零細塗装店、打ち放しの再現塗装で起死回生

建設業界の重層下請構造の末端でもがき苦しんでいた塗装店が、飛躍のきっかけをつかんだのは特殊塗装への進出だ。中でも、打ち放しコンクリートの再現塗装の分野で一目置かれる存在になり、仕事がひっきりなしに舞い込むようになった。横浜市の塗装店・藤工業の安藤太郎社長(写真)は、「私たちの仕事は、"表現"という答えのない答えを探して旅しているようなもの。だからこそ、ずっと追い求められる」と、終わりのない旅を続けている。

 


所帯は小さいながらも、「私のひい爺さんが始めた」(安藤社長)という老舗の塗装店。途中紆余曲折があり、安藤社長の父親の先代が現社名の藤工業として再興、創業から数えると自身は4代目になる。

塗料や塗装用具、出入りする職人など生まれたときから「ペンキ屋の世界」で育ち、高校卒業と同時に「自然な成り行き」で家業に入った。早くに結婚をし、子供も授かっていたことから、「まわりの職人さんに食らいついて、必死に仕事を覚えた」。

ただ、同社の当時の立場は、「孫請け、ひ孫請けなんてまだ良い方。ウチなんか玄孫(やしゃご)かそれ以下での仕事が多かった」と、建設業界の重層下請構造の末端に位置し、「まともな単価の仕事なんてなかった」と零細企業の悲哀を味わった。おまけに、「身内だった人物が独立したときに客先と職人を引き連れていき、会社の存続さえ危ぶまれる状況に。あのときが人生でどん底だった」と逆境が続いた。
 そんなときだった。「これだ!これしか生き残る道はない」と新たな塗装の世界に出会ったのは。"打ち放しコンクリートの再現塗装"の世界だ。

想像超える表現力で圧倒

コンクリートの素地のままに仕上げた打ち放しコンクリートの建物。力強く現代的なデザインが好まれる一方で、経年劣化や汚れが目立つなどの欠点もある。それを、元の素地の風合いに塗装で蘇らせるのが、打ち放しコンクリートの再現塗装だ。デザイン性が肝の建物だけに一定の需要があり、"リアルな表現力"が勝負所になる塗装の世界が広がっている。

藤工業が窮地に立っていた頃、とある現場の応援に出向いたときに打ち放しコンクリートの再現塗装の場面に出くわした。17年ほど前のことだ。「資本がなくても、自分の腕一本で這い上がっていける世界。会社の窮地を脱するにはこれしかない」と直感、先代を説き伏せ事業に乗り出した。

そこから技の追求が始まった。コンクリートのリアルな風合いを出すためには、どんな道具をどのように操ればいいのか。本物のコンクリートをつぶさに観察し、道具を自作し、塗料の色や粘度や含ませ具合、模様付けの叩き方など試行錯誤しながら来る日も来る日も練習を重ねた。

「言霊(ことだま)という言葉があるように、『この仕事で現状を打開し、未来をつくる』との思いを事あるごとに口に出しているうちに、ポツポツと仕事が入り始めました。そして、1つの仕事の出来ばえが次の仕事を呼ぶ形で案件が増え、何とか軌道に乗せることができた」と安藤氏。コンクリートの再現塗装というニッチな分野だけに同社の仕事の出来が評判で広がり、受注が拡大、会社のピンチを救った。この間、先代からのバトンを引き継いで社長に就任、「この世界ではどこにも負けない職人集団」を目指し、歩を進めた。

現在は、打ち放しコンクリートの再現塗装工法「G-PFシステム」で躍進している塗料メーカーのピアレックス・テクノロジーズの仕事をメインに数社の元請先から受注、多忙な状況が続いている。「ピアレックスさんは若い社員さんが多く、伸び盛りの元気な会社。私たち協力施工店とのコミュニケーションも密で、『一緒に成長していこう』とのベクトルが心地いい、応援したくなる会社」と信頼を寄せている。ピアレックス社への技術的な協力も惜しまない。

打ち放しコンクリートの再現塗装から始まった特殊塗装への挑戦は、エイジングやコールテン鋼の錆の表現、アーティスティックな柄や模様の塗装など表現力に磨きがかかり、設計やデザイナーからの直接指名で現場に入ることも多い。

「この仕事は、設計士やデザイナーさんの頭の中にあるイメージをいかに具現化できるかがポイントですが、そのイメージをも超える表現力で"感動"を提供できたときのカタルシスがこの仕事の醍醐味。私の原動力になっている。"表現"という答えのない抽象的な仕事だからこそ、答えを探す面白さにハマれば本当に充実した仕事になる」と安藤社長。

抱えていた職人を引き抜かれて会社存続のピンチにあえいでいた同社に、今の藤工業の仕事に魅せられた職人が集まり、安藤社長のもとで腕を磨いている。「答えを探す面白さに気づいたほうが、彼らもきっと幸せな仕事人生を送れる」と、あえて技術的な指導は行わない。表現力だけでなく、「現場での機動力、現場を納める力はどこの会社にも引けを取らない」と頼もしさを感じている。

「職人という生き方は、きっと最後まで答えを探す旅を続ける生業なんだと思う。そうした価値観を共有できる職人集団を育て、ともに歩んでいきたい」と前を向く。



安藤太郎社長
安藤太郎社長
打ち放しの表情は人気だ(写真はイメージ)
打ち放しの表情は人気だ(写真はイメージ)

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