"心地良さ"や"華やかさ"、"重厚感"など木目デザインが人に与える影響を可視化する。床材やドア材に木目柄化粧シートを提供するTOPPANは今年1月、木目感性評価システム「MOKUMETRIX(R)」(モクメトリクス)を開発した。意匠開発やマーケティングに生かせるとして建材メーカーやハウスメーカー、設計関係などから引き合いが増加。料金体系も整備し、商品開発やマーケティングの支援ツールとして利用を呼び掛けている。
新聞、雑誌の印刷会社で知られるTOPPANが建材用化粧板の製版、印刷を開始したのは1956年。その後、国の住宅拡大策や高度経済成長で一気に市場を広げ、今や床、ドア、キッチンなど内装材のほとんどに化粧シートが使われている。「マンションの約9割に木目柄の化粧シートが採用されています」(同社環境デザイン事業部・大鋸泰斗氏)とマンションに限らず、戸建て住宅、商業施設、公共施設と需要領域を伸ばしている。東京都台東区にある秋葉原事業所には、そうした木目柄シートの変遷を示したショールームを設置。時代によるトレンドの変化やディスプレイと複合した内装材など最新技術に触れることができる。
化粧シートの開発は、まずは天然木の買い付けから始まる。それからカメラ撮影→スキャニング→画像レイアウト→木目柄の調整→最終仕上げ→シート印刷の工程。すべての工程に熟練かつ専門技術が凝縮されている。
「天然木の目利きに始まり、撮影・スキャニング技術、木目柄の選定、色・艶感の調整など、本物の木を超えるデザイン開発に我々の技術が投入されています」と大鋸氏。「天然木の個性をどう引き立てるか。市販のDIY用塗料も含め、さまざまな塗料を使ってデザインを開発しています」。毎年、約700柄を新柄として市場に投入しているという。
開発効率化とニーズ対応を両立
常に刻々と変化する市場トレンドに対応するために新柄開発は欠かせない。しかし、世に出ないまま消えた木目柄は、商品化された柄の何倍にも及ぶ。当然、多くの関係者とのプロセスを経た結果だが「誰かの声に引っ張られることはなかったか」「誰もが納得できるプロセスを経ていたか」「市場ニーズを捉えたものだったか」などの疑義がつきまとう。モノづくりすべてに共通する課題とも言える。
こうした開発及び製品化における感覚的な要素を見える化したのが「MOKUMETRIX(R)」。木目柄が人に与える印象など複雑な感性評価を定量化し、傾向を詳細に分類できるようにしたのが特徴。長年の事業で蓄積したデザインなど3万件を超えるデータを取り込み、AIを使って瞬時に判定できるようにした。
仕組みとしては、木目柄画像をシステムにアップロードするのみ。すると「Standard=普遍的な」「Stylish=スタイリッシュ」「Chic=重厚」「Elegant=上品」「Natural=自然」「Gently=やさしさ」の6つの分類で傾向を判別する。
また、より詳細に感性評価を判別するため、15項目による感性評価に落とし込むことが可能。合わせて16項目による木目特徴量の定量化も可能にしており、デザイン開発の指標として活用できるようにした。
更に年代、性別、経験値、樹種と属性による感性評価を可能にし「同じ木目柄であっても年代によって感じ方は違う」と大鋸氏。「メーカーや販売に従事するプロは、一般消費者より各項目で感性評価が低く出る傾向がある」と新たな"気づき"をもたらしている。
「MOKUMETRIX(R)」の利用者として見込むのは、木目柄建材に関わる開発部門、マーケティング部門、営業部門など。開発部門においては、よりターゲットを具体化した製品開発に着手できるとして開発期間の短縮や効率化が期待される。またマーケティング、販売部門においては、既存商品を含めた新製品開発、カテゴリー分け、プロモーションの強化に貢献。「商品ラインアップの整理に活用されたケースもありました」とアイデア次第でさまざまな利用法が想定される。
サービスの運用としては、顧客から提供された画像を「MOKUMETRIX(R)」で評価し、レポートとして提供する。利用料は、月30万円~(画像10枚)。既に取引先の建材メーカーなどが利用を始めている。
元々は、社内利用を目的に開発したシステムだが、数年前に「C-lab.」を設立。調査、分析力を生かしたソリューションサービスに新たな可能性を広げている。