日本塗装技術協会(会長・工藤一秋氏)は、9月12日(金)、日本ペイントホールディングス東京事業所センタービルにて「第9回プロフェッショナルセミナー」を開催した。同セミナーは、1つのテーマの深掘りをコンセプトとする形式が好評を博している。今回は、大気社の塗装システム事業部開発統括部の吉岡秀久氏(写真)による講演「カーボンニュートラルの実現に向けて~塗装システムにおける現状と将来の方向性~」を実施。塗料メーカー、自動車メーカー、化成品メーカーなど45社80名が参集した。
2035年に前倒しでCN実現
ビル空調・産業空調を扱う環境システムおよび塗装システムを事業の柱とする大気社。自動車塗装プラントでは、日本はもちろん、アジアやアメリカの自動車メーカーからも受注を獲得しており、世界トップクラスのシェアを持つ。
「自動車製造工程のCO2排出量の内訳では、塗装工程が28%と概ね3分の1を占めています」と吉岡氏。「関係業界の皆様と協力し、塗装のCO2削減を加速させ、その技術をグローバルへ、また他の産業へと広げていければ」と口調に熱意を込めた。
同社では、CO2削減効果の可視化のため、自動車塗装ラインのエネルギー試算モデルをもとに自動車1台当たりの塗装におけるCO2排出量を推計する取り組みを継続。「2005年の試算モデルでは160.1kg-CO2/台なのに対し、2023年のモデルでは53.6kg-CO2まで低減できています」と胸を張った。今後もCO2削減に力を尽くす方針だ。
日本政府は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラル(CN)の達成を目標としているが、同社では塗装システム事業におけるCN達成を2035年に前倒しする計画を掲げている。
この実現に向け、自動車塗装分野における技術革新の3本柱を設定している。「1つ目の柱は『徹底した省エネ技術によるリーンな生産工程の実現』です。達成のための1番ピンは塗着効率向上と低温化であり、CO2削減とランニングコスト削減の両立が必要です」と強調。なお、塗着効率の最終目標は100%で、低温化のゴールは乾燥炉レスとのこと。
2つ目は「国別での効率的なエネルギー転換」。エネルギーインフラや調達コストは国により異なるため、電化を進めるのが良いのか、または水素活用の推進が適しているのかといった見極めが必要となる。「国や地域ごとの最適なエネルギー転換に対応した技術を適用していきます」と説明。
3つ目は「抜本的な塗装代替技術」。従来のスプレーによるウェット塗装に代わる技術として、車体パーツにプラスチックフィルムを真空圧空成形技術で組み合わせるドライ加飾や、ツートンフィルムの自動貼り付けといった技術の開発を進めている。
水素バーナーのテストを実施
吉岡氏は、第1の柱の実現に向けたさまざまな取り組みを説明する中で、今後の注力事項としてIoT&AIを活用したデジタルツインの推進を挙げた。
一例として、仮想空間と現実空間との間で情報を循環させる取り組みがある。BIM(Building Information Modeling)やシミュレーション、エミュレーションといった技術を活用して顧客の生産ラインを仮想空間で再現し、そこで取得したデータを現実空間にある実際のラインにフィードバックする一方、同社の生産管理システム「i-Navistar」との連携により、実際のラインのリアルタイムデータをサイバー空間に反映させるという仕組みだ。
また、第2の柱の具体例として、塗膜乾燥炉の熱源の主流であるガスバーナーについて、電気ヒーターやヒートポンプ、水素バーナーへの置き換えによるCO2削減を進めていると説明。
水素活用については、水素を再生可能エネルギーを用いた水の電気分解で製造するグリーン水素を用いるのが理想的だが、製造コストが14円/MJと高いことがハードルになっているという。
こうした現状を変えていく方法を模索し、将来的な水素バーナーの実用化の可能性を検討するため、同社では、複数のメーカーの水素バーナーに対するさまざまなテストを実施している。
ドライ加飾システムのデモライン稼働
第3の柱の軸となっているのが、印刷によって塗膜を形成したフィルムを成形済みワークに真空圧空成形で貼合するアウトモールドデコレーション(OMD)ドライ加飾システムだ。
「これまでの技術では対応が難しかった色彩・質感の付与が可能であり、かつ、従来のウェット工程に比べ大幅なCO2削減効果が見込めます」と力説。
2024年11月には、神奈川県座間市の同社テクニカルセンターにて、OMDドライ加飾システムのデモラインの稼働が開始した。バンパーやエンジンフードの生産を想定し、フィルム貼合、フィルム硬化、トリミング、端材回収といったプロセスが組み込まれており、2025年1月からは顧客のワークおよびフィルムのテストに対応。開発が着実に進展していることを印象付けた。
講演の最後、吉岡氏は「美しい地球を守るために、皆さんの力を結集し、新技術の開発を進めていきたい」と締めくくった。