げた技を今日、明日と遺憾なく発揮して頂くことを願っています」と選手にエールを送った。
毎回、会場は息をのむほどの緊張感に包まれるが、代表選手の心持ちはそれぞれ異なる。選考方法、基準は各ブロックに委ねられているためだ。表彰獲得を目指す選手、腕試しに臨む選手、モチベーションアップとして支部から送られた選手など、同じ一級建築塗装技能士ながら年齢、キャリアはさまざまだ。
ただ、選手に課せられた実技課題を規定通りにかつ時間内にこなすのは、卓越した技能なしでは臨めない。1分、1秒を無駄にできないハイレベルな課題に、選手たちは日頃積み重ねてきた"技"を披露した。
使用刷毛を統一、色見本板も増加
今大会の実技課題は、A課題(つや有合成樹脂エマルションペイント刷毛塗り仕上げ)、B課題(可とう形改修塗材E仕上げ)、C課題(内装用水性特殊多彩意匠仕上材仕上げ)、D課題(自由課題=商業施設、オフィスビル、住宅用マンションなどのエレベーターホールの壁面創作)の4つと色見本板を製作する調色実技の計5つ。
長方形の額縁付き木製パネルに塗装を施すスタイルは前回と同じだが、技能の公平性を確保するため今回初めて刷毛や副資材を統一した。刷毛は大塚刷毛製造の化繊刷毛「伝承」を選手に支給。また技能の違いをより明確化し、現在の実状と即した課題にするため、前回大会から変更を加えた。主な変更点は以下の通り。
①A課題のパネルサイズの高さを他の課題と比べて20cm拡大(幅900×高さ1400mm)②B課題の上塗りに調色を追加(A課題の3色と合わせ計4色に変更)③B課題の下塗り材を単層弾性から微弾性フィラーに変更④調色(色見本板作製)を3つから4つに増加。
刷毛に関しては、これまで選手の持ち込みを可能にしていたが、「大きな刷毛で、長いストロークでしっかりと塗ってもらいたい」(松田勝巳技能委員長)と難易度をより高めた。C課題の塗料には、日本ペイントの「パーフェクトインテリアEMO」が採用された。
選手には自由課題以外、それぞれの課題にサンプル見本が示されており、選手たちは見本に倣った仕上げが求められる。A課題は、製図の正確性と調色に直線と曲線が織り交ざった細かな部分の刷毛塗りが求められる。B課題は、パネル上部に設置された円柱形の"日塗装ロゴマーク"を養生しながら美しいさざ波仕上げを要求。C課題は、右上から左下に多色模様を流す意匠仕上げ。入り隅部の処理に技能を求めた。
乾燥の見極めが勝負分ける
大会初日となった9月10日(木)10時40分。緊張感に包まれる中、笛の合図で選手は一斉に養生作業に取り掛かった。
床養生からパネルの養生と手際良く作業を進める姿が印象的。事前の練習で一瞬たりとも気を緩められる時間がないことを把握しているためだ。養生後は、4つの木製パネルに塗装を進めていった。
課題完成に与えられた時間は、初日6時間(午前2時間、午後4時間)と2日目2.5時間(午前のみ)の計7時間半。鍵となったのは、初日午前の2時間。開会前、ある選手は「初日午前中の2時間でパネル塗装、パテ付けまで終わらなければ、残りの時間を考えても完成に間に合わない」と話す。昼休憩を乾燥時間に充てることができれば午後からの作業を円滑に進められると見ているためだ。
実際、今大会では乾燥の見極めが勝負を分けたという。競技初日の札幌市の最高気温は27.2℃。会場は空調を効かせた環境だったが、普段と異なる地域、現場環境における乾燥の見極めに選手は判断を迷わせた。
特にA課題は、パテ付け→シーラー後、鉛筆を使った製図作業が必要となるため、乾燥が甘いと下地を引っ張る危険性がある。選手たちは、それぞれの課題に潜むリスクをケアしながら、全員が時間内に課題を完成させた。
北海道勢が快進、次回は山形開催
今回、最優秀賞となる内閣総理大臣賞を受賞した天坂恭輔氏は、キャリア21年の40歳。大会出場に際し、8月からの1カ月半、ほぼ毎日8時間程度を練習に充て、技を磨いたという。
事前練習については、「まず課題1つずつのクオリティを高めることから始めました」とコメント。時間内に終えるための段取りや工程確認に細心の注意を払いながら、仕上の精度にとことんこだわった。実技課題の難しかった点について天坂氏は「乾燥の見極め」を挙げた。
一方、天坂氏の快挙の影に北海道支部の強力なバックアップがあることも分かった。
前回の2023年新潟・長岡大会で北海道支部の松田剛氏(丸正マツダ塗装)が内閣総理大臣賞と部門賞3つの4冠を達成。「この受賞により技能大会に対するモチベーションが一気に高まった」(同支部)と今大会も強い意気込みで臨んだという。
北海道支部では、本大会の出場権をかけた全道大会を予選として実施しており、今回15人の中から3人を選抜。更に大会前には、代表選手で合宿も行った。その甲斐もあり、鈴木稔一氏が北海道知事賞、石山泰史氏が札幌市長賞を受賞し(下の表参照)、天坂氏を含む北海道代表選手3名すべてが褒賞を受賞する快挙を成し遂げた。
閉会式であいさつを述べた加藤会長は「今大会で新しいページを作ることができました」と大会の成功を報告。続けて「今回、2人の女性技能者が出場しましたが、今後もっと増やしていきたい。出場された皆さんも憧れや目標にされる存在として頑張って頂きたい」と述べた。次回2027年は山形県での開催が伝えられ、札幌大会が閉幕した。












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